「リスキリング」という言葉を聞いたことがあるという人も、近年増えてきただろう。
「リスキリング」は、成長分野の仕事へ就労移行するために学び直すことを指す言葉で、DX(デジタルトランスフォーメーション)に取り組む企業が増えたことや、終身雇用が当たり前という考え方が変化しつつあることからセカンドキャリアを考える人が多くなったことなどを受け、注目されている。
今回は、そんなリスキリングを含めたさまざまな学びを全社的に推進しているサントリーの「サントリー大学」という取り組みを紹介する。サントリーがなぜ社員に学びの機会を提供しているのか、同社の人材開発の背景から見ていこう。
今回は、サントリー大学を担当しているサントリーホールディングス ピープル&カルチャー本部の長政友美氏と植村麻美子氏に話を聞いた。
「サントリー大学」とは
「サントリー大学」とは、2015年4月に開校された企業内大学の名称で、サントリーグループがグローバルに発展していくための人材育成プログラムの総称だ。
グループの社員一人ひとりが学び続け、成長し続けることと、それぞれがキャリアオーナーシップを持つことを目的として開校された。「自ら学び、成長しつづける風土の醸成」「創業の精神の共有と実践」「リーダーシップ開発」「未来に向けた能力開発」という4つの視点から、さまざまな学習機会が提供されている。
「サントリー大学では、階層別の研修や選抜型のプログラムの他、多種多様な自己啓発のコンテンツを用意しています。 また、『グローバル学部』『デジタル学部』、そして2023年4月に新設された『100年キャリア学部』という3つの学部を展開しています」(長政氏)
長政氏が挙げた3つの学部では、それぞれの特色を持った学びを深められる。
グローバル学部では、MySU(サントリー大学のデジタルラーニングプラットフォーム)内に英語学習のプログラムや、グローバルキャリアに関するコンテンツ集約している。
TOEICなどの受検支援といった学習支援が受けられるほか、サントリーグローバル化の歴史やビジネススキル・グローバル経営の基礎理論などを学ぶことも可能だ。
加えて、「グローバルチャレンジ」という、1年間現部署での業務を継続しながら英語や経営リテラシー等を学び、修了後はグローバル系のキャリアへの異動を伴うトレーニングプログラムや、公募によるMBA(経営学修士)取得のためビジネススクール留学など、グローバルな活躍機会の提供も行われている。
中でも特筆すべきは「海外トレーニー制度」だろう。グローバル人材候補の早期選抜・育成に向け、若手社員をサントリーグループの各海外拠点へ派遣しているのだ。
最近では、派遣数が倍増しており、年間約20名超がこの制度を活用して活躍の場を広げているという。そして、現在この海外トレーニー経験者124名のうち、約75%が国内のグローバル事業へ従事しており、中にはトレーニー期間終了後に、そのまま海外駐在に移行する社員もいるそうだ。
サントリーの価値観 「Growing for Good」
2つ目のデジタル学部では、サントリーが求める「デジタル人材」を、デジタルマーケティング人材・IT人材・データ人材の3つに分け、データ活用やITなど、それぞれのプログラムを開発・提供しているという。
そして、3つ目の100年キャリア学部は、新設されたばかりの学部で、特に40代以上の社員が「何をやりたいか」を考えマインドセットを醸成するためのプログラムが充実した学部となっている。
具体的な取り組みとしては、「人生100年時代」はどう変わり、何が必要となるのかを解説するEラーニングを実施したり、地方自治体への出向や社内ベンチャーに取り組むなどの多様なキャリアのミドルシニア層のインタビュー記事を紹介したり、業務外でNPOや地方自治体の人々との交流や協働する体験型プログラムを実施したりと、今後のキャリアのイメージを膨らませるコンテンツが用意されている。
しかし、なぜサントリーは会社内に「大学」という名称で、学びを続けられる仕組みを作ったのだろうか。
「サントリーの大切にしている価値観の一つに『Growing for Good』というものがあります。これは、人として、企業として、社会のために成長し続けること。成長し続けることで、社会を良くする力を大きくしていくことを指しています。それくらいサントリーは、『成長』という言葉を重要視しており、そのために、世界中のサントリーの社員へ『やってみなはれ(失敗を恐れることなく、新しい価値の創造を目指し、あきらめずに挑み続けることを指す、サントリーの価値観の1つ)』の精神で、理念の浸透と成長の機会の提供を行っています」(植村氏)
75部署が参加する部署紹介フォーラム「BUSHOFO」
またサントリーでは、サントリー大学とは別のコンテンツでも自己成長の場を設けている。それが、さまざまな部署や社員との交流により、一人ひとりが自身のキャリアを深く考え、一歩踏み出すきっかけをつくることを目的として開催されている「部署紹介フォーラム『BUSHOFO』」だ。
BUSHOFOは、各部署が業務を自ら紹介する場で、多くの部署の仕事と人について「直接対話」して知ることのできる機会となっている。部署紹介には22年は75の部署が参加し、社員同士の座談会や海外駐在員交流会も行われている。
加えて、「寺子屋」というサントリー大学の学びよりもカジュアルに、主体性を持って学ぶ風土醸成のため「学ぶ」「つながる」「教え合う」をコンセプトとした学びのための社内プラットフォームも設置されている。
学習内容は、業務関連に限らず一般教養も含めた全般で、講義の受講だけでなく、自らが講師として講義を開催できることが大きな特徴となっている。これにより双方向のコミュニケーションで社員がつながり合うことができる。
最後に長政氏に今後の展望を聞いた。
「人によっての学習ニーズは多様化しています。学び方一つとっても、大人数で話し合う方が良いという方もいますし、1人でこつこつすすめる方が集中できるという方もいます。今後は、間違いなく『パーソナライズされた学習体験』が鍵になると考えていますので、グローバル共通で、どこにいても誰でも、自分にとって最適な学びを享受できる環境の整備を進めていきたいと思っています」(長政氏)