【 政界 】発足1年で直面 初の風雲急を告げる危機 高市首相の資質が試される秋の陣

公明党の連立政権離脱、そして日本維新の会との新たな連立の枠組みで高市早苗政権が発足してから10月21日で1年。この間、高い内閣支持率を維持してきた首相の高市だが、ここにきて、つまずきが露呈した。抜擢した農林水産相の簗和生(自民党)が「予算削減」発言などで就任1カ月足らずで辞任。事実上の更迭で、任命責任が重くのしかかる。高市が「悲願」とする消費税減税法案の成立がかかる臨時国会では、初めてと言っていい試練にさらされている。

「秘蔵っ子」がダメージに

 10月14日に辞任を表明した簗の発言を巡る問題を簡単におさらいする。簗は9月に発足した第2次高市改造内閣で初入閣した。発言はその前の5月、地元・栃木3区内で開かれた自民支部の会合で飛び出した。

「(栃木3区内の)那須烏山市と那珂川町の令和8(2026)年度の道路予算については、大幅にカットをしました」

 国土交通省によると、2市町の国の交付金は実際に減額となっていた。市長と町長は2月の衆院選で簗とは別の候補を支援していたため、選挙で自身を支援しなかった自治体への「仕返し」「脅し」の形となった。

 週刊誌でこの発言が報じられた後の2日、簗は発言をおおむね認めつつ、国に予算の状況を「問い合わせただけ」と釈明し、予算削減の働きかけを否定した。5日にようやく発言を撤回し、謝罪した。国交省は6日に調査結果を発表し、「問い合わせはあったが、働きかけや圧力はなかった」との見解を示した。ただ、その根拠について、対応した職員は、やり取りを明確には「覚えていない」とし、「細かいメモはない」と、あいまいな答えに終始した。

 簗は東京都出身の47歳で、国会議員秘書などを経て12年の衆院選に栃木3区から自民公認で立候補した。親族が同区出身ではあるが、事実上の落下傘候補だった。同区では落選したものの、重複立候補した比例北関東ブロックで復活当選し、現在6期目。国交政務官や党筆頭副幹事長を経験し、農政にも通じている。旧安倍派に所属し、同派のいわゆる裏金問題で党処分を受けたが、高市に抜擢された。

 簗を知る人物は「横柄で言葉に品がなく、秘書が次々と辞めていった。なぜ高市首相が寵愛するのか分からない」と話す。以前から評判は良くなかったわけだが、2月の衆院選で応援に入った高市は「私の大事な簗ちゃん」と呼ぶほどだった。

 当初はダンマリを決め込んでいた高市は10月8日の衆参本会議でようやく任命責任を認めつつ「不適切と考え、厳しく注意した」と言及した。「『とにかく働いて仕事で返せ』と(簗に)言っている」とも述べ、続投させる考えを示した。

 しかし、その後も簗への批判が続くと、13日の衆院予算委員会では「本当にダサい」と強い調子で簗を批判し、「(簗が)行政の運営をしていっていいのかということも含め、しっかりと考える」と踏み込んだ。

 高市は9月の党人事・内閣改造に際し、党所属衆院議員にアンケートを実施し、精読した上で人事を決めた。改造内閣が発足した9月17日の記者会見では「『実行力重視』の人選とした」と自信満々に語っていた。

 人付き合いが少ない高市にとって、簗は数少ない「秘蔵っ子」の一人で、問題発覚当初は明らかに擁護していた。結局、泥縄式に対応を変えていくことになり、高市のリーダーとしての手腕と判断にも傷がつく形となった。

国会審議にもダメージ

 そもそも「選挙で応援しないので予算をカットした」という発言自体が異例だ。自民のベテラン議員は、こう打ち明ける。

「選挙演説で『皆さんのために予算を獲得したいと思います』と訴えることはある。しかし、見せしめのように『予算を減らす』という人は聞いたことがない」

 マスコミ不在の身内の場とはいえ、発言は不用意だった。しかも単なる失言では片づけられない問題をはらむ。憲法43条1項は「両議院は、全国民を代表する選挙された議員でこれを組織する」と規定する。つまり国会議員は自らへの支持の有無にかかわらず、「全国民」のために働かなければならない。簗の発言は憲法の理念に反することになる。

 働きかけが一切なかったとしたら、簗は嘘をついたことになる。自分を大きく見せるための発言だったようだが、閣僚として不適格の烙印を押されても仕方がなかった。さらに選挙で支持者をマイクロバスで無償で送迎した公職選挙法違反疑惑、運動員買収疑惑が噴出し、辞任に至った。

 簗を巡る騒動は、国会審議にも影響を与えそうだ。臨時国会の最大の焦点は、飲食料品の消費税を8%から1%に引き下げる消費減税法案だ。物価高対策の1つで、所得連動型の新たな現金給付制度が本格実施されるまで、来年4月から2年間限定で実施することになる。

 審議は入り口から難航した。本格論戦のスタートだった13日の衆院予算委員会で野党は一斉に簗発言を追及。高市が弁明に追われる事態となった。

 消費減税法案はそもそも日程が窮屈だ。消費減税には自民党内にも異論があり、多少の波乱があるかもしれないが、自民単独で過半数を握る衆院の通過は確実とみられる。一方、与党が過半数割れの参院では野党の協力なしに可決できない。

 そこで浮上しているのが衆院での再可決だ。憲法59条は、衆院で可決した法案が参院で60日以内に採決されない場合、否決したとみなすことができると規定する。この「60日ルール」を適用すれば、衆院の3分の2以上の賛成で再可決できる。自民は現在、単独でも3分の2を上回っている。

 今国会は12月12日までの69日間で、60日ルールを適用するには日数が足りず、会期の延長が必須となる。大みそかまで会期を延長すれば、10月末の衆院通過で間に合うが、年末に国会を開くのは現実的ではない。そうなると、会期が越年することになり得る。

 越年国会は、首相だった安倍晋三が途中で辞任し、自民と民主党との間で大連立構想が浮上して混乱した07~08年の臨時国会以来、19年ぶりとなる。官邸幹部の間では、臨時国会召集前から越年も視野に入れたカレンダーづくりが行われていたとの情報もある。

 こうした強権的な手法はリスクもはらむ。60日ルールを適用すれば参院を無視した形となり、参院不要論につながりかねない。野党の反発だけでなく、参院の独立性を重視する参院の自民からも反発が出る可能性がある。

頼みは公明党か

 危機の高市政権が頼みとするのが、先に中道改革連合から衆院議員が復党した公明だ。同党は消費減税を完全に否定してはいない。

 10月3日に代表に就任した岡本三成は日本経済新聞のインタビューで、所得連動型給付の対象などを明示し修正すれば、消費税減税と一本化した法案に「賛成の可能性が出てくる」と語った。現在の政府案には反対だが、公明の主張を一部取り入れて修正に応じれば、顔も立って賛成できる─というわけだ。公明が参院で賛成すれば、法案は参院で成立する。

 公明にとって国政選挙以上に重要とされるのが来年春の統一地方選だ。生活者に寄り添った政策を重視する公明にとって、各社の世論調査でも賛成が多い傾向にある消費減税に反対できるのかどうか。重大な決断を迫られている。

 消費減税法案以外にも、政府・与党の課題は多い。維新が今国会での成立を強く求めている衆院議員の定数削減法案も、展望は開けていない。

 そんな中、高市自身にもブレが生じている。高市は予算編成改革を主張してきた。複数年度を視野に入れた戦略的な予算編成を基本とし、本予算に加えて年度途中での編成が常態化している補正予算への「依存脱却」を繰り返し強調してきた。

 しかし、2月に米国とイスラエルによるイラン攻撃に伴う資源調達の悪化などを理由に26年度補正予算を6月に成立させたのに続き、今国会では第2次補正予算案を検討している。7月の熊本地震や8~9月に千葉県などを襲った豪雨災害の対応のためだという。対象は災害対策関連などに限定する方針というが、災害は毎年起こりうるもの。柔軟な補正予算案の編成は政府として当然だが、ならば補正予算依存からの脱却を訴えなければよかった。

正念場の外交

 高市は言葉が強すぎるきらいがある。過去に明言していた首相就任後の靖国神社参拝も4月の春季例大祭で見送った。8月15日の終戦の日には、全国戦没者追悼式出席のため訪れた日本武道館から近くの靖国神社に向かって遥拝するという奇策に出たが、参拝しなかったことには変わらない。

 昨年11月の「台湾有事」答弁も本来は不要だった。台湾が中国から武力攻撃を受けた場合、日本の「存立危機事態になり得る」との答弁は、明らかに事前に用意していなかった。一般論としては当然の内容だが、その後の中国の反発を予見した上での戦略的答弁ではない。だからといって高市が答弁を撤回すれば、「台湾を見捨てた」と受け止められかねない。結果として現在に至るまで日中は冷たい関係が続き、打開策は見えてこない。

 ここにきてクローズアップされているのが、高市の「外交嫌い」だ。日本時間の2日夜、G7(先進7カ国)議長国のフランス主導で、オンラインの首脳会談が急遽開かれた。高市は出席せず、外務審議官だった。英首相のバーナムらも欠席したとはいえ、首脳会談の代理が外務審議官というのは異例だ。

 会談の直前、高市は珍しく副総裁の麻生太郎ら自民幹部と公邸で会食していたが、首脳会談の時間には終わっていた。高市は5日になってX(旧ツイッター)で「欧米等のディーゼル価格などへの対応」が議題だったと説明し、バーナムらが欠席したことを挙げた。その後もオンライン会議のための機材の準備が間に合わなかったと釈明した。結局は「私が出るほどの会議ではなかった」と言いたいようだが、その場には米大統領のトランプもいた。あえて欠席する理由は見当たらない。

 高市は過去の首相と比べ外遊も少ない。G7サミットやG20サミット(20カ国・地域首脳会議)といった定例の国際会議には出席しているが、歴代首相が恒例とする5月の大型連休も、夏の外遊もなかった。

 11月には中国・深圳でAPEC(アジア太平洋経済協力)首脳会議、フィリピンでASEAN(東南アジア諸国連合)関連首脳会議、12月には米国でG20サミットが行われる。共和党の劣勢が伝えられる11月の中間選挙を経てトランプの言動が大きく揺れ動く可能性がある。

 APECとG20の機会に実施予定の中国国家主席・習近平との米中首脳会談で国際情勢が大きく変わる可能性もある。そんな中で、高市がどう振る舞うのか。国会の行方とともに、高市の資質が試される季節となる。(敬称略)

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