「すばる望遠鏡の建設が、日本の天文学研究にどのような影響を与えたのか」を定量的に分析した研究が学術発表されたことを、国立天文台がハワイ現地時間2月23日に発表。「すばる望遠鏡は、世界的な注目を集める研究を数多く生み出し、日本の研究の国際的な存在感を大きく押し上げたことが、論文データから明らかになった」とコメントしている。
東北大学 学際科学フロンティア研究所の藤原英明特任准教授による研究成果で、詳細は日本天文学会欧文研究報告「Publications of the Astronomical Society of Japan」に2025年9月17日付で掲載されている。
宇宙をより詳しく調べるためには、大型で高性能な望遠鏡が求められる。世界最高水準の望遠鏡で天文学の最前線に立ちたい、という日本の天文学者の“長年の夢”は1999年、ハワイ・マウナケア山頂域に口径8.2メートルの光学赤外線望遠鏡「すばる望遠鏡」が完成したことで実現した。
すばる望遠鏡は、ファーストライトで公開された鮮明な宇宙画像が大きな注目を集め、その後も、銀河や恒星、系外惑星など、さまざまな天体に関する観測成果に寄与。日本の光学赤外線望遠鏡として国際的にも高い評価を得た。一方でその科学的貢献は、発見の数や話題性だけでなく、研究成果の論文が世界でどれだけ参照され、影響を与えているかという観点からも測られることになる。
藤原特任准教授は今回、国際的な論文データベースを活用して、すばる望遠鏡の初期にあたる1996年から2007年までに発表された天文学・宇宙物理学分野の査読論文を対象に、引用指標を用いた計量書誌学的手法で評価を行った。
具体的には、対象論文の中から、すばる望遠鏡の観測データを用いた論文を特定し、日本全体と世界全体の論文と比較。すばる望遠鏡が本格的に稼働を始めた2000年前後で、日本の天文学者が関わった論文の数や被引用数(論文がどれほど重要視され注目を集めたのかを示す指標)がどのように変化したのかを、世界の傾向と照らし合わせて分析した。
その結果、日本全体の論文数は調査期間を通じて大きく変わらず、またすばる望遠鏡に基づく論文は日本全体の論文数の1割未満であったにもかかわらず、被引用数の高さなどが際立ち、世界平均を大きく上回る学術的インパクトを示したことが明らかになったという。すばる望遠鏡を用いた論文は、世界平均の2倍以上引用されるものが多く、特に被引用度の高い論文の割合は、日本全体や世界平均を大きく上回っていることも分かったとのこと。
藤原特任准教授はこの分析結果について「日本が進めてきた大型研究施設の学術的価値を定量的に示す成果だ」としている。
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天文学・宇宙物理学分野の査読論文を対象に、被引用度を示す指標を比較した図。すばる望遠鏡を用いた論文が青、日本全体がオレンジ、世界全体が緑で色分けされていて、横軸は論文の出版年をあらわす。(上)同じ分野、出版年、論文種別の世界平均と比べて、どれだけ多く引用されているかを示す指標(FWCI)の比較。縦軸方向が1であれば世界平均、2であれば世界平均の2倍引用されていることを意味する。(下)被引用数が特に高い論文(上位10%)の割合を比較したもの。縦軸方向の10が世界平均を表している (C)Fujiwara 2025; based on Scopus/SciVal data 出所:国立天文台ニュースリリース
国立天文台も、「すばる望遠鏡のデータを用いた研究が、国内外で高い可視性と学術的影響力を獲得していたことを示している。すばる望遠鏡が新たな研究能力を提供しただけでなく、日本の天文学研究の国際的な存在感を向上させたことが分かる」とした。
こうした影響力の高さの背景について、国立天文台では「広視野カメラや高分解能分光装置といった独自の特長を備えた観測装置」の存在や、「国際共同研究を重視する運用方針が世界中の研究者との連携を促した」ことを要因として挙げ、結果として日本の研究者が最先端の観測研究や国際的な研究ネットワークに参加する機会が広がり、長期的な研究基盤の形成に寄与した、と見ている。
また、「大規模研究インフラは新たな発見を生み出す装置であるだけでなく、国レベルの研究可視性や競争力を高める重要な手段であることを示す」ものとも指摘。今回の事例について「大型の観測施設が国全体の学術的パフォーマンスに対して、大きな影響を及ぼし得ることを明確に示すもの」だと結論づけている。
