政府は2026年度から5カ年の科学技術政策の指針となる「第7期科学技術・イノベーション基本計画」を閣議決定した。「科学技術・イノベーション政策を国家戦略の中核に据え、新技術立国を実現する」とし、政府の研究開発投資を5年間で60兆円と、前期比で倍増する目標を掲げた。官民合わせ180兆円を投じる。トップレベル論文数指標は21~23年の世界13位から、10年以内に3位を目指すとした。民生用と安全保障用のデュアルユース(両用)技術の推進や、17分野の重要技術領域も盛り込んだ。

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    内閣府=東京都千代田区

閣議決定は先月27日。新計画は冒頭で、わが国の2000年代からの研究力低下に言及。その影響は「学術にとどまらず経済成長の停滞、国民生活の質の低下を招き、国際社会での存在感が低下し国力の衰退につながりかねない」と指摘した。また科学技術・イノベーションが安全保障上も「国家の存立を左右する核心的要素」となっており、計画を基礎に「高い信頼と、人々の安寧が行き届いた社会を築き上げ、日本を再び世界の高みに押し上げていく」とした。

政府研究開発投資額の60兆円は過去最高。物価や人件費の上昇も考慮し、科学技術関係予算に加え、今後策定する成長戦略に基づく施策、世界トップレベルを目指す「国際卓越研究大学」を支援する基金の運用益による助成、財政投融資や研究開発税制などにより達成を目指す。第6期では30兆円の目標に対し、実績は43兆6000億円に上った。一方、官民合わせた投資は2024年度までに計86兆3000億円となったが、5年間で120兆円の目標を大幅に下回っている。

計画の「6つの柱」として、知の基盤としての「科学の再興」▽技術領域の戦略的重点化▽科学技術と国家安全保障との有機的連携▽産学官を結節するイノベーションエコシステム(生態系、共存関係)の高度化▽戦略的科学技術外交の推進▽推進体制・ガバナンス(統治)の改革――を掲げた。

高市早苗首相は同日、X(旧ツイッター)に「優れた科学技術・イノベーションは強い経済の基盤で、安全保障上の目標を達成する基盤でもあります。本計画に基づき技術領域の戦略的重点化、科学技術の国家安全保障との有機的な連携など、政策の転換を図って参ります」などと投稿。施策の具体化などを関係閣僚に指示したことを明らかにした。

小野田紀美科学技術担当相は閣議決定後の会見で「決定した基本計画は科学の再興を目指すとともに、技術領域の戦略的重点化にも取り組むとした。選定した重要技術領域は、日本成長戦略の17分野を十分加味しており、研究開発を推進したい。人材育成などを通じ、わが国の成長に貢献していきたい」と述べた。

松本洋平文部科学相は「基盤的経費や基礎研究への投資の大幅拡充をはじめ、研究力の抜本的強化や国立研究開発法人による重要技術の戦略的推進などを通じ新技術立国、強い経済を実現できるよう全力で取り組んでいく」とした。

科学技術・イノベーション基本計画は、科学技術・イノベーション基本法に基づき、政府が5年ごとに策定する。1995年制定の旧科学技術基本法に基づき翌年、初めて策定し、第5期まで科学技術基本計画と称した。2011年策定の第4期では「科学技術イノベーション」を定義し、変革の重視を打ち出した。以降も第5期で、仮想と現実の空間が融合した未来社会「Society(ソサエティー)5.0」、第6期では人文・社会科学を含めた「総合知」を提唱するなど、社会像の提示や社会課題解決に力点が置かれてきた。第7期は大きく転換し、わが国の危機的状況や世界の状況を反映し、研究力、競争力強化に注力する内容となった。

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    科学技術・イノベーション基本計画の歩み(内閣府、文部科学省の資料を基に作成)

第7期計画の「6つの柱」の概要は次の通り。

 【1 知の基盤としての「科学の再興」】科研費(科学研究費助成事業)の大幅拡充や研究者の負担軽減、研究時間確保を進める。研究支援事業を強化する。研究者や学生の海外派遣を強化し、国内外に魅力ある研究環境を構築するなどし、国際ネットワークを構築する。研究者やマネジメント、技術、科学技術コミュニケーションの専門人材を育成、確保する。科学研究にAI(人工知能)を組み込む「AI for Science(フォーサイエンス)」やAI研究を推進する。研究施設・設備、研究資金などを改革する。国立大学法人運営費交付金などの基盤的経費を確保する。国際卓越研究大学制度や地域中核・特色ある研究大学強化促進事業などにより研究大学群を形成する。国立研究開発法人の改革を進める。

 【2 技術領域の戦略的重点化】自由発想の研究を後押ししつつ、科学技術力の維持・強化のため、限られた政策資源を最大限活用し戦略的に支援する。「新興・基盤技術領域」の対象は「造船、航空、デジタル・サイバーセキュリティー、農林水産、資源・エネルギー安全保障・GX(グリーントランスフォーメーション=化石燃料からクリーンエネルギー中心の社会への転換)、防災・国土強靱(きょうじん)化、先端医療、製造・マテリアル(重要鉱物・部素材)、モビリティー・輸送・港湾物流、海洋、防衛産業、AI・先端ロボット、量子、半導体・通信、バイオ・ヘルスケア、フュージョン(核融合)エネルギー、宇宙」の17分野。これらのうちAI・先端ロボット以降の6分野を「国家戦略技術領域」の対象とする。

 【3 科学技術と国家安全保障との有機的連携】産学官が連携しデュアルユース技術に取り組む。防衛省の基礎研究などに研究者が躊躇(ちゅうちょ)なく参画できるよう理解増進に取り組む。経済安全保障上の重要技術領域を定める。シンクタンク機能を強化し、技術を育成する。研究セキュリティーに取り組み、技術流出を防止する。

【4 産学官を結節するイノベーション・エコシステムの高度化】産学連携を推進し、好循環を最大化する大学の経営力強化を進める。世界で競い成長する大学を実現する。科学技術コミュニケーションの人材を支援し、科学が文化となることを目指す。スタートアップエコシステム(スタートアップ企業支援の共存関係)を形成する。地域のイノベーションを推進する。知的財産・標準化戦略に取り組む。

【5 戦略的科学技術外交の推進】「外交のための科学」「科学のための外交」双方の視点から展開する必要がある。重要技術領域で同盟・同志国と協働を強化する。グローバルサウス(新興国、途上国)の課題解決、発展を支援する。重要技術領域の国際秩序の安定と透明性確保のため、ルール形成に主体的に参画する。人材が国境を越えて移動し育成され、学術が進展する「国際頭脳循環」を推進する。技術の保護と国際連携を図る。技術流出防止や知的財産保護、投資審査、輸出管理などで、国際連携と適切な管理を両立させる。

【6 推進体制・ガバナンスの改革】官民の投資を大幅に拡充。2026~30年度の政府研究開発投資は60兆円、官民で180兆円を目標とする。研究大学のマネジメント改革を加速する。基盤的経費が不可欠。国立大学法人運営費交付金の大幅拡充を図り、安定性を向上させるなど、あり方を見直す。総合科学技術・イノベーション会議の司令塔機能を強化する。

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