「IT人材不足」という言葉を耳にしたことはあるだろうか。

経済産業省が発表した「IT人材需給に関する調査」によると、IT関連市場規模の拡大に伴い、2018年を基準として2030年までIT人材の不足は年々増加すると予測されており、2030年には最大約79万人のIT人材が不足する見込みであるとの報告も行われている。

そんなIT人材不足が叫ばれる現代で、若手のIT人材として活躍するさまざまな人材を紹介するのが本連載。

連載の第1回目となる今回は、サントリーウエルネス サービス事業部の相川英氏の活躍にフォーカスする。

  • サントリーウエルネス サービス事業部の相川英氏

相川英

サントリーウエルネス株式会社 サービス事業部


2022年薬学系研究科修士課程修了。ショウジョウバエを用いた栄養と寿命の研究に取り組む。


同年4月サントリーHDに新卒入社。サントリーウエルネスDX推進部配属を経て、2023年1月よりサービス事業部。会員向け無料アプリ「Comado」の集客に取り組んだのち、レコメンド機能の導入推進を担当。ユーザー1人ひとりに合わせたパーソナライズドレコメンドを目指す。

健康行動促進アプリ「Comado」

相川氏は、2022年4月にサントリーホールディングス入社し、同社の100%子会社として健康食品やサプリメント、化粧品などを扱うサントリーウエルネスのDX推進部への配属を経て、2023年1月よりサービス事業部で業務に従事している。

同氏の所属しているサントリーウエルネスのサービス事業部では、顧客のウエルネスを支えるために生まれた会員向けサービスである「サントリーウエルネスクラブ」を運営しており、その中でも相川氏は、フィットネスや歩数など体と心にアプローチしたサントリーウエルネスクラブ会員限定の無料アプリである「comado」を担当している。

「サントリーウエルネスは、セサミンやロコモアといった健康食品やサプリメントといった『モノ』を扱う企業でしたが、商品を売るだけではなく、デジタルを活用したお客さまと双方向のコミュニケーションで1人ひとりのウェルビーイング実現に貢献したい、という想いから、2023年9月に『サントリーウエルネスクラブ』および『Comado』をローンチしました」(相川氏、以下同氏)

  • 普段の業務内容を語る相川氏

    普段の業務内容を語る相川氏

Comadoは、会員向けの無料の健康行動促進アプリでは、専門機関監修の「いつもより長く歩く」「朝ごはんを食べる」といった、生活の中で簡単に取り組める健康行動の習慣化をサポートする。

また、プロのインストラクターが監修した、家の中で5分からできる簡単なフィットネスレッスンの配信や、体の健康豆知識から心の健康を満たす旅行や趣味の情報をまとめたコンテンツなど、大手フィットネスクラブや映像制作会社といったパートナー企業との協業で制作された「健康習慣」「フィットネス」「雑誌読み放題」「情報メディア」という4つの機能を有している。

  • comadoのイメージ

    comadoのイメージ

相川氏はこの「Comadoの中の人」として、主に「レコメンド機能」の開発にあたっているという。

「Comadoは、健康行動促進のための健康情報に関する記事やフィットネスの動画などを提供しているアプリなのですが、現在はユーザーが自分の手で自分に合う内容のコンテンツを探さなければならない仕様になっています。そのため、私はユーザーに合った内容をレコメンド機能の実装を目指すプロジェクトの推進を行っています」

具体的には、機能実現に必要なことの整理や関係者との認識合わせなど多岐に渡る。直近では、初期モデル検証に必要な起案の準備や分析チーム・開発チームメンバーとの1on1を行う1日を過ごしているという。

  • 相川氏の1日のスケジュール

    相川氏の1日のスケジュール

薬学の道からIT人材へ

このように若手のうちから活躍する相川氏だが、学生時代はITとは縁の薄い「薬学」を専攻していたという。

「学生時代の専攻は薬学系で、ショウジョウバエを用いた栄養と寿命の研究に取り組んできました。薬学部だったものの6年制の薬剤師コースの定員が少なく、基礎的な研究の雰囲気が強い環境でした。修士就職を決めてからは、専門の基礎生物学と関連のある業界として食品業界や製薬業界を志望していました」

順当に行けば研究職で就職することが多そうな経歴だが、相川氏はなぜITの世界に飛び込むことにしたのだろうか。

それは、大学院で自身の研究を進める中で、実験をしている最中よりも「研究テーマを考える」や「仮説をベースに実験を考える」というフェーズに楽しみを見出すことが多かったから、というのが大きな理由になっているという。それらのプロセスに近いものがありそうで、さらに専門性がつくのは楽しそうという理由で、ITの専門職を志望することにしたという。

そんな同氏は、デジタル&テクノロジー領域のプロフェッショナルとして成長し、デジタルを活用して事業変革、事業拡大、新規事業創造をしたい学生向けの選考であるサントリーホールディングスの「デジタル&テクノロジー部門」で選考を経て入社した。

同選考コースは、デジタルマーケティング・UXデザイン・プログラミング・データサイエンスなどを学んだ経験、もしくは学ぶ意欲のある学生が対象となるもので、「DX戦略企画」「デジタルマーケティング・UI/UX/サービスデザイン」「ITエンジニアリング」「データサイエンス・AIエンジニアリング」「先端技術リサーチ/エンジニアリング」といった分野の職種が用意されている。

特にサントリーウエルネスは、DX専門組織・サービス専門組織・各ブランド(商品)が一体となってサービスマネジメントを行うことで、顧客に提供する価値を最大化するというという考えの下で新卒のみならず中途のDXプロ人材の採用に力を入れている。

2021年3月に「ビジネス部門とIT部門の受発注の関係ではなく、ビジネスを深く理解した社員が、ビジネス部門と一体となりDXを推進する」ということを目的に「DX推進部」が創設されたほか、2023年1月には「最高の体感・顧客体験を実現するため、『デジタル×アナログ』による顧客施策を推進する」という目的のもと、相川氏が所属する「サービス事業部」が新設されるなど、組織改革もここ数年で一気に進んだ。

今後は「データサイエンス」にも挑戦

現在は、Comadoのレコメンド機能実装の推進を担当している相川氏だが、今後は「データサイエンス」にも挑戦していきたいと語る。

「現在は、レコメンド機能という機械学習系のプロジェクト推進をしていますが推進する上では具体も自分でできる状態の方が望ましいと思いますし、実際に自分でも手を動かせる人になりたいです。難易度は高いですが、プロジェクトマネジメントも、データ分析/機械学習モデル開発も両輪で担える人材になるのが最終的な目標です」

このような目標を掲げている相川氏だが、入社の決め手として「会社の人の雰囲気やキャリア希望も汲んでもらえそうな風土」というポイントを挙げており、「実際に入社してからも、ミッションへのアサインなどに個人の適性や意思を反映してもらえる機会が多いなと感じています」と語るように、個の適性や志向を尊重する組織でキャリアを積んでいきたい考えだという。

最後に相川氏に今後の目標を聞いた。

「直近のレコメンド機能については、お客さまにできるだけ早くサービスの『価値』としてお届けしたいです。実現に必須なことは何なのかを精査して、最短でローンチを目指しています。プロジェクトを推進していく中でDXの専門性が高い方々からも日々刺激を受けているので、私自身も専門性を身につけられるよう今後も前向きに仕事に取り組んでいきたいです」