広島大学、東京大学(東大)、日本医科大学の3者は3月23日、マウスを用いた動物実験により、抹茶がアレルギー性鼻炎におけるくしゃみ応答を抑制する可能性を明らかにしたと共同で発表した。

同成果は、広島大 原爆放射線医科学研究所(疾患モデル解析研究分野)の神沼修教授、東大大学院 農学生命科学研究科 獣医衛生学研究室の関澤信一准教授、福島県立医科大学 癌集学的治療地域支援講座の中嶋正太郎准教授、チリ・カトリカ・デ・ラ・サンティシマ・コンセプシオン大学のマリベト・ガンボア助教、日本医科大大学院 頭頸部・感覚器科学の後藤穣大学院教授らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、「npj Science of Food」に掲載された。

抹茶が脳内のくしゃみ反射経路に与える影響を解明

国内における花粉症の有病率は正確な把握が困難とされるが、日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会などがおよそ10年ごとに実施している「鼻アレルギー全国実態調査」によれば、約10年ごとに約10%ずつ増加し、最新データとなる2019年時点で42.5%に達している。

スギ花粉症に限定した場合も2019年時点で38.8%と、約3人に1人の割合だ。そのほか、イネ科やブタクサなどの花粉症も増加中で、現在、日本人の2人に1人が何らかのアレルギー性鼻炎に悩まされているといわれる。症状が重い場合は睡眠障害や集中力の低下などを招き、労働生産性の低下も引き起こす社会的課題としても懸念されている。

対処法としては、抗アレルギー薬などを内服する対症療法や、長期間かけてアレルギー反応を抑制するアレルゲン免疫療法といった根本的治療などがある。それ以外にも、花粉を家に持ち込まないように洗濯物を室内で干したり、空気清浄機を活用したりするといった生活習慣の改善も有効とされる。

より身近なアプローチとして挙げられるのが、お茶の飲用だ。お茶には健康に良いとされる成分が多く含まれており、飲用により鼻炎病態が改善されたとするヒトでの試験結果も報告されている。しかし、お茶がどのようにしてアレルギー鼻炎の症状を改善するのか、その具体的なメカニズムはこれまで明らかにされていなかった。そこで研究チームは今回、マウスのアレルギー性鼻炎モデルを用い、お茶の成分を最も効率的に摂取できる抹茶を投与することで、その病態に与える影響を調べたという。

アレルギー性鼻炎の発症には、IgE抗体やマスト細胞、T細胞などが関わっている。IgE抗体とは、アレルゲンを検知してマスト細胞に伝える「センサ」の役割を持つ免疫タンパク質だ。そしてマスト細胞は、IgE抗体からの信号を受けると、「ヒスタミン」などの刺激物質を放出してアレルギー症状を引き起こす細胞である。T細胞はリンパ球の一種で、免疫全体をコントロールする司令官として知られる。IgE抗体の産生を促したり攻撃の指示を出したりすることで、アレルギー性鼻炎の進展に関与している。

実験の結果、感作マウスに抗原を投与することで誘発されるくしゃみ反応が、抹茶の投与によって抑制されることが確認された。興味深いことに、マウスモデルでの解析では、IgE抗体の産生やマスト細胞を介した反応、T細胞の反応などは、抹茶による影響をほぼ受けていなかったという。また抹茶を投与することによる、腸内細菌の分布の変化も大きくはなかったとする。

  • 抹茶の抑制効果

    抹茶の抑制効果。感作マウスに溶媒(PBS)のみを投与した場合と比較して、抗原(OVA)を点鼻した場合は起こるくしゃみ回数の増加が見られたが、その反応は抹茶を投与することにより半分くらいまで減弱することがわかった。(出所:広島大プレスリリースPDF)

  • くしゃみ反射関連神経の活動に対する抹茶の効果

    くしゃみ反射関連神経の活動に対する抹茶の効果。ヒスタミンを点鼻することにより、くしゃみ反射関連神経の活動が高まったが、その反応は抹茶を投与することにより減弱することが確認された。(出所:広島大プレスリリースPDF)

免疫系への直接的な影響が見られなかったことから、次に脳内のくしゃみ反射関連神経の活動が調べられた。その結果、くしゃみ誘発物質である「ヒスタミン」の投与によって活性化されたくしゃみ反射関連神経の活動が、抹茶の投与により減弱することが判明した。マスト細胞から放出されるヒスタミンは、神経を刺激したり血管を広げたりすることで、くしゃみ・鼻水などのアレルギー症状を直接引き起こす化学物質である。

今回の研究により、抹茶を飲むことによって、アレルギー性鼻炎の発症や病態に関わる免疫応答は影響を受けないものの、くしゃみ反射関連神経に作用してその反応が減弱する可能性が明らかにされた。この成果は、日本だけでも約6000万人いるといわれている、アレルギー性鼻炎患者の症状改善に役立つ可能性があるという。今後は、ヒトが通常摂取する量で十分な効果が得られるのかなど、実際に患者でのデータ集積を行うことが重要になるとしている。