難治性の慢性中耳炎である「真珠腫性中耳炎」に、急性白血病の治療薬として開発が進んでいる分子標的薬「メニン-MLL阻害剤」が効く可能性を、東京慈恵会医科大学の研究グループが見つけた。真珠腫性中耳炎は鼓膜周辺に真珠のような白い塊ができる病気で、これまで手術で摘出するしか治療法がなく、摘出しても再発しやすかった。薬物治療ができれば、患者の負担を減らす道が開けるという。

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    真珠腫性中耳炎は名前のように白い塊ができる疾患。現在は手術しか治療法がない

東京慈恵会医科大学耳鼻咽喉科学講座の福田智美講師、穐山直太郎講師、小島博己教授(いずれも耳科学)らは、小児から高齢者まで幅広く発症する真珠腫性中耳炎のメカニズムや治療方法について研究を続けてきた。真珠腫性中耳炎は、聞こえにくさや耳だれを訴えて来院することが多いのが特徴。良性の白い塊が、耳の骨を溶かしながら大きくなる進行性の疾患だ。

手術は全身麻酔をかけ、顕微鏡や内視鏡を使い、耳の骨を削って塊を摘出する。進行すると、聞こえに関与する耳小骨が破壊されるため、耳小骨の再建術も施す必要がある。また、内耳、顔面神経、脳に近いところに発症するため、耳鳴り、治らない難聴、めまいといった内耳障害や、顔面神経麻痺、髄膜炎・脳膿瘍のリスクがある。手術をしても、10年再発率は44パーセントという報告もあり、患者の負担を減らすためにも、手術とは別のアプローチが必要だった。

研究グループは先行研究で、疾患の発症には遺伝子の発現制御に関わる「エピジェネティクス」が関与していることを見いだしていた。真珠腫を構成する細胞の増殖は、「メニン-MLL複合体」と呼ばれる複数のタンパク質が制御。この複合体が働くことで真珠腫構成細胞が増殖する。ゆえに、メニン-MLL複合体の働きを抑制すれば、理論上は真珠腫が増大しないことになる。

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    真珠腫性中耳炎は、エピジェネティックな遺伝子の働きによって発症する(福田智美講師提供)

血液内科の領域では2025年11月、特定の遺伝子変異を有する再発・難治性急性骨髄性白血病成人患者向けに、メニン阻害剤が米国で初承認された。メニンタンパク質とある特定のタンパク質の結合を阻害し、原因遺伝子の発現を抑える新たな分子標的薬だ。

福田講師らは、先行研究でヒトの真珠腫性中耳炎と同様の病態を再現できるモデルマウスを開発した。真珠腫モデルマウスにメニン-MLL阻害剤を点耳薬として局所に投与し、効果が見られるか検証した。その結果、7日間の投与で縮小が見られ、きれいな状態に戻っていた。今後はヒトへの応用を目指したいという。

福田講師は「真珠腫性中耳炎治療薬候補として白血病治療薬として開発されたメニン-MLL阻害剤を同定できたことは大きな進歩だと思う。治療薬として患者さんにお届けするにはまだ越えなければいけないハードルがある。真珠腫性中耳炎は患者さんのQOLが下がる疾患なので、手術以外の選択肢として使えるよう、更に研究を続けたい」とした。

研究は日本学術振興会の科学研究助成費助成事業の助成を受けて行われた。成果は1月26日、英オンライン科学誌「サイエンティフィック リポーツ」に掲載され、同27日に東京慈恵会医科大学が発表した。

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