北海道大学(北大)は3月13日、北海道留萌郡小平町達布(るもいぐん おびらちょう たっぷ)に分布する白亜紀中期(約9000万年前)の地層から、世界最古のスギ類の化石を発見し、採集地の上記念別川(かみきねんべつがわ)にちなんで新属・新種である和名「カミキネンスギ」(学名:Kamikistrobus primulus)として報告したと発表した。

  • カミキネンスギの球果化石

    カミキネンスギの球果化石。鱗片が着色された立体構築像(左)、立体構築像(中央)、実際の化石(右)。(出所:北大プレスリリースPDF)

同成果は、北大大学院 理学院の姜淞耀大学院生、北大大学院 理学研究院の山田敏弘教授の研究チームによるもの。詳細は、古植物学および広範な胞子・花粉学を網羅する学術誌「Review of Palaeobotany and Palynology」に掲載された。

現生針葉樹類は約650種で構成される小グループで、そのうちヒノキ科は140種を占める。スギ類はヒノキ科に含まれるグループで、花粉症の原因であるスギ(1種)のほか、スイショウ(1種)、ヌマスギ(3種)の3属が含まれる。遺伝子の塩基の変化数から系統の分岐年代を推定する「分子時計」による解析では、スギ類は約9000万年前までに出現したと考えられてきた。しかし、これまでに発見されている最古の化石は約7600万年前のものにとどまっており、最初期のスギ類がどのような形態を持ち、どのような場所に生息していたのかは謎に包まれていた。

北海道留萌郡小平町達布の上記念別川流域には、白亜紀の海に堆積した地層である「蝦夷層群」が広く分布している。山田教授は大学院生時代の1999年6月、同地域で植物化石の調査を実施した際、1つの「球果化石」を発見した。球果とは裸子植物の生殖器官で、松ぼっくりがその代表例だ。「鱗片(りんぺん)」という小さな板が重なってできた構造物で、鱗片の根元に種子が挟まっており、熟すと鱗片が開いて種子を散布する仕組みを備える。

球果化石の詳細な研究には、化石を切断して内部組織を観察する必要がある。だが、この標本は山田教授にとって「北海道で初めて採った球果化石」であり、強い愛着から長らく手をつけられずにいたという。その思い入れのある化石を、姜大学院生が2022年に意を決して切断。その断面を詳細に解析した結果、スギ類の新属・新種であることが判明した。一緒に保存されていたアンモナイトの化石から、約9000万年前のものと推定されたのである。

球果化石は直径約1cmの球状で、短い軸の周囲に25枚の鱗片がらせん状に配列している。針葉樹の球果を構成する鱗片は、それぞれ2枚の葉が癒合してできたものだ。この癒合の程度や2枚の葉の大小関係は、針葉樹の球果を分類する重要な指標となる。

  • 切断する前のカミキネンスギの球果化石

    切断する前のカミキネンスギの球果化石(岩石の中央)。アンモナイトの化石と共に保存されていた。(出所:北大プレスリリースPDF)

今回の化石では、2枚の葉はほぼ同じ大きさで、基部で完全に癒合していたが、先端では2枚が分離していた。この特徴から、この球果化石がスギ類のものであることが特定された。しかし、現存するスギ類や基地の化石種の中に、この化石と完全に一致する特徴を持つものは存在しなかったという。そのため、新属・新種の学名「Kamikistrobus primulus」、和名「カミキネンスギ」として記載が行われた。属名のKamikistrobusは「上キ(上記念別川の化石マニア的ニックネーム)で見つかった生殖シュート」、種形容語のprimulusは、山田教授にとっての「初めての」を意味するとした。

  • 球果と鱗片の構造

    球果と鱗片の構造。鱗片は苞(ほう)と種鱗(しゅりん)という2枚の葉からなり、その内側に種子(胚珠)を抱く。(出所:北大プレスリリースPDF)

  • カミキネンスギの鱗片の横断面

    カミキネンスギの鱗片の横断面。2枚の葉の隙間が黄色で示されている。(出所:北大プレスリリースPDF)

鱗片は、盾状で、長方形の盾面と細い柄を持つ盾状を呈する。これらがゆるく集合し、鱗片同士の間には隙間が観察された。種子は残っていなかったが、鱗片の内側表面には種子が付着していた痕跡である2つの凹みが確認されたとした。

現生のスギ類と比べると、球状で盾状の鱗片を持つ点で、カミキネンスギはヌマスギとよく似ているという。しかし、ヌマスギの球果は五角形で密に集合した鱗片を持つため、鱗片を脱落させないと種子を散布できない。一方、カミキネンスギは鱗片を残したまま種子が失われて化石になっていたことから、鱗片を維持したまま種子を散布させていたことが考えられるとした。

また、カミキネンスギは球果が球状であること、鱗片がゆるく集合する点でスギとも共通点を持つが、スギのように鱗片が鋸歯を持たない。カミキネンスギは最古の化石であることから、このような球果の形を出発点として、後にスギやヌマスギのような多様な球果が派生していったことが推定されるとした。

  • 現生スギ類の球果

    現生スギ類の球果。(出所:北大プレスリリースPDF)

一般的に球果の鱗片が密に集まるのは、中の種子を乾燥や火災から守るためだと考えられている。ヌマスギは湿地に生える植物だが、湿地は酸素に乏しく、十分に根を張り水を吸い上げることもできない。つまり、ヌマスギは湿地環境にありながら乾燥に耐える必要に迫られているという。

カミキネンスギは乾燥に適応した特徴を持っていなかったが、約7600万年前ごろになると、密に配置し脱落する鱗片を持つスギ類が現れる。白亜紀は「被子植物の時代」ともいわれ、被子植物の拡散によって多くの裸子植物が生育場を失っていったと考えられている。

ヒノキ科を含む針葉樹類も例外ではなく、約7600万年前ごろからは衰退が急速に進行した。ちょうどこの時期に乾燥に適応した特徴が現れるのは、被子植物が進出困難な場所への逃避が始まったことが示されている可能性があるとした。カミキネンスギは、スギ類の最初で最後の繁栄を垣間見させてくれたとする。

白亜紀におけるスギ類の化石は十分に研究されておらず、被子植物との競合の詳細は解明しきれていない。今後、9000万年前から7600万年前までの時代の化石を探索することで、その実態が見えてくる可能性があるという。

また、一見地味に見える球果だが、白亜紀には極めて多様な形態が存在したことも判明しつつある。実際、今回の化石も、これまでに知られていない形態を持っていた。研究チームは今後、白亜紀の球果化石を網羅的に収集することで、白亜紀における針葉樹類の「試行錯誤」の歴史を解明したい考えだ。白亜紀の地層が広く分布する北海道は、球果化石の探索に最適なフィールドであることから、今後も精力的に化石調査を継続していくとしている。