鹿島建設と島根大学は3月31日、インフラ構造物に生じるわずかな変状を感知可能な高精度光ファイバセンシング技術の普及と展開を目的に、新たな計測器「SensRay」を開発したことを発表した。

老朽化が進むインフラの管理に新たな選択肢

光ファイバセンシング技術とは、光ファイバへレーザー光を入力した際に生じ、反射光として戻ってくる「レイリー散乱」と呼ばれる微弱な散乱光について、そのスペクトルがひずみによって変化する性質を活用し、ひずみセンサとして利用するもの。インフラ構造物の内部や地盤に生じた変状を網羅的に把握可能な光ファイバセンシング技術は、道路や河川などのインフラ構造物の状態を、長時間・常時・遠隔で確認できることから、老朽化や人手不足、自然災害の増加などといった課題が山積する日本のインフラ維持管理を変革する突破口として期待されている。

  • 光ファイバセンサの仕組み

    光ファイバセンサの仕組み(出所:鹿島建設)

またこうしたインフラ保全に限らず、道路への適用によって自動運転にも活用できるなど、光ファイバセンシングの多機能性はインフラ構造物そのものの付加価値向上にも貢献できる可能性がある。

こうした背景から鹿島建設では、自社が施工する構造物で、施工時の安全や品質の確保、あるいは供用後の構造物維持管理における光ファイバセンシングの適用拡大を進めているという。ただ一方で、さらなる展開に向けては、光ファイバセンサに接続して光を分析する計測器の導入コストが課題となっていたとのこと。そこで同社は、独自の光ファイバセンシング技術「位相雑音補償OFDR」を考案した島根大学の伊藤文彦教授との共同研究を開始し、高性能かつ安価な計測器の開発に挑んだとする。

そして両者の共同研究によって今回開発された光ファイバセンシング計測器のSensRayは、汎用的な光ファイバを用いるとともに、使用をインフラ分野向けに最適化することで、従来の1/3ほどの廉価化を実現。また同計測器はひずみゲージと同程度の小さなひずみから、鉄筋の降伏ひずみの2倍ほどの大きなひずみまで、延長1kmにわたるひずみの分布状態を最速150Hzで高速に計測でき、高精度で安定したひずみ計測結果を得られるとした。

研究チームは今般実際に、橋の主桁下端面に光ファイバセンサを敷設し、大型車両走行中のひずみ応答をSensRayで計測したとのこと。その結果、0.2秒間隔で動的にひずみが変化する様子を桁全体で捉えることができたといい、車両の位置ごとに変化するひずみ応答を高速で計測する“動的計測”が可能であることを確認したとする。

  • 車両走行時のひずみ分布計測結果

    車両走行時のひずみ分布計測結果例(出所:鹿島建設)

両者はこうした性能の高さから、同製品をインフラ分野だけでなく機械や航空機分野でも活用できる可能性を探るという。また老朽化が進む中でも限られた人員・コストで適切に維持管理することが求められる日本国内のインフラ構造物における課題に対して、長距離を網羅的に、長期にわたって遠隔から常時モニタリング可能な光ファイバセンシング技術は、その有力な解決策となり得ることから、今回の廉価な計測器の開発によって、光ファイバセンシング技術の導入が容易になると考えられるとした。

なお鹿島建設は、SensRayは今後アルネアにて製作され、アンリツを通じて販売・展開を行っていくとしている。

編集部メモ

「位相雑音補償OFDR」とは、光ファイバに加わるひずみの分布的な観測において必要となる、レイリー散乱光が反射した地点を特定するための手法。OFDR(光周波数領域反射計)は、高い解像度で反射点までの距離を測る技術として知られていたが、レーザー光の周波数の揺らぎによってその計測距離が制限されていた。しかし独自アルゴリズムによってレーザー光の位相雑音の影響を除去可能にした位相雑音補償OFDRにより、1kmにわたる計測距離が実現された。