生成AIの普及やデータセンター需要の拡大などを背景に、半導体産業への投資が活発化している。一方、その成長を支える人材の不足は深刻だ。

こうしたなか、製造業向け人材サービス事業を手掛けるUTグループが進めているのが、社員が職種や派遣先を変えて新たなキャリアに挑戦する「社内転職」だ。

半導体業界の人材不足に対し、この仕組みをどのように生かそうとしているのか。UTエイム 代表取締役社長の筑井信行氏に話を聞いた。

  • UTエイム 代表取締役社長の筑井信行氏

    UTエイム 代表取締役社長の筑井信行氏

半導体業界で深刻化する人手不足

UTグループは今年で設立から32期目を迎えた。これまで製造業向け人材派遣を主力事業として成長してきたが、その間、派遣労働を取り巻く環境は大きく変化したという。

かつて、正社員と非正規社員の待遇格差は、大きな社会課題として語られてきた。法整備などが進み、賃金や待遇面での差は縮小傾向にあるものの、依然として格差は大きい。一方で、働く人々を取り巻く環境は新たな変化を迎えている。コロナ禍を経て働き方は多様化し、AIの進化やスマート工場の普及によって製造現場そのものも変わりつつある。

かたや製造メーカーの視点に立つと、急成長を支える人材不足が深刻だ。少子高齢化によって労働人口の減少が続く中、製造現場では人材確保が年々難しくなり、企業は限られた人材をどう育成し、活躍の場へ導くかという課題に向き合っている。

筑井氏は「『いつになったら人が採用できるようになるんですか?』と聞かれるのですが、その答えは『いま』です。人材確保の難易度は今後上がる一方です。明日になれば明日が最大で、良くなることはないでしょう」と、厳しい現状を語る。

こうした状況の中、新卒採用だけでなく、すでに現場で戦力として働く派遣社員をメーカーの正社員として迎え入れる動きも選択肢の一つとなる。

「社員一人ひとり、向いている仕事は異なります。同じ場所で働き続けることだけが最善とも限りません。経験を積む中で新たな可能性が見つかることもあれば、より高い報酬や待遇を目指したいと考える人もいます」(筑井氏)

  • 半導体業界の厳しい人手不足を説明する筑井氏

    半導体業界の厳しい人手不足を説明する筑井氏

社員一人ひとりに合わせて、選択肢を広げる仕組みが必要ではないか?という発想から生まれたのが「社内転職」だ。UTグループが進める「社内転職」とは、同社に在籍したまま職種を変え、異なる派遣先で働く取り組みだ。なかでも、半導体事業を担うUTエイムで特に社内転職を推進しているという。

なぜ今、半導体へ「社内転職」なのか

現在、半導体産業への注目がかつてないほど高まっている。TSMCの熊本進出やラピダスの設立に加え、生成AIの普及によるデータセンター需要の拡大を背景に、世界的な半導体投資が続いている。これも社内転職を実施する後押しになったという。

「活況な日本の半導体業界で、国策でもある半導体事業に当社の社員が加わらないでどうするんだと。本当に『今やらないで、いつやるのか』というタイミングです」(筑井氏)

社員が半導体業界へ挑戦することで専門性を高め、収入向上やキャリア形成につながる。企業側も即戦力人材を確保できる。さらに同社自身も顧客企業との関係を強化できる。UTエイムは、社員、製造メーカー、自社のそれぞれにメリットがある「三方良し」の取り組みと位置付けている。

同社が重視しているのは、社員自身の市場価値向上だ。より成長できる仕事に挑戦する。専門性の高い業界へ移る。より良い待遇を目指す。そうした選択を社員自らができる環境を整えることに意味があるという。

こうした重点領域への挑戦を制度面から後押しする仕組みもある。その象徴が、「ポイントプログラム」という独自の制度だ。同社では積算労働時間に応じてポイントが蓄積され、そのポイントを自社株と交換できる福利厚生制度を設けている。

さらに重点領域への挑戦を後押しするため、同社が優先している半導体企業に転籍する社員には追加ポイントを付与する仕組みも導入している。単なる異動ではなく、「成長する産業へ挑戦する価値」を制度面でも示しているわけだ。

制度を作っても「知られなければ存在しない」

社内転職を推し進める上で、苦労した点は、実は制度設計ではないという。メッセージを現場全体に届ける、つまり「情報の伝達」だ。

UTエイムは、全体で数万人規模の社員を抱えている。ただメールを送るだけ、自社アプリで通知を出すだけでは、全員に意図が伝わらない。実際、直接会って話をすると「知らなかった」と答える社員も多いという。そのため同社では、さまざまなチャネルを使いながら情報発信を続けている。

「価値ある制度をつくっても、知られなければ存在しないのと同じです。ひとりでも多くの方に、正しい情報を届けるというのは永遠のテーマですね」(筑井氏)

  • 社内転職を進める上での課題を語る筑井氏

    社内転職を進める上での課題を語る筑井氏

また、現場管理者の理解も重要になる。社内転職を促進するためには、送り出す側の管理者が社員の挑戦を応援できなければならない。「優秀な人材を失いたくない」という考え方ではなく、「社員にとってより良い選択であれば背中を押す」という文化を育てる必要があるからだ。

そこで同社が導入したのが、「送り出すこと」を評価する人事制度。挑戦を支援すること自体をミッションとして位置付け、評価やインセンティブにも反映させている。

背景には、社員が職場に合わず退職してしまうよりも、より適した環境へ移った方が本人にとっても企業にとっても良いという考えがある。実際に制度を活用した事例も生まれている。筑井氏が挙げたのは、ある女性社員のエピソードだ。

その社員は熊本県で半導体関連の仕事をしており、さらなる成長機会を求め、国策で大きく投資される北海道の企業で働くことを決意したという。覚悟を持ってチャレンジした結果、給料も一気に上がり、待遇も向上。現在も新天地で充実した日々を送り、半導体工場の現場で活躍しているという。

「なにより、本人が『親に安心して、誇りを持って今の仕事を伝えられる』『この仕事にチャレンジして本当によかった』と言っていたことが印象的でした」(筑井氏)

社内転職が実現するのは待遇改善だけではない。社会的意義のある仕事に挑戦し、自らの成長を実感できることが、キャリアの充実につながっている。その姿は、同社が目指す社内転職の理想像でもあるのだろう。

人材不足に企業間連携で対応、派遣会社も「競争」から「共創」へ

半導体業界では、好況と不況を周期的に繰り返す「シリコンサイクル」が知られている。一方、UTエイムは、AI向けデータセンター需要などを背景とした現在の好況が4~5年ほど続くと見ている。

同社は中期経営計画において、2029年3月に向けて半導体に集中し、半導体産業に貢献することを目指している。過去にも半導体業界に特化していた時期はあったが、いま一度、半導体にリソースを集中する見通しだ。

そしていま、筑井氏は同業他社の経営者と積極的に合い、派遣業界全体の変革に取り組もうとしている。

「人手不足が続き、採用単価も右肩上がりになっています。さらに早期に仕事を辞めてしまうケースもあり、製造派遣の事業モデル自体が難しくなっています」(筑井氏)

そうしたなかで、同社は製造派遣会社同士のアライアンスを推進しているという。これまで各社が個別に人材を確保してきた構図から、企業間で連携し、より適した職場へ人材をつなぐ仕組みをつくる考えだ。

「派遣会社同士で求職者と案件の情報を共有し合って、アライアンスを組んで、業界内でマッチングできるプラットフォームを作った方が良いのではないかと考えています。同業他社と人材獲得を競うのではなく、一度来た方を囲い込みながら紹介していく方が効率的だし、当社はやっていない地域を補完できるし、他社さんは採用力・営業力をつけることができます。ひいては、お取引先の企業さまの価値向上にもつながります」(筑井氏)

同社がいま同業他社に提唱しているのは「“競争"から“共創"への転換」だ。そのための「5つの共創モデル」を筑井氏は語る。

1つ目は求職者ファーストの環境を作る「求職者との共創」。2つ目は外国人が安心して日本で働ける環境を作る「外国人との共創」。3つ目は教育機関や住宅など地域全体を通じて人材を安定させる「自治体・地域との共創」。4つ目は製造派遣会社同士が連携して人を共有し合う「人材会社との共創」。そして5つ目は派遣で人を受け入れて人手不足を解消するのではなく、一定の業務プロセスをアウトソーシングとして受託する「BPO企業との共創」となる。

5つ目の「BPO企業との共創」は、「半導体テスト領域の受託チーム」の事例として別記事で紹介しているので、興味のある方はご一読いただきたい。

「人の獲得を競う“競争"はロスでしかなく、費用がかさむだけで非効率ですが、共に作る“共創"に変えることで効率的にできる可能性がたくさんあります。業界全体で人材を活かす仕組みを考えるべきだと思っています」(筑井氏)

「選択肢をたくさん作ること」がキャリアにつながる

最後に、筑井氏は社員のキャリア形成についての考えを語った。

「キャリアアップやキャリア形成支援は派遣法でも推奨されており、当たり前に行っています。しかし、選択肢がひとつだと社員は選べません。選択肢をたくさん作ることこそが、社員のキャリアにつながると考えています」(筑井氏)

同じ職種を極めるのもひとつの道だ。一方で、違う仕事や違う地域に挑戦することもキャリアになる。価値観が多様化した今、一人ひとりに最適な働き方は異なる。半導体産業という成長市場を舞台に進むUTエイムの社員転職の仕組みは、人材不足への対応策であると同時に、働く人の可能性を広げる挑戦でもあるのだろう。

同社が目指しているのは、社員が自ら未来を選び、その挑戦を支援できる組織だ。そして、その選択肢の先に半導体産業の成長があるのであれば、「いまやらないで、いつやるのか」という問いへの答えは明確なのかもしれない。