こんにちは! 科学コミュニケーターの丸山です。
前回のブログで、「ちきゅう」の航海の目的が「温度センサの回収と再設置」であることを紹介しました(SC丸山のちきゅう航海日誌#1)。温度を測ることで、海底の地層の中で水がどう動いているかを知り、そこでどんなことが起こっているかを探ることができます。では、その温度センサとはどんなものなのか? どうやって回収・再設置したのか? 今回は、その作業の様子をお伝えします。
ムーンプールから始まる作業
「ちきゅう」の中央には、海へ直接アクセスするためのムーンプールという大きな穴があり、ここから作業が始まります。ムーンプールから、温度センサの回収に必要な装置をつけたドリルパイプを海底へと降ろしていきます。
まずは、海底面に出ている掘削孔の入口であるウェルヘッドとドリルパイプをつなぐための、リエンゲージツールという装置が用意されます。
リエンゲージツールにドリルパイプをつなぎ、海底へと降ろしていきます。
ドリルパイプの長さは一本9.8 m。それを4本つなげた約40 mの単位でたくさん船に積まれており、次々と接続していきます。甲板に長いパイプがずらりと並んだ様子は壮観、船の上ではそれらがぶつかり合う音が響きます。
ハイドララッカーという道具でドリルパイプを、1本ずつ中央へ移動させていきます。ドリルフロアの中央には、海につながる穴「マウスホール」があり、ここからパイプを海へと降ろしていきます。ドリルパイプの接続部はネジのような構造で、アイアンラフネックが自動で回して接続します。
こうして1本ずつつなぎ、海底へ向けてドリルパイプを延ばしていきます。
掘削孔との接続
この装置を掘削孔に正確にかぶせるために不可欠なものが、海中カメラです。これをドリルパイプに沿わせてケーブルでリエンゲージツールの上まで降ろしていき、海の中の映像を見ながら慎重に位置を合わせます。
海中カメラの映像や、ソナー(超音波の反射を使って物の位置を測る技術)を使って、孔の入り口を確認し、リエンゲージツールを掘削孔にかぶせます。
掘削孔を探している間、ドリラーズハウス(ドリルパイプを操作する部屋)では、クルーが真剣な表情で海中カメラの映像やソナーの画面を見ていました。リエンゲージツールと掘削孔がどれくらい離れているかを見て、船をどれくらい動かすかを電話で航海士に伝えます。なんと「30 cm船を移動して」という指示も! 全長210 mの船を30 cmだけ動かすとはすごいですね。
リエンゲージツールが掘削孔に無事にかぶさると、クルーたちから拍手が湧きました。固唾をのんで見守っていた私たちも、拍手をして喜びました。科学の現場にある緊張と安堵の瞬間を肌で感じました。
温度センサの回収とデータ取得
リエンゲージツールが無事に掘削孔につながると、いよいよ温度センサの回収です。温度センサは長いロープに沿ってくくりつけられており、黒と赤のテープの中にセンサ本体が入っています。海底の孔から出てきたロープは、真っ黒になっていました。1年間海の奥深くにいたことを物語っているようです。
一つ目の孔には57個、二つ目の孔には128個のセンサが取り付けられており、それぞれ手作業で丁寧に取り外していきます。テープでぐるぐる巻きにされているカバーの中に入っていた温度センサも真っ黒。研究者とクルーが一緒になって、一つひとつ丁寧に汚れを拭いていきます。
データの取り出しと再設定
チタン製の銀色の筒を開くと、温度センサのメモリ部分と電池が現れます。この電池はなんと10年動き続けることができます。長期の温度観測もできるというわけです。
メモリにコードをさしてパソコンにつなぎ、データを取り出します。この1年の間にどんなデータが記録されているのでしょうか。この航海の共同首席研究者であり、昨年温度センサを設置したパトリック・フルトンさんは、真剣な表情の中にも、わくわくした気持ちがにじんでいました。
その後、次の測定のために、測定開始時間や測定頻度を設定します。次の測定は2025年10月23日の午前1時から1分ごとに温度を記録します。
この作業は4人で1チームになり、総勢16人で一つ一つ手作業で行われました。一つ目の掘削孔の作業は午前1時から午前5時まで、二つ目の掘削孔の作業は同じ日の午後1時から午後10時まで行われました。二つ目の掘削孔の温度センサの取り出しは次の日になるのかななどと悠長に考えていたら、同じ日にセンサが上がってきました。「ちきゅう」の任務は時間との勝負! 24時間体制で作業を進めます。
一つひとつのセンサと向き合い、作業漏れがないように、間違えないように、慎重さと熱意が交差する現場です。この作業に取り組んだチームは、この日はへとへとでした。
再設置へ
データを取りだしたセンサは、再び銀の筒に収め、テープでしっかりと固定しロープにくくりつけます。
温度センサはドリルパイプを通して、再び海底深くへ送り出されます。センサが戻されていくとき、私は「次はどんなことがわかるのだろう?」とわくわくしました。
24時間体制でドリルパイプの設置、温度センサの回収・データ取得・再設置が行われました。そしてたくさんの人たちが一丸となってミッションに取り組みました。船を数センチメートル単位で動かす航海士と、ドリルを操作するドリラー、センサを扱う研究者や技術者など異なる専門性が一つの目的に向かうことで、海底の地層の調査を可能にします。他にも、「ちきゅう」には船や掘削を稼働させるための技術者や、生活を支えるクルーがいます。科学は、人と人の緻密な協力の上に成り立っていると感じました。
次にこの温度センサを取り出すのはいつになるかは、まだ決まっていません。今回のデータ取得や次の回収でどんなことがわかるのでしょうか。今後の研究成果とてもが楽しみです。
船上からの生中継も公開中!
10月26日に行った中継イベントでは、今回の航海の目的や、温度センサ回収から再設置までの作業について、その裏側などをクルーにインタビューしました。YouTubeでアーカイブを公開していますので、ぜひご覧ください!

執筆: 丸山 遥香(日本科学未来館 科学コミュニケーター)
【担当業務】
アクティビティの企画全般に関わり、来館者へ展示解説や情報発信、対話活動を行う。ノーベル物理学賞イベントの担当、地球深部探査船「ちきゅう」の乗船サイエンスコミュニケーターとしての活動を行った。
【プロフィル】
なんとなく進んだ大学の物理学科で物理の面白さに目覚め、原子物理学を専門に博士号(工学)を取得。その後ポスドク研究員として量子センサの研究に従事。科学の楽しさを多くの人に広めたい、科学にまつわる意思決定の手助けをしたいと思い、未来館へ。科学や技術との付き合い方を一緒に考えたいです。
【分野・キーワード】
物理学、原子物理学、量子














