東京都立大学(都立大)と国立天文台の両者は3月13日、欧州宇宙機関(ESA)の位置天文衛星「ガイア」が2022年6月に公開した分光解析カタログ「GSP-Spec」を用いて、太陽と酷似した性質を持つ「太陽双子星」の高信頼度カタログとして、従来の約30倍に相当する6594天体を構築し、観測の偏りである「選択効果」を統計的に補正した結果、太陽系近傍には、太陽系の誕生時期(46億年前)を含む約40~60億年前に生まれた太陽双子星が数多く存在することを発見したと共同で発表した。

  • 太陽と太陽双子星たちの大移動のイメージ

    太陽と太陽双子星たちの大移動のイメージ。太陽は単独ではなく、多くの「仲間」と共に銀河を旅してきた可能性が浮上した。(c)国立天文台(出所:都立大プレスリリースPDF)

同成果は、都立大 理学部 物理学科/理学研究科 物理学専攻の谷口大輔助教、国立天文台 JASMINEプロジェクトの辻本拓司助教らを中心とする交際共同研究チームによるもの。詳細は、欧州各国の主要機関が共同運営し、日本も加盟する世界的な天文学および天体物理学を扱う学術誌「Astronomy & Astrophysics」に掲載された(論文1本目論文2本目)。

  • 提案された太陽大移動のメカニズム

    今回の研究により提案された太陽大移動のメカニズム。天の川銀河の棒状構造の形成が太陽を誕生させた可能性がある。(c)国立天文台(出所:都立大プレスリリースPDF)

太陽系は現在、天の川銀河の中心から約2.7万光年の距離に位置している。しかし、周辺の恒星と重元素含有量を比較すると多いため、誕生した領域は現在より1万光年ほど内側の、より重元素に富んだ領域だったと推定されている。つまり太陽系は約46億年をかけて、現在の軌道半径まで移動してきたと考えられている。こうした銀河内での半径方向の移動は、「動径方向移動」と呼ばれる。

一方で、銀河中心部で回転している長さ約3万光年の棒状構造は、その末端付近に「共回転バリア」という重力的障壁を形成する。棒状構造のパターンの回転速度と、個々の恒星の公転速度が一致する「共回転半径」では、恒星が棒状構造から受ける重力が一定になるため、この半径を超えて内外へ移動することは物理的に難しいとされる。このため、太陽がこのバリアを突破できたのは、偶然なのか、何かの必然があってのことなのかがわかっていなかった。

  • 現在の太陽系の位置と太陽系が誕生したと考えられる位置

    現在の太陽系の位置(青実線)と、太陽系が誕生したと考えられる位置(赤点線)。天の川銀河の中心部にある棒状構造が作る共回転バリア(黄色)が、移動の障壁になると考えられてきた。(c)NASA/JPL-Caltech/ESO/R. Hurt、著者らが改変したもの(出所:都立大プレスリリースPDF)

そこで研究チームは今回、表面の温度や重力、重元素量などの「大気パラメータ」が太陽に極めて近い「太陽双子星」に注目。今回の研究では、太陽との差が、表面温度200℃以内、表面重力と重元素量がそれぞれ約2割以内の恒星が太陽双子星として定義された。これらの星は、色や明るさなどが太陽とほぼ共通しており、個々の性質や統計的性質を極めて高い精度と信頼度で調べられる希少な存在だ。しかし、従来の研究ではサンプル数や年齢決定の信頼性が不足していたため、今回はガイア衛星の膨大なデータであるGSP-Specに着目したという。

  • 太陽双子星について

    太陽双子星について。(左)多様な種類の恒星の色と明るさの関係。太陽双子星は、太陽と酷似した色と明るさを持つ星(赤色の台形中の恒星)を指す。(右)今回の研究で得られた太陽双子星たちの距離ヒストグラム(青)は、従来の約30倍のサンプルサイズを誇る。(出所:国立天文台 JASMINEプロジェクトWebサイト)

GSP-Specに含まれる約560万天体の中から、系統的にデータマイニングにより、太陽系から約1000光年以内に分布する太陽双子星6594天体のカタログが構築された。これは、従来の約30倍の天体数だ。また、それぞれの太陽双子星の年齢が恒星進化モデルに基づいて決定された。天体観測では「明るい星ほど見つかりやすい」といった、データの偏り(選択効果)が避けられない。そこで今回は人工的に数万天体の太陽双子星を作成し、どの年齢の星がどの程度観測されやすいかを表す「選択関数」が定量化された。続いて、信号処理技術などを応用して観測データの偏りを取り除いた結果、太陽双子星の「真の」年齢分布を復元することに成功したとする。

得られた真の年齢分布には、約20億歳の鋭いピークと、約40~60億歳に広がる緩やかな膨らみが現れた。前者は、これまで太陽双子星以外でも確認されており、いて座矮小楕円銀河の衝突などが起源として議論されてきたが、今回はこれまで見落とされてきた後者の膨らみが注目された。統計解析によって明らかになったこの膨らみの約40~60億年という年齢は、太陽の年齢(46億歳)とよく一致する。つまり、太陽と同世代かつ酷似した星たちが、太陽系のすぐ近傍に多数存在しているということが明らかにされた。

太陽と同世代の太陽双子星が近傍に多く存在するということは、太陽系の大移動に対して強い制限を与える。これらの太陽双子星は、太陽とほぼ同じ年齢と重元素量であり、太陽と同様に銀河中心側で誕生した後、生涯を通じて現在の場所まで移動してきたと推測された。これは、共回転バリアに妨げられずに多くの太陽双子星の大移動を可能とする、普遍的な機構の存在を示唆する結果だ。つまり、太陽系だけが例外的に、偶然、長距離を移動できたのではなく、太陽系は多くの「大移動仲間の一員」だった可能性が高いことがわかってきたのである。

続いて、棒状構造の形成期が注目された。形成後の安定した棒状構造は共回転バリアにより大移動を難しくする。逆に、形成時期には、その力学的影響によって中心部で星形成が活発化し、同時に星が効率的に動径方向移動できる可能性が先行研究で指摘されていた。棒状構造の形成時期は長年議論されてきたが、80億年以上前とする説が主流だった。しかし、もし約60億~70億年前に形成されたのであれば、その形成に伴い、約40億~60億年前に太陽系と多数の太陽双子星が銀河の中心側で誕生し、誕生後間もなく現在の位置まで大移動できた可能性があるという。

今回の研究により、太陽系が銀河内で辿ってきた大移動の道のりに新たな手がかりが与えられた。研究チームは今後、特定した太陽と同年代の太陽双子星を精密観測することで、太陽と同じ場所・同じ時期に誕生した、真の意味での「双子」星を発見し、大移動の出発点や移動経路の特定につなげる考えとした。

  • 観測データの偏りを除去して得られた太陽双子星の真の年齢分布など

    (上)観測データの偏りを除去して得られた太陽双子星の真の年齢分布。(下)棒状構造の形成に伴い、太陽系と多数の太陽双子星が誕生・移動したとする新シナリオが提案された。太陽双子星は年齢と誕生半径に逆相関があると考えられており、その目安が上軸に示されている。(出所:都立大プレスリリースPDF)

銀河の中心側は、超新星爆発などの高エネルギー現象が頻発する過酷な環境とされる。もし太陽系が誕生後間もなく外側の安全な領域へと移動したのだとすれば、太陽系は偶然ではなく、棒状構造形成のおかげで必然的に、生命を育みうる惑星系へと成長した可能性があるという。さらには、太陽系と共に移動した太陽双子星の中にも、地球のように生命を宿しうる系外惑星を持つ星が存在する可能性もあるとする。また、2028年打ち上げ予定の日本初の位置天文衛星「JASMINE」による、さらなる探求が期待されるとしている。