フロンティアコンサルティングは3月31日、働く人と働く場所に関する「働く環境のデザインに関する調査」の結果を公表し、記者説明会を開催した。同社は同様の調査を2022年から継続して実施している。
調査は札幌・東京23区・名古屋・大阪・福岡に勤務する正社員1000人を対象に実施。自社のオフィスデザインを「魅力的」と感じるワーカー(魅力群:414人)と「魅力的ではない」と感じるワーカー(非魅力群:586人)の意識を比較した。
オフィスへの投資は企業の価値向上につながるか?
かつてオフィスは賃料や光熱費を含めて「削るべきコスト」とみなされる場合が多かった。しかし最近では、オフィスへの投資が働きがいを高め、組織全体の生産性を引き上げるポジティブな考え方も浸透しつつある。
オフィス環境を考えると、仕事のしやすさを支える機能的な役割に加え、働く人の感性や心地よさに訴えるデザイン(装飾)の側面も持つ。従来のオフィスに関する議論は機能的な話題を対象としたものが多かったが、オフィスデザインが働く人に与える影響も無視できないため、この数値化しにくい感情的な動きを明らかにすることを目的に、今回の調査が実施された。
今年の調査では、働く人の心理状態と空間デザインの関係に焦点を当てた。機能面だけでなくオフィスデザインの効果や意義を明らかにすることで、これからのオフィス投資の価値も高まると考えられる。
なお、同調査における「オフィス空間のデザイン」とは、部屋のレイアウト(間取り)や家具の配置、内装の色や形を指している。
魅力的なオフィスは社会的評価や業績の信頼感にもつながる
調査の結果、自社のオフィスを魅力的だと感じている人は非魅力群に対し、従業員への配慮や期待、その会社らしさを感じている人が多いことが明らかになった。従業員への配慮や風土醸成の意識の強い経営層が積極的にオフィスのデザイン面に投資しており、働く人にも実感として伝わっていることがうかがえる。
また、「裁量・柔軟な働き方」「多様性の尊重」「新アイデアや挑戦の推奨」といった項目を選ぶ人の割合も、魅力群の方が高い結果に。その他、「活発なコミュニケーション」「変化への柔軟な対応」「主体的行動」なども魅力群の方が選ぶ人の割合が多かった。
一方で、「規律・ルールの順守」は非魅力群の方が選択する人の割合が多く、監視や統制を意識しやすい実態が感じられる。さらに、「歴史・伝統」を感じる人の割合も非魅力群の方が多かった。歴史は会社らしさの大切な一要素だが、変化や柔軟さを表現しにくく、デザインによるブランドイメージの伝え方には工夫が必要となる。
興味深いことに、魅力群と非魅力群では自社の業績や人員不足に対する捉え方に明確な差が見られた。魅力群は非魅力群と比較して、「先進的な取り組みの推進」「業績好調」「社会の変化への敏感さ」「人員充足」「社会的評価の高さ」を選ぶ人の割合が多かった。
反対に、非魅力群は「人員不足」「社会の変化への鈍感さ」「業績不調」「先進的取り組みへの逆行」「社会的評価の低さ」といったネガティブな項目を選ぶ人の割合が多かった。
オフィスが持つ嗜好品的な効用は働く人の情緒にも好影響
続いて、同社はオフィスのデザインを「必要不可欠なものではないがプラスの効果を期待できる嗜好品のようなもの」と捉え、「たばこ8徳受容尺度」(下斗米,2022)を参考に「オフィス7徳」を考案した。
たばこ8徳受容尺度ではたばこの嗜好品的な効用を「集中促進」「自己回帰」「感情充足」「解放増進」「感情補償」「演出」「場のコントロール」「関係構築」としている。
これを基にしたオフィス7徳では、「集中促進(仕事や作業への集中促進)」「補償的自己回帰(ネガティブな気持ちが埋め合わされ素の自分に戻る感覚)」「感情充足(リラックス、満足感の獲得)」「解放増進(その場に溶け込みやすくする)」「演出(異なる自分の演出)」「場のコントロール(場の雰囲気の切り替え)」「関係構築(同じ場にいる人との関係構築)」をそれぞれオフィスの効用と仮定した。
オフィス7徳に基づく質問の結果、7つの項目すべてで魅力群のスコアが高かった。このことから、オフィスの嗜好品的な効用が確認された。特に他の項目と比較して「集中促進」と「関係構築」のスコアが高かった。
さらに、魅力群は「場所依存(オフィスの機能面での優越性認識)」「場所同一性(場所と個人のアイデンティティの結びつき)」「場所勘定(オフィスへの愛着感情)」「社会的絆(場所を通した他の人々との共同体的な絆)」の各項目においてもスコアが高く、オフィスのデザインは単なる飾りを超え、情緒的にポジティブな意味を与えていることが考えられる。
魅力的なオフィスは働く人をポジティブにする効果も
オフィスの魅力と働く姿勢を調査したところ、魅力群は「自己高揚」「自己らしさの体系的了解」「自己発見」などのスコアが高く、自分自身に対する認識に前向きな変化を実感していることがうかがえる。このことが、長期的な働きがいやエンゲージメントにつながる可能性が示唆される結果となった。
加えて、魅力群は生産性や組織目標への共感、仕事へのエンゲージメント(満足感など)も平均して高い傾向が見られた。また、オフィス空間を推奨する意向やオフィス空間を話題に挙げる頻度も魅力群の方が高かった。
フロンティアコンサルティング 執行役員 デザイン部部長の稲田晋司氏は調査の結果を受けて、「働く環境が魅力的な企業は人事施策にも力を入れている場合が多いことから、働く人は事業や風土など企業全体を捉えているため、オフィスデザインの魅力による効果と会社自体の魅力や人事施策による効果を完全に分離することは難しい」とした上で、以下のように結果を分析してみせた。
「会社に対する意識と場所に対する意識のいずれにおいても、魅力群のスコアは一貫して非魅力群よりも高かった。魅力群のうちオフィスの意匠性を意識している群で特にその傾向が強い。働く人や働く場所に関する総合的な取り組みを切り口として、人的資本経営において空間デザインも重要な一つの要素と捉えることが今後の建設的な議論につながるだろう」





