未来館の5階にある「プラネタリー・クライシス」という展示に、「国・地域ごとのCO2排出量を比べてみよう」という人気のコーナーがあります。ここで紹介しているのは日本、ドイツ、アフリカなど10の国と地域で、木のボールで二酸化炭素(CO2)排出量を表しています。ボールの数は人口を、そしてボールの大きさは250万人当たりのCO2排出量。でも、ある国や地域がどれくらいCO2をはじめとする温室効果ガス※を出しているのかは、どうやってわかるのでしょうか?

※CO2と他の温室効果ガスについて、下記の解説ボックス『「CO2」と「温室効果ガス」は違う?同じ?』もご参照ください。

方法を選ぶ

大気中の温室効果ガスの濃度は人工衛星を使って量ることができますが、その方法ではどこから排出されたかはわかりません。一方、工場、農地、車などすべてに温室効果ガスの排出量を測る装置をつけるのは現実的ではなく、直接量ることも難しいです。だから、ある国の排出量を知りたければ、直接的に量るのではなく、できるだけ正確な推計をする必要があるのです。

推計するときに、まず考えるべきことは何を推計に含めるかです。とにかくすべての温室効果ガス排出量が知りたいのか、人間の活動によって出された分だけを知りたいのか? また、CO2だけに絞るのか? 他にも、飛行機が国から国へと飛ぶ場合、排出量はどの国のものとするのかなど、具体的に何を知りたいのかによって、推計する方法は変わってきます。

「CO2」と「温室効果ガス」は違う? 同じ?

一番よく知られている温室効果ガスといえばCO2です。でもそれ以外にも、熱を大気中に閉じ込めて、地球温暖化を起こすガスが何種類かあります。そうしたガスをまとめて「温室効果ガス」といいます。

「プラネタリー・クライシス」の展示で使われたデータには、さまざまな温室効果ガスのうちCO2のみを対象にしており、「化石燃料の燃焼」と「セメント生産」から排出される分だけが含まれています。一方で、「グローバル・カーボン・プロジェクト」という国際プロジェクトでは、地球全体の炭素循環(炭素はCO2のほかにもたくさんの物質に含まれる元素)を把握するため、人間活動により排出されるCO2だけではなく、自然から発生するCO2も推計に含めています。ほかに、国連の「気候変動枠組条約 (UNFCCC)」では、人間活動による気候変動を抑えることを目的にしているため、CO2だけでなくさまざまな温室効果ガスも対象にする一方で、人間活動以外の原因で発生するものについては対象に含みません。

温室効果ガス排出量の推計の例の一つとして、気候変動枠組条約が推奨している算定用ガイドラインを少し見てみましょう。このガイドラインの1996年版(1996改訂版温室効果ガス目録作成のためのIPCCガイドライン)は、多くの発展途上国が使っています。2006年版(2006年IPCC国家温室効果ガスインベントリガイドライン)は、主に先進国が使っています。2006年のガイドラインのほうではより正確に推定できますが、基本的な考え方は大部分において共通です。

そもそも、国はなぜ温室効果ガス排出量を算定するの?

温室効果ガスは地球温暖化を引き起こすガスのことです。私たちが温室効果ガスを排出し続ける限り、地球は暑くなり続けます。そうなると、猛暑や非常に強い台風、干ばつや大雨などが増えて、暮らしがどんどん脅かされます。だから、世界の国々は「気候変動枠組条約」で、大気中の温室効果ガス濃度を危険なレベルまで上昇させないよう約束をしました。この「危険なレベル」を超えないように、国々が排出量を減らすさまざまな対策を立てたり、またその効果を評価するために温室効果ガス排出量を算定したりする必要があるのです。

算出する

温室効果ガス排出量の算定の基本は、実はかなりシンプルです。どのような活動が温室効果ガスを排出しているかを調査し(IPCCのガイドラインには算定に含めるべき活動がまとめられている)、その活動の「量」に「排出係数」をかけます。排出係数は活動単位当たり排出される温室効果ガスの量を表す数値です。

例えば、ある国で石炭(亜瀝青炭(あれきせいたん):発電に使われる石炭の種類の一つ)を燃やして5ギガジュール(GJ)分の電気を発電したとしましょう。そうすると、温室効果ガスが発生します。排出量は、石炭(亜瀝青炭)による発電量あたりの排出係数(ジュールあたり)に発電量をかけることで算出できます。IPCCは石炭による発電に関していくつかの排出係数を提供しています。今回は韓国の発電所で実際に測定された排出係数(1ギガジュール当たり96,241 kgのCO2を排出)を使います。計算は5(GJ)x96,241(kg CO2)=481,205kg CO2となり、およそ481トンの CO2が排出されたことになります。

このように、温室効果ガスを排出するすべての活動による排出量を一つずつ算定できます(2006年のガイドラインのほうが1996年のガイドラインと比べて多くの活動を含みます)。ただ、この方法で算出できる数値はわりと大まかなものです。その理由は、IPCCの排出係数では、自国の状況とは異なる可能性があるからです。例えば、上記の例では韓国で測定された排出係数を使いましたが、韓国以外の国の発電所の仕組みなどが違うと、実際の排出量も変わります。

実際の排出量により近い推定ができるように、ガイドラインは自国の状況をできるだけ反映するように促しています。例えば、IPCCの既定の値を使うのではなく、自国の発電所で実際に測定した温室効果ガス排出量を排出係数として使うことができます。そうすることで、より現実に近い排出量を推定できます。

結果を合わせる

すべての温室効果ガス排出量を算出すると、活動別、温室効果ガスの種類別の排出量の一覧ができます。次に、温室効果ガスの種類別に、排出量を足し合わせることができます。例えば、温室効果ガスの一つであるCO2を出す活動に関してすべて足し合わせることで、自国におけるCO2の全排出量がわかります。また、別の温室効果ガスであるメタンが出る活動に関しても足し合わせることでメタンの全排出量分かります。他の温室効果ガスも同じ手順です。

ただ、温室効果ガスの種類によって、温暖化を引き起こす強さは異なるため、国全体の温室効果ガスの排出状況を知るには、それぞれの排出量を単純に足し合わせるだけでは意味がありません。そこで使われるのが「地球温暖化係数(GWP)」です。これは、それぞれのガスがCO2と比べてどのくらいの温暖化を引き起こすかを数値で表したものです。例えば、メタンは100年間でCO2より27~29.8倍の熱を大気に閉じ込めます。つまり、メタンの地球温暖化係数は27~29.8です。だから、メタン排出1 kgは27~29.8 kgCO2eqとなります。CO2eqの「eq」は「equivalent」(~に相当、~に等しい)の略です。

地球温暖化係数を使うと、さまざまな種類の温室効果ガス排出量をCO2に換算することができます。換算した値を足し合わせることで国全体の温室効果ガス排出量が求められます。

最後に

算出方法を選び、何を含めて何を除外するのかを決め、活動ごとの排出量を計算して、CO2eqに換算し、最終的に足し合わせるまで、温室効果ガスの排出量の算定には大量の手間と計算が必要です。それでも世界中の人々がその努力をするのは、排出量を実質ゼロにして地球温暖化に歯止めをかけるまで、後どれくらい排出量を減らせばいいかを把握するためです。このような算出の努力は、温室効果ガスの濃度を危険なレベル以下に抑えようとする地球規模の努力を支えます。そして最終的には、私たちの暮らしを地球温暖化から守ることにもつながるのです

関連リンク

  • English version of this blog https://blog.miraikan.jst.go.jp/articles/20260311greenhouse-gas-emission-calculations-en.html
  • 【出典】1996改訂版温室効果ガス目録作成のためのIPCCガイドライン https://www.ipcc-nggip.iges.or.jp/public/gl/invs1.html
  • 【出典】2006年IPCC国家温室効果ガスインベントリガイドライン https://www.ipcc-nggip.iges.or.jp/public/2006gl/
  • 【出典】亜瀝青炭の排出係数:https://www.ipcc-nggip.iges.or.jp/EFDB/find_ef.php
  • 【出典】メタンの地球温暖化係数:https://www.ipcc.ch/report/ar6/wg3/downloads/report/IPCC_AR6_WGIII_Annex-II.pdf


Author
執筆: Serah Hoeks(日本科学未来館 科学コミュニケーター)
【担当業務・Daily activities at work】
アクティビティの企画全般に携わり、サステナブルなミュージアムの実現を目指し、未来館のサステナビリティ対策や情報発信に取り組む。
I plan and organize museum activities, aim to make Miraikan a more sustainable museum, and communicate about Miraikan’s sustainability measures.

【プロフィル・Profile】
環境教育センターの教育担当としてゴミや物質循環について教えていたきっかけでより持続可能な世界をつくるべきだと思い、未来館でその実現を目指している。
When I taught about waste and circular economy as an educator at an environmental education center, I realized we need to build a more sustainable world, and that is exactly what I strive to do at Miraikan.

【分野、キーワード・Areas of interest / keywords】
持続可能性、物質循環、ライフサイクルシンキング
Sustainability, circular economy, life cycle thinking