産業技術総合研究所(産総研)は3月11日、最近日本で発見された「パイロクロア型酸化物系固体電解質材料」が、現行のリチウムイオン電池(LIB)に用いられている有機電解液に匹敵する15mS/cm-1のイオン伝導率を示すことを実証したと発表した。

  • 今回の研究成果のイメージ

    今回の研究成果のイメージ。通電焼結技術を用いて、パイロクロア型酸化物系固体電解質の緻密化に成功した。(出所:産総研Webサイト)

同成果は、産総研 電池技術研究部門の藤田侑志研究員、同・竹内友成上級主任研究員、同・伊藤優汰研究員、同・奥村豊旗研究グループ長らの研究チームによるもの。詳細は、米国化学会が刊行する学際的な材料科学の速報論文を扱う学術誌「ACS Materials Letters」に掲載された。

安全な酸化物系全固体電池の実現へ一歩進展

現在の一般的なLIBは、可燃性の有機電解液を利用しているため、常に発火の危険性や電池寿命の問題がつきまとう。そこで、発火リスクを大幅に低減でき、さらなる高容量化も達成できることから、電解液を固体電解質に置き換える全固体電池の研究が世界中で活発に行われている。電気自動車(EV)への搭載においても、安全性の向上に加え、冷却システムを簡略化できることから、搭載スペースと重量を削減できるとして期待されている。

現在、研究開発中の無機固体電解質は、主に硫化物系・塩化物系・酸化物系に大別される。中でも酸化物系固体電解質を用いた全固体電池は、とりわけ熱に強く、長期サイクル寿命も期待されている。その反面、材料のイオン伝導率が有機電解液や他の固体電解質材料に比べ1桁も低いため、EVなどの大型電池用途における出力面での課題を抱えていた。

そうした中、近年、日本の研究チームによって発見されたのが、パイロクロア型酸化物系固体電解質だ。イオンが通過しやすいトンネル小周防が結晶中に存在するため、まだ有機電解液などの性能には及ばないものの、酸化物系固体電解質の中では最高のイオン伝導率を示すことから、注目されつつある物質である。

パイロクロア型酸化物系固体電解質は、主に酸素や遷移金属元素で構成され、大気や湿気に非常に高い耐性を持つ。そのため、他の固体電解質材料と異なり、材料管理に厳密な雰囲気制御が必要ないというメリットがある。その一方で、緻密化が容易ではなく、内部にリチウムイオンが移動できない隙間が残ってしまうため、これまでの測定ではイオン伝導率を適切に評価できていない可能性があった。

20年以上も前から産総研が蓄積してきたのが、粉末に電気と圧力を同時に加えて短時間で焼き固める「通電焼結法」を用いたセラミックス材料の合成や緻密化のノウハウだ。この手法では、材料内部を高速で加熱でき、従来の焼結法と比べ低温で緻密な固体を作れる点が優れている。またスケールアップも比較的容易で、直径10cm程度のターゲット材料(薄膜作製に必要な基板)も短時間で作成可能だ。今回の研究では、通電焼結法のノウハウをパイロクロア型固体電解質に活用し、その潜在的なイオン伝導率の評価を試みたという。

パイロクロア型固体電解質の焼結体は、通電焼結装置の中央にある黒鉛治具に粉末試料を詰めて加圧しながら焼結することで作製される。焼結中は黒鉛治具が発熱し、この熱と圧力によって粉末試料が急速に焼結される仕組みだ。

  • 通電焼結装置の外観と作製されたパイロクロア型固体電解質の焼結体

    (左)通電焼結装置の外観。(右)作製されたパイロクロア型固体電解質の焼結体。(出所:産総研Webサイト)

通電焼結法で作製されたパイロクロア型固体電解質の断面を観察したところ、粒子間の隙間がほぼ確認できず、理論密度比で約98%という極めて高い緻密度であることが明らかにされた。隙間がなくなるとリチウムイオンがスムーズに移動できるため、イオン伝導率がより一層高まるという。

リチウムイオン伝導率を測定した結果、15mS/cm-1であることが確かめられた。焼結体全体のイオン伝導率は11mS/cm-1を示し、パイロクロア型固体電解質の高いイオン伝導率が確認された。これは、既存LIBで一般的に利用されている有機電解液に匹敵する数値だ。つまり、この固体電解質は、「酸化物系固体電解質を使った全固体電池はイオン伝導率が低い」という長年の課題を解決する、ブレイクスルーとも言える材料だったのである。

  • パイロクロア型固体電解質の断面像

    パイロクロア型固体電解質の断面像。(出所:産総研Webサイト)

  • パイロクロア型固体電解質の結晶内および焼結体全体のイオン伝導率の温度依存性

    電気化学測定によって得られた、パイロクロア型固体電解質の結晶内および焼結体全体のイオン伝導率の温度依存性。※原論文の図を引用・改変したものが使用されている。(出所:産総研Webサイト)

2010年代の後半には、EV用の固体電解質は2020年代半ばに実用化されると期待されていたが、現状そのスケジュールは遅れ気味だ。今回の研究成果は、EVなどの大型電池用途の材料として実用水準に達していることを示唆するものとした。

パイロクロア型固体電解質のイオン伝導率は、従来の酸化物系、硫化物系、塩化物系それぞれの固体電解質と比べて、室温で同等以上の性能が示された。さらに、この固体電解質は-100℃といった低温でもイオン伝導率の減少が抑えられていることも判明。このことから、パイロクロア型固体電解質を全固体電池に応用すると、低温特性に優れることから極地や宇宙空間などの極低温環境の用途でも高い性能を発揮することが期待されるとした。

研究チームは今後、パイロクロア型酸化物系固体電解質を採用した全固体電池のセル設計および電池特性評価を行うと同時に、現行LIBと同等レベルのエネルギー密度・サイクル寿命・出力特性を示す次世代全固体電池の実用化に向けて研究開発を進めていくとしている。