こんにちは。今回は連載第6回目となります。この連載では、今さら聞けないCAD関係の基礎知識を、こっそり読んで身につけていただく手助けとして役立てていただければいいなと考えています。

今回はちょっと予定を変更して、基礎的な用語ではなく、最近3D CAD関連の情報を見ているとよく目にするようになった新しい用語について、お話してみたいと思います。

ジェネレーティブ・デザイン

この言葉、最近よくCAD関係の記事などで見かけませんか?例えばマイナビニュースでも以下のような記事でジェネレーティブ・デザインについて言及されています。

・【レポート】ものづくりの革新は「今」起こっている - 注目テクノロジーとオートデスクの今後(2016年11月15日からラスベガスで開催されたAutodesk University 2016のレポート記事)

"ジェネレーティブ・デザインは耐久性や柔軟性、重量などの要件を設定することで、コンピューターがデザインを作り出す技術。設計の効率化だけでなく、形状最適化やラティス構造など人間には思いもつかないような形状の創出につながる点がメリットとされる。"

・【レポート】オートデスク、製造業向け事業方針を説明 - 注目は形状・構造の自動最適化を行うジェネレーティブ・デザイン(2016年4月 最新バージョン Inventor 2017の紹介記事)

"最新バージョン「Autodesk Inventor 2017」ではジェネレーティブ・デザインを利用した設計データを参考にしながらソリッドモデルを編集できる機能を搭載することで、切削加工の生産プロセスでもジェネレーティブ・デザインを活用できるようにしている。"

・【レポート】SOLIDWORKSのシニアディレクターがIoT戦略を説明 - バーチャルツインを実現する新ツールも公開(2016年11月8日に日本で開催された SOLIDWORKS World Japan 2016 のレポート記事)

"「X Design」は要件を与えるだけでそれに応じたデザインが自動生成されるジェネレーティブ・デザインという技術を製品化したもの。"

CADベンダーが最新テクノロジーとして「ジェネレーティブ・デザイン」を提唱しはじめていますが、そもそもこれがどういったものなのでしょうか?

設計で無駄なコストを省く

従来、プロダクトを設計する過程において、部品形状を検討するための基準がいくつかありますが、仕様を満たした上で最小限のコストで作れることが理想的です。部品を作る上でかかるコストは、材料費や加工全般の費用が大きな割合を占めます。

しかし、設計において"良くないが楽である"考え方は過去の経験値により、安全を保つことです。「類似製品で類似部品を設計した時に、それが破壊などの不具合が発生していなかったので、そのスペックで作れば間違いない」という思考です。確かに壊れないかもしれませんが、それが過剰なスペックだった場合、無駄に材料費がかかったり、無駄に重量が増えて製品全体でコストが増えてしまっていたりということが発生しているわけです。

そこで、それを解消するために用いられるのが「設計者CAE」と呼ばれる、設計者が簡単に使用できる解析ツールです。昔は、解析用ソフトウェアは解析専任者が使うものという認識でしたが、この10年ほどで専任者ではなくても簡単に使える簡易的な解析ツールが3D CADに搭載されるのが一般的となり、解析を利用した根拠のある設計を実現してコストを削減する手法が普及してきました。

この解析ツールを使用した手法では、ベースとなる部品形状を考えるのは設計者です。仕様に基づいて設計者が大まかな形状を作ってみて、それを解析する。良くないところが見つかれば、それを解消するにはどのように形状を変えたらよいかを考えて修正し、また解析してみる。この繰り返しで最適と思われる形状に近付けていきます。

ジェネレーティブ・デザインは、その先を行く設計手法です。仕様として守らなければいけない条件のみを指定すれば、最適な部品形状を自動的に算出してくれます。あとは、通常のCAD機能で機械加工できる形状に整えていくだけです。

以下は簡単なジェネレーティブ・デザインのワークフローの例です。

(1) 必要な部品形状より大きめのベース形状と、押さえなければいけない部分の形状を作成します。このサンプルは、穴が他部品と組み付き、さらに回転やスライドも加わります。

(2) 拘束や荷重を、それぞれの種類とともにその箇所を指示し、あとは計算を実行するとこのように最適な形状を提示してくれます。このサンプルは、拘束される穴に「ピン拘束」、スライドする面に「摩擦なし拘束」、もう1つの穴に「軸受荷重」を設定しています。

(3) 提示された形状を元にスケッチを描き、実際に加工できる形状に整えていきます。

このような手法を業務に取り入れることができれば、まずは元となる形状の検討時間が減り、さらに解析検討の繰り返し作業を行う時間も減らすことができるので、大幅な工数およびコスト削減が実現できるというわけです。

ちなみに、(2)の図に示した形状が計算上の最適形状ということになりますが、製造には3Dプリンターを使用するということであれば、この最適形状のまま作るという選択肢もあるわけです。この部品が金属製だとしても、最近は金属を材料として使用できる3Dプリンターも登場していますので、不可能ではありません。製造機械もまた、日々進化しています。

では、次回はまた「よく見かけるけど意味がわかってない言葉、ありませんか?」シリーズで、CAD用語をご紹介する予定ですが、予定変更の可能性もあるかもしれません。お楽しみに!

著者紹介

草野多恵
CADテクニカルアドバイザー。宇宙航空関連メーカーにて宇宙観測ロケット設計および打ち上げまでのプロセス管理業務に従事し、設計から生産技術および製造、そして検査から納品までのプロセスを習得。その後、3D CAD業界に転身し、製造業での経験をもとに、ベンダーの立場からCADの普及活動を行う。現在は独立し、ユーザーの目線に立ち、効果的なCAD導入を支援している。