• 人手不足が深刻化する製造業、DXによる変革が求められている Photo:PIXTA

    人手不足が深刻化する製造業、DXによる変革が求められている Photo:PIXTA

製造業を取り巻く環境が大きく変化する中で、製造DX、スマートマニュファクチャリングの実現を急ぐ企業も多いだろう。

3月11日に開催された「TECH+セミナー スマートマニュファクチャリング 2026 Mar. 未来を創る人材と組織~変革を支える環境と実践~」に経済産業省 製造産業戦略企画室室長の荒川洋氏が登壇。「製造基盤白書(ものづくり白書)」の内容をピックアップして製造業の課題や製造DXを推進するための考え方を解説し、その他の参考資料も紹介した。

製造業は人手不足が深刻化、生産性低下と競争力低下が同時進行

初めに、荒川氏は国内の製造業の状況について説明した。製造業のGDP構成比はこの30年ほど変わらず2割程度で、これは世界的には高い比率と言える。また、雇用環境については、全業種での有効求人倍率が1.2であるのに対し、製造業では1.6と人手不足は深刻で、将来的には70万人から100万人近く人手が不足するという予測もある。一方、労働者一人あたりの名目労働生産性は、2013年以降は上昇傾向にあり、2023年は全産業の1.3倍となっているが、これは決して安心材料ではないと同氏は警告する。国際比較で見ると、日本の順位は2000年には世界トップだったのに対し、2024年には20位にまで下がっている。そして順位より問題なのは付加価値額で、この間他国では上昇しているのに、日本はほとんど変わらず、2000年よりも若干低下しているのだ。

  • 業種別のGDP構成比

    業種別のGDP構成比

こうした状況の中で、製造DXの実現に向けて人材を確保することは重要である。しかしそれをコストとみなす企業が多いのが問題だ。どのような企業活動を行い、それがどう影響したかを調査したところ、価格転嫁、賃上げ、設備投資、人材確保などを行った企業が多かったが、その中でマイナスに影響したものとして多く挙げられたのが、人材確保や賃上げだったのだ。

「人材にまつわる投資をコストと見てしまうのが日本の企業の大きな問題です。人材も設備と同じように投資と捉えるべきです」(荒川氏)

DX(デジタルトランスフォーメーション)において取り組むべき領域にも注意が必要だ。調査では、ほとんどの企業がアナログデータのデジタル化や業務効率化などに取り組んでおり、成果を上げていることがわかった。逆に新規製品の創出やサービスの高付加価値化、企業文化の変革といったことに取り組んだ企業は少なく、この領域では成果もあまり上がっていない。

つまり、もともとやり方が分かっている業務改善などはデジタル化で成果に結び付けやすいが、新たな価値の創出など、手法が固まっていないものは着手しにくいしデジタル化しても成果が上がりにくいということなのだ。

製造DXを進める4段階、鍵は経営主導とデータ活用

こうした課題を解決するためには、個社単位のデジタル化・効率化だけでなく、企業内部や企業間の連携を強化も必要になる。企業間でデータを連携することは、サプライチェーンの強靭化にも有効だ。さらに、生産性や産業競争力向上のためには、ロボットやAIの開発・活用も重要になってくる。

DXは、意思決定、全体構想・意識改革、本格推進、DX拡大・実現という4段階のプロセスで進めることが必要だ。荒川氏は、意思決定については経営層がリーダーシップをとることが重要だと強調する。業務改善であれば現場からの声に基づいて進めることも可能だが、価値創出の取り組みを実施するのはボトムアップでは難しいためだという。また本格推進以降の段階では、データ分析・活用によって価値創出に結び付けていくことも重要となる。

  • DX実現のためのプロセス

    DX実現のためのプロセス

「計測できないものはマネジメントできないと言われています。データをきちんと計測して生かすという仕組みをつくることがDXになるのです」(荒川氏)

DX成功企業に学ぶ、製造業の変革は何が違うのか

ものづくり白書には、DXの成功事例も掲載されている。例えば、経営層のリーダーシップでDXを推進した山本工作所の例もその1つだ。同社では生産管理システムの導入のため、社内から集めた少人数のプロジェクトで取り組んだが頓挫した。そこで社長をトップに据え、そのリーダーシップにより各部門から責任のあるメンバーを集めてプロジェクトを再編し、中長期的なアクションプランの実行につなげた。

ベテラン職人の退職により、若手への技術の継承が課題だった旭ウェルテックの事例もある。現場の意見を聞きとってベテラン職人のノウハウや技術をデータベース化し、技術の引継ぎや共有ができるシステムを構築した。その成功のカギは、DXを進める前にヒアリングを行うなど、きちんと情報を集めて整理していたことである。また、DXを自社内で進めたことで、これを軸にして社内全般のDXに関わる仕組みを構築することができたそうだ。

「ものづくりサービス業」への転換を実現した事例としては、THKの事例がある。設備の更新や故障の際の部品提供を事業とする同社では、従来から自社内でデータ収集をすることで故障の予兆検知を行っていた。このデータ分析の効果が非常に高いことが分かり、故障予知システムとして顧客にも提供することにした。劣化情報や交換タイミングを顧客に提供するという、新たなビジネスを創出したのだ。

製造DXはどこから始める?経産省ガイドラインと支援策まとめ

製造DX推進のため、政府が提供する資料もある。その中でも参考にすべきが、経済産業省とNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)が作成した「スマートマニュファクチャリング構築ガイドライン」だ。設計段階のエンジニアリングチェーン、供給のサプライチェーンなど複数のチェーンが絡み合う複雑な構造のマニュファクチャリングチェーンの中で、取り組むべきポイントを約60に整理し、それぞれについてどういう取り組みを行えば効率化やDXにつながるかを示したものである。

例えば、情報の標準化ができていればレベル1、データによるプロセスの連携が可能ならレベル3など、まず自社の現状を5段階で評価したうえで、どのレベルを目指すかを決めるというように、目標を立てたうえで計画を策定、実行できるようにしている。また、実際の事業者の取り組み事例も、どんな課題解決のために、どのような目標に対してどのくらいの期間で実現したかが、具体的に記載されている。

工場のスマート化により、工場内部のデータもサイバー空間につながることになる。その際に参考にしたいのが、「工場システムにおけるサイバー・フィジカル・セキュリティ対策ガイドライン」だ。ここでは、重要なポイントが2つ挙げられている。まず、ゾーン単位で考えることだ。危険度や重要度のレベルが同じものを1つのゾーンとして捉え、ゾーン単位で対策を講じたうえで他の部分との連携をコントロールする。もう1つは、関係会社や取引先など、社内外の関係者間の責任分界や役割分担を考えておくことだ。外部につながれば、自社だけで管理するのは難しくなるためである。

生成AIの導入にあたって参考になるのが「AIの利用・開発に関する契約チェックリスト」だ。ビジネス部門担当者や社内法務部、顧問弁護士などを対象としたもので、AIの利活用に関する契約に伴う法的なリスクや、保護すべきデータの流出の可能性など、AIに関する懸念事項を確認・検討するために利用できる。

最後に荒川氏は、さまざまなWebサイトにある企業DXの支援策を紹介した。経産省ではDXにあたっての戦略をまとめた要諦集、IPAでは企業が自己診断を行えるDX推進指標などを掲載している。また、デジタルスキルを学べる講座を紹介する「マナビDX」、中小企業に向けて最適なITソリューションの提案・導入・運用までサポートする「デジwith」などもある。製造DXに取り組む企業にとってこれらは、新たな一歩を踏み出す一助となるだろう。

  • 企業DXに関連する支援策の一例

    企業DXに関連する支援策の一例