大阪大学(阪大)は3月18日、手などで光を遮っても「影の生じない」プロジェクションマッピング技術において、投影された映像が実物そのものの色や質感として知覚されることを初めて明らかにしたと発表した。

  • 手をかざしても影が生じないプロジェクションマッピング技術

    (左)一般的なプロジェクションマッピングでは、1つのプロジェクタから映像が投影されるため、手が光を遮ると影が生じる。(右)今回、天井に多数のプロジェクタを配置し、合成開口方式とすることで、影無しプロジェクションマッピングが実現した。手をかざしても影が生じないことがわかる。(出所:阪大Webサイト)

同成果は、阪大大学院 基礎工学研究科の岡本峻宙大学院生(研究当時)、同・竹内正稀大学院生、同・岩井大輔教授、北海道大学大学院 情報科学研究院・プロメテックCGリサーチの澤山正貴准教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、IEEEが刊行するCGや可視化技術、VR/ARなどを扱う学術誌「IEEE Transactions on Visualization and Computer Graphics」に2026年5月に掲載される予定。それに先立ち、3月21日から25日まで韓国で開催中のXRに関する国際会議「IEEE Conference on Virtual Reality and 3D User Interfaces (IEEE VR 2026)」にて、23日に口頭発表された。

印刷とも見分けがつかない新技術で映像表現を豊かに

そもそもプロジェクションマッピングは、建物や物体の表面に映像を投影し、その形状や凹凸に合わせて映像を精密に重ねることで、対象物の立体形状を活かした空間演出による視覚的効果を生み出す技術を指す。小規模なデスクトップ環境の展示物から、大規模な建造物の壁面を用いた屋外イベントに至るまで、エンターテインメントや広告などで広く活用されており、多くの人々の目を楽しませているのは周知の通りだ。

また、この技術は、現実空間にデジタル情報を重ねる「XR(クロスリアリティ)」を実現する手法の1つとしても位置付けられている。専用ゴーグルといった装着型デバイスを用いずに、複数人で立体的な演出を共有できる点も大きな特徴とされる。なおXRとは、VR(バーチャルリアリティ)、AR(拡張現実)、MR(複合現実)などを含む、現実空間とデジタル情報を融合する技術群の総称である。

これまでプロジェクションマッピングは、主に建物や物体に映像を重ねる“光の演出技術”として広く知られてきた。一方でXRや「質感科学」の分野においては、実物の色や模様、さらには質感をあたかも変化させたかのように提示できる可能性がこれまで議論されてきた。

質感科学とは、実物の“光沢”“粗さ”“透明感”などの質感が、どのように知覚されるのかを解明する学際的な研究分野のことだ。光学、視覚心理学、神経科学、情報科学などを横断し、物理的な特性と人間の知覚との関係を探る研究が進められている。近年では、プロジェクションマッピングのように実物に直接光を投影する手法が、従来の二次元ディスプレイでは捉えきれなかった質感知覚の仕組みを解明する実験手段として重要な役割を果たしている。

なお、従来のプロジェクションマッピングでは、一般的には投影結果は実物そのものの変化というよりも、「映像が重ねられている」として知覚されることが多いと考えられている。そのため、投影が実物そのものの変化として自然に知覚される実例はこれまで限られており、その成立条件も十分には整理されていなかった。そこで研究チームは今回、投射映像は観察者の身体によって容易に遮られる一方で、実物の色や質感は照明を遮っても失われないという性質の違いに着目したという。

今回の研究では、多数のプロジェクタを天井に設置し、多方向から光を重ねることで影を抑制する合成開口型のプロジェクションマッピング環境が構築された。その上で、文字が印刷された紙と、無地の紙に文字を投影したものを机の上に置き、投影された紙がどちらかを被験者が答えるという実験が行われた。その結果、影を抑制した条件では印刷と投影の判断が著しく困難になり、映像が実物の変化として知覚されうることが示されたとした。

今回の研究成果は、実物と一体化する映像表現の実現に近づくものであり、工業デザインや遠隔対話、医療など、エンターテインメント用途を超えた幅広い分野への応用が期待されるとしている。

公式動画「Shadowless Projection Mapping for Tabletop Workspaceswith Synthetic Aperture Projector」(内容は英語)。今回の研究で用いられた、複数のプロジェクタを用いて「影の生じない」プロジェクションマッピングを実現している仕組みや、実際に影が生じない様子を確認することができる。(出所:阪大 XRグループ YouTube公式チャンネル)