わが国も参画する米国主導の国際月探査「アルテミス計画」を大幅に変更することを、米航空宇宙局(NASA)が発表した。アポロ計画以来、約半世紀ぶりとなる有人月面着陸を、来年から2028年へと1年延期する。一方、国際宇宙ステーション(ISS)に物資を運ぶ宇宙航空研究開発機構(JAXA)の補給機「HTV-X」初号機が、物資輸送の役割を終えてISSを予定通り離脱した。さらに飛行を続け、3カ月に及ぶ“後半戦”の実証実験などに着手した。
「飛行の高頻度化が必要」NASA長官
アルテミス計画では2022年11月、アルテミス1として大型ロケット「SLS」初号機を打ち上げ、搭載した宇宙船「オリオン」の無人試験飛行に成功した。直近の計画では、来月までにアルテミス2を実施して53年ぶりの有人月周回飛行を実現し、来年のアルテミス3で有人月面着陸を果たすとしていた。
NASAのジャレッド・アイザックマン長官は先月27日、米フロリダ州のケネディ宇宙センターで会見し、次のような計画変更を発表した。
(1)来年のアルテミス3では月面に着陸しない。オリオンを有人で打ち上げ、地球上空で月着陸船とランデブーやドッキングをする。飛行士が機体の各種機能を確認し、船外活動用宇宙服の試験もする。着陸船は開発中の米スペースX社「スターシップHLS」とブルーオリジン社「ブルームーン」のどちらか、または両方を使用する。
(2)2028年に実施するアルテミス4で、有人月面着陸に挑む。同年にもう1回、着陸を試みる可能性がある。
(3)SLSの上段には、高度化した機体を段階的に採用する計画だった。これを改め、今後もできるだけ従来型に近い機体を標準化して使用する。
計画変更の理由について、アイザックマン氏は歴史を引き合いに出し、「われわれは(1969年に初めて有人月面着陸をした)アポロ11号をいきなり実現したのではない。マーキュリー計画やジェミニ計画、そして(11号より前の)多くのアポロのミッション(任務)があって、ついに着陸したのだ」と説明。「これまでのアルテミス計画は(初の有人月周回飛行をした)アポロ8号の後、いきなり(アポロ11号のように)月面を目指すようなものだ。このようにミッションの間の目標の差が大きいことは、成功への道ではない」と指摘した。アポロ計画では8号に続き9、10号で機体の性能試験などを重ね、11号に至っている。
アイザックマン氏はまた「アルテミス1は3年も前のことだ。このような低頻度の飛行では技能が衰え、記憶が失われてしまう。これは正しい進め方ではない」と話し、計画の実現には飛行を高頻度化する必要があると強調した。「SLSの機体構成を変更すると、状況を悪化させる。機体を標準化して複雑さをできるだけ避け、開発や製造に伴うリスクを軽減することにした」などとした。
NASAは当初、2028年頃の有人月面着陸を構想していたが、第1次トランプ政権の強い意向で、いったん24年に前倒しした経緯がある。これが技術的な要因などで遅れ、さらに今回の変更によって結果的に28年に戻った形だ。
アルテミス2は先月に打ち上げる予定だったが、延期している。準備中にSLSの上段機体で、エンジンの状態維持や燃料タンクの加圧に使うヘリウムの供給に異常が発生したため。来月の打ち上げを目標に、対策を進めているという。
アルテミス計画は、米国が国際宇宙ステーション(ISS)に続く大規模な国際宇宙探査として主導。1972年のアポロ17号以来となる有人月面着陸を目指す。月上空の基地「ゲートウェー」の建設を進め、基地や月面で実験や観測を重ね、将来の火星探査も視野に技術実証を進める。わが国はゲートウェーの居住棟の環境制御機構や物資補給機、月面探査車などを提供し、日本人2人が月面に着陸する。欧州やカナダも参画している。
ISS運用、2年延長も
米上院商務科学運輸委員会は今月4日、NASAによるアルテミス計画の変更を基本的に支持する内容のNASA授権法改正案を承認した。同法案にはISSの運用を2030年で終える計画を、2年延長して32年とすることなども盛り込んだ。計画されてきたゲートウェーにほぼ触れない一方、持続的な月面基地の建設を初めて認める内容となった。正式決定には、上下両院の承認や大統領署名を経る必要がある。ISS延長などは日本を含む参加国との合意も求められる。基地建設などをめぐり大きな計画変更があると、各国で調整済みの役割分担に影響する可能性がある。
ISS終了後、新たに建設される民間宇宙基地が地球低軌道の開発利用を引き継ぐ計画だが、取り組みが遅れている。一方、中国が独自に有人の低軌道宇宙基地を運用しており、月面着陸や月面基地建設も目指している。米国の計画変更の動きはこうした情勢を受け、宇宙分野での優位を維持する狙いがある。
HTV-X、さらに3カ月かけ技術実証
HTV-Xは米国人飛行士がISS船内からロボットアームを操縦し、6日午前4時23分に係留が解除された。ISSから約10メートル離れた後、7日午前2時頃、太平洋中央部の上空約418キロでアームから離脱した。アームとの距離を約5メートル確保すると飛行士がコマンドを送信し、HTV-Xがエンジンを噴射し上昇して離れていった。
HTV-Xは、2009~20年に9機が運用された「こうのとり(HTV)」の後継機。全長8メートル、太陽電池パネルを開くと幅が18メートルで、打ち上げ時の重さは搭載物資を除き16トン。物資の輸送能力は5.85トンあり、こうのとりの4トン(棚の2トンを除く)のほぼ1.5倍となった。ISS船外で使う物資を機体の外側に搭載する形に改めるなど、機体を合理化。物資を積み込む期限を、打ち上げの80時間前から24時間前に改善した。また、ISSに係留できる期間を2カ月から半年に延長するなど利便性を高めたほか、ISSを離脱後、大気圏突入前に最長1年半、宇宙空間で技術実証の実験などができるようにした。政府の宇宙基本計画工程表によると、来年度に2号機を打ち上げる。
初号機は昨年10月26日、JAXA種子島宇宙センター(鹿児島県)からH3ロケット7号機で打ち上げられ、30日にISSに到着した。二酸化炭素除去の実証装置などの機器類、ISSから放出する超小型衛星、飛行士の食品、企業が有償で行う実験や事業の物品などを送り届けた。到着後は飛行士がこれらの物資を搬出し、使用済みの廃棄物を収納して離脱の準備を進めてきた。
さらに飛行を続けながら3カ月かけ、3つの技術に挑む。(1)ISSの軌道より高い高度500キロで超小型衛星を放出する。(2)機体表面に取り付けた反射器に向けて地上からレーザーを当て、精密に距離を測る。(3)宇宙でアンテナや次世代太陽電池を広げるための新たな軽量パネルを展開し、アンテナや太陽電池の性能を確かめる。JAXAは今月12日、(1)の取り組みとして日本大学の衛星を11日に放出したと発表した。
HTV-Xは改良を加え、ISS終了後も地球上空に設けられる民間宇宙基地や、アルテミス計画のゲートウェーに物資を運ぶことが想定されている。
|
関連記事 |




