こんにちは。早いものでもう12月です。師走です。年末です。年内に終わらせたい仕事に奔走されている方も多いことでしょう。

さて。先日ある3D CADに組み込まれている構造解析機能の講師をしました。その際に「メッシュ」について簡単に説明をしたところ、「3Dスキャンしたデータも『メッシュ』だから、CADに取り込んで解析できるんですよね? 」と聞かれました。

なるほど、確かにどちらも「メッシュ」と呼ぶのでそのような発想になりますね、と感心しつつ、きちんと理解していただけるように説明することを心がけていても意外な落とし穴があると思いました。

3Dプリンタが一般的になるまでは、特に機械設計向け3D CADを使用している中で「メッシュ」というと、構造解析で使用するメッシュを思い浮かべました。今でも、3Dプリンタを使用しない人にとって、「メッシュ」は構造解析で使用するものという認識だと思います。

しかし、個人でも使用できるレベルの3Dプリンタが広まるとともに、プリントするためのデータ形式としてSTLやOBJといった「メッシュ」データで出力するということが広く行われるようになり、主にこの2つのシーンで「メッシュ」という言葉が出てくるので、混同する方が出てきているというわけです。

では、各々どのように異なるのでしょうか?

まず、「メッシュ」には「平面」と「ソリッド(立体)」があります。3Dプリントを行う方やCGソフトを使う方が思い浮かべるのは「平面」のメッシュ、構造解析で使ってきた人がイメージするのが「立体」のメッシュです。

平面要素

  • 三角形

    三角形

  • 四角形

    四角形

立体要素

  • 三角形

    三角形

  • 四角形

    四角形

平面要素の三角形や四角形の集まりが、「ポリゴン」と呼ばれるデータです。立体を表現するために、三角形や四角形の頂点どうしを組み合わせています。ここではうさぎの形をしたデータを用意してみましたが、例えばこのようなものです。これは全体が三角形の連続で成り立っています。そして、平面の三角形なので中は詰まっていません。表面のみのデータです。映画やゲームなどのメイキング映像などでご覧になったことがある方もいるのではないでしょうか。

  • メッシュデータの例

    メッシュデータの例

3Dプリントで用いられるSTLやOBJといった汎用データは三角形のメッシュです。四角形のメッシュは、CGソフトでモデリングしたデータに多い形式です。

最近はよく3DスキャナーでスキャンしたデータをCADやCGソフトウェアに取り込んで利用するという作業をされる方が増えていますが、このデータも平面要素のメッシュ状態でCADやCGソフトウェアに取り込んで利用します。

CGソフトウェアは「ポリゴン モデリング」が主流ですが、CGはコンピュータの中だけで完結する世界なので、中を詰まらせる必要がないからだと思います。

一方、ソリッド要素のメッシュはというと、3D CADで作成したソリッドモデルを三角形や四角形の集まりにしたものです。つまり三角錐や直方体の集まりということです。

  • ソリッドモデル

    ソリッドモデル

  • メッシュ化

    メッシュ化

三角形の集まりという点は似ていますが、ソリッド要素の集合体なので、メッシュ化後も中が詰まった状態になっています。

構造解析では、ソリッドモデルをこのようにメッシュ化したものを使用して計算します。この三角錐や直方体の各頂点のことを「節点」と呼びますが、この節点どうしが組み合わさって立体を表現しています(厳密に言うと構造解析でも「シェルメッシュ」という平面的なメッシュを使用する場合もありますが、解析方法の話に進んでしまうので今回は割愛します)。

構造解析は、作成したパーツやアセンブリが実際に使用される際に十分な強度があるかどうか、などの事柄を確認するために行います。したがって、内側もすべて詰まった状態である必要があります。表面の厚み0mmの物体は実在できませんよね? だから平面ではなく立体の「メッシュ」を用いることになります。

また、解析用のメッシュはそれだけで存在することはできません。STLやOBJのような汎用のファイル形式でメッシュデータとして保存という概念は無く、CADに統合されている解析機能を使用している場合は、ソリッドモデルの内部情報として存在することになります。また、各種構造解析ソフトウェアを使用した場合は、各々のオリジナルファイル内でメッシュの情報が保存されます。

構造解析においてソリッドモデルをメッシュ化する理由は、その解析を行う場合に「有限要素法」というものを使用するからです。有限要素法とは、「構造物を複数の有限個の要素(つまりメッシュ)に分割してさまざまな構造計算を行う」というものです。構造解析は何を検証したいかによってさまざまな手法がありますが、いずれにしてもその製品の使用状況下において設計した形状で耐えうるかどうかを計測し、どのような変化が起こるかを算出するものです。その計算の際には、簡単に言うと三角錐や直方体の節点どうしが繋がっているので、その各点にどのような負荷がかかるのかを計測して結果を表示してくれるという仕組みになっています。

これはAutodesk Inventorで静応力解析をした例です。なお、ソリッド要素メッシュが三角か四角なのかは、使用している解析ソフトウェアに依存します。高度な解析ソフトウェアになると両方に対応しているものもあります。

今回は「メッシュ」というものの説明に絞ってお話してみました。言葉が同じでも、使用するシーンによって意味が異なるものがたまにあります。理解している人は自然と場面に応じた使い方をしていることが多いので、わからない時は恥ずかしがらずに聞いてみた方が良いと思います。そこでお互いに新しい気付きがあり、知識を深めることができます。

そのうち、各々の用途などにも言及する機会があれば説明してみたいと思います。

ところで最初に書いた「3Dスキャンしたデータも『メッシュ』だからCADに取り込んで解析できるんですよね? 」の答えですが、「頑張ればできないことはないです」になります。CADによってはいくつかの手順を踏むことで、読み込んだメッシュデータを変換して最終的にソリッドにするという機能が付いているものがあります。ただ、ここまで書いたようにスキャンデータのメッシュと解析のためのメッシュは別物ですので、ソリッド化した後、改めて解析のためのメッシュを作ることになります。平面メッシュとソリッドのメッシュの違いを理解いただけたでしょうか?

では、年内の連載の掲載はこれが最後となります。 皆さま、良い年をお迎えください。

ではまた次回をお楽しみに!

著者紹介

草野多恵

草野多恵
CADテクニカルアドバイザー。宇宙航空関連メーカーにて宇宙観測ロケット設計および打ち上げまでのプロセス管理業務に従事し、設計から生産技術および製造、そして検査から納品までのプロセスを習得。その後、3D CAD業界に転身し、製造業での経験をもとに、ベンダーの立場からCADの普及活動を行う。現在は独立し、ユーザーの目線に立ち、効果的なCAD導入を支援している。 著書に「今すぐ使いたい人のためのAutoCAD LT 操作のきほん」(株式会社ボーンデジタル刊)がある。