セールスフォース・ジャパンは3月5日、都内で説明会を開催した。説明会では、2025年11月に買収を完了した、Informatica(インフォマティカ)との連携で強化される「Agentforce 360」に関する製品戦略などを解説した。

4つのレイヤから読み解く、Salesforceのエージェンティック・エンタープライズ戦略

まず、セールスフォース・ジャパン 専務執行役員 製品統括本部 統括本部長の三戸篤氏が、2月末に発表されたグローバルにおける最新の第4四半期決算を説明。

Agentforceの成約件数は対前四半期50%プラスの2万9000社にのぼり、AgentforceのARR(Annual Recurring Revenue:年間経常収益)は対前年比169%増加の8億ドル、AgentforceとData 360(Informatica Cloudを含む)のARRは同200%増加の29億ドル(後者はAgentforce単体にData 360関連収益を含めた合算値)となった。また、Salesforce経由で処理されるモデルとのトークン量は19兆以上となり、三戸氏によると規模感を示すための一般的な比較として、LINEの年間会話のトークン数よりも大きいという。

  • 第4四半期決算の概要

    第4四半期決算の概要

三戸氏は「Agentforceそのものが創業して以来、最も成長の速い製品であることはもとより、収益の貢献度という観点でも重要な役割を果たす製品になっている。エージェンティック・エンタープライズというビジョンに多くのお客さまが共感してもらっている。お客さまは利用するフェーズから、エージェント活用による収益化のフェーズに移行している」と手応えを口にした。

  • セールスフォース・ジャパン 専務執行役員 製品統括本部 統括本部長の三戸篤氏

    セールスフォース・ジャパン 専務執行役員 製品統括本部 統括本部長の三戸篤氏

セールスフォースが掲げるエージェンティック・エンタープライズアーキテクチャは、複雑な業務プロセスや権限管理、データ活用などAIモデル単体では実現が困難な課題に対応するというものだ。この実現に向けてAIに加え、以下の4つのレイヤで構成するオープンなアーキテクチャを提案している。

  • System of Engagement 人とAIがともに働き、必要なアプリ・データがUI上に集約される体験を提供

  • System of Agency AIエージェントを大規模に構築、テスト、展開、監視する仕組みを提供

  • System of Work 長期間にわたり蓄積・実証した企業・組織の業務プロセスやワークフローがアプリに組み込まれ、ビジネスに関する知識、ルール、オペレーションを網羅して提供

  • System of Context 企業全体にわたるデータを信頼できるコンテキストにまとめ上げ、AIエージェントのアクションにつなげる

  • エージェンティック・エンタープライズアーキテクチャの概要

    エージェンティック・エンタープライズアーキテクチャの概要

Informatica、MuleSoft、Data 360は、企業・組織に対して信頼できるコンテキストを提供するためのSystem of Contextを構成している。

Informaticaが担う「System of Context」とAI Ready Dataの重要性

続いて、セールスフォース・ジャパン 常務執行役員 インフォマティカ事業部 営業統括本部長の小澤泰斗氏がInformaticaの位置づけについて説明した。

InformaticaがCDO(最高データ責任者)600人対象に実施したAIに関するアンケートによると、2025年はプロトタイプ段階にとどまり、本番業務への適用が課題となっていた。一方、2026年は約半数の企業がビジネスでAIエージェントを活用し始め、AIの回答を「正しい」と信頼する傾向が強まっているという。

小澤氏は、こうした変化をふまえ「今後の課題は、AI Ready DatamすなわちAIが業務で正しく使える状態のデータをどのように整備・管理するかにある」と指摘する。エージェント・エンタープライズの実現には構造化・非構造化に加え、個人や組織の文脈まで含めたデータ管理が不可欠だという。

  • セールスフォース・ジャパン 常務執行役員 インフォマティカ事業部 営業統括本部長の小澤泰斗氏

    セールスフォース・ジャパン 常務執行役員 インフォマティカ事業部 営業統括本部長の小澤泰斗氏

また、コンテキストとは単なる意味理解にとどまらず、データの由来や定義の一貫性、用語の解釈、改ざん耐性などを含む概念であり、同じキーワードでも文脈によって意味や信頼性が大きく異なると説明した。たとえば「MDM」という言葉一つをとっても、Master Data ManagementとMobile Device Managementでは意味がまったく異なる。

企業によってはグループ会社が100社以上、会計システムが20以上存在するケースもあり、そもそもデータが企業として把握・管理できていない状況も少なくない。小澤氏は「Informaticaは、あらゆるデータを横断的につなぎ合わせ、信頼できるコンテキストとして整理することに強みを持つ」と強調した。

Data 360、MuleSoft、Informaticaの三位一体のアプローチにより、正しいデータを集約し、プロセスやAIエージェントと連携可能なSystem of Contextを構築していく考えだ。

  • 信頼できるコンテキストの仕組み

    信頼できるコンテキストの仕組み

エージェンティック・エンタープライズを支えるデータバリューチェーン

次に、System of Contextに関して、より具体的な説明をセールスフォース・ジャパン インフォマティカ事業部 ソリューションエンジニアリング本部 エヴァンジェリスト&アカウントソリューションエンジニアの森本卓也氏が行った。

森本氏は、エージェンティック・エンタープライズに必要なデータ要件として「解放」「信頼の付加」「活用」の3つのフェーズに分類し、これらを「データバリューチェーン」と総称している。

  • エージェンティック・エンタープライズに必要なデータ要件

    エージェンティック・エンタープライズに必要なデータ要件

同氏は「企業のデータをAIや人が扱える形にして信頼性を付加し、本番業務で安全に活用してビジネス価値を創出することを目的にしている。ただ、断絶した活動は成功しないほか、信頼性のないデータを解放しても意味がなく、信頼性を付加したとしても業務で使われなければ価値にならない」と指摘。

  • セールスフォース・ジャパン インフォマティカ事業部 ソリューションエンジニアリング本部 エヴァンジェリスト&アカウントソリューションエンジニアの森本卓也氏

    セールスフォース・ジャパン インフォマティカ事業部 ソリューションエンジニアリング本部 エヴァンジェリスト&アカウントソリューションエンジニアの森本卓也氏

そのため、3つのフェーズを統合プラットフォーム上で連結し、一連のバリューチェーンとして最終的に自動化することが不可欠であるという。では、3つのフェーズをそれぞれ見ていこう。

解放のフェーズでは、全社的な正解の決定は行わず社内に散在するデータへの迅速なアクセスをAIに提供し、次のフェーズに向けて整備。整備範囲はデータの接続、統合、AI・人が理解できる形に整理する。

  • 解放のフェーズ

    解放のフェーズ

技術スタックと役割分担はMuleSoftがリアルタイムに強いデータ連携、APIによるシステムへのアクセスとアクションを実行する。Informaticaは大規模データ処理、基幹系やレイクハウスを含めた包括的なデータ統合、Data 360がナレッジ集約、Salesforce内のCRM(顧客関係管理)、Service Cloudと統合して集合知化する。これにより、ビジネス用語・意味、KPIの計算方法などを整理し、正しい共通理解を担保。

信頼の付加を実現するInformaticaのデータガバナンスとMDM

信頼の付加ではエンタープライズレベルでの信頼性確保するため、正確性、一貫性、プライバシーを担保し、信頼できるコンテキストに進化させる。この領域はInformaticaが最も得とする領域であり、基幹系やレイクハウスを含む全社規模で実現できるとのことだ。

  • 信頼の付加のフェーズ

    信頼の付加のフェーズ

AWS(Amazon Web Services)、Snowflake、Databricksなどのレイクハウス、SAP、Oracle、SQL Serverといった基幹系、Salesforceの内外を横断し、AIが自信を持って判断できる一貫性、クリーンなデータを準備。信頼できるデータを確保した後はData 356のゼロコピーで迅速に取り組み、Salesforce内のCRMなどに統合し、標準化されたクリーンな集合知をAgentforce上で活用を可能としている。

AIエージェントの確からしさや個人情報保護法など規制準拠への対応では、Informaticaの「Cloud Data Governance and Catalog」により、データおよびビジネス関連メタデータの包括管理、ガバナンスを実現し、データの大元から活用先までのデータリネージ(履歴)を提供するという。さらに、AIの判断はデータソースに紐づくポリシーや契約の適用範囲の連携することで安全な活用・意思決定を担保するとともに、AIで個人情報などを自動分類して国別アクセス制御などのルール設定に活用できる。

一方で、マスターデータが100%正確でない限りはAIがハルシネーションのリスクに晒される恐れがある。そのため、Informaticaの「Master Data Management」は、間違いが許されないデータのためにゴールデンレコードを作成し、監視と制御、マスターデータのレビュー、追跡、説明可能な状態にする。

  • 「Master Data Management」の概要

    「Master Data Management」の概要

森本氏は「マスターデータに対して、競合や重複データの問題を解決して高度な名寄せを行うことで、企業はゴールデンレコードが作成できる。これと同時に作成すれば、顧客やサプライヤー企業の関係性、企業の親会社と子会社の関係など、コンテキストの根幹となるデータ間の重要なリレーションシップを確立することができる。InformaticaとMuleSoftを組み合わせることでレガシークラウドを問わないリアルタイムアクセスと大規模な統合を可能とし、Data 360はSalesforce内のデータガバナンスや集合知の活用基盤として、Agentforceなどと連携し、即時利用ができる」と説明していた。

マルチエージェント時代の活用を支えるAgentforceとMuleSoft

最後に活用のフェーズについては、セールスフォース・ジャパン 製品統括本部 プロダクトマネジメント&マーケティング本部 プロダクトマーケティングディレクターの前野秀彰氏が解説。

前野氏は「企業内の集合知やコンテキストなど信頼できるデータを整備するだけでは、成果には直結しない。実業務・アプリケーション上で業務を理解したAIエージェントがコンテキストを活用することで、顧客体験・収益の向上につなげることができる」と述べた。

  • セールスフォース・ジャパン 製品統括本部 プロダクトマネジメント&マーケティング本部 プロダクトマーケティングディレクターの前野秀彰氏

    セールスフォース・ジャパン 製品統括本部 プロダクトマネジメント&マーケティング本部 プロダクトマーケティングディレクターの前野秀彰氏

Data 360は、Customer 360における営業やサポート、マーケティングなど各アプリで必要なデータの標準的なデータモデルを持つ。人やAIエージェントの業務をデータモデルを通じて高い解像度で把握していることから、業務理解がプラットフォームに埋め込まれている。そのため、Informaticaで生成したゴールデンデータをData 360に連携し、複雑な開発や設定なしにAgentforceから業務コンテキストとして、即時的な活用ができるという。

信頼できるコンテキストをベースに多くのエージェントを構築すると、次にマルチエージェントが連携してあらゆる業務を動かす段階だが、ここで重要なことはエージェント間、エージェントとサーバ間のコミュニケーションの統制や可視化、ガバナンスとなる。

ここで有効となるものが「MuleSoft Agent Fabric」だ。これは、あらゆる場所に構築されたAIエージェントを一元管理できるものとなる。エージェントがどこで動いていても検出・特定し、それをAIエージェント同士のコミュニケーションやMCPサーバとのコミュニケーションなどをオーケストレートできるという。また、ガードレールを適用し、ガバナンスを担保しながら可視化、モニタリングを可能としている。

  • 「MuleSoft Agent Fabric」の概要

    「MuleSoft Agent Fabric」の概要

前野氏は「われわれが掲げるエージェンティック・エンタープライズというビジョンのもとInformatica、Data 360、MuleSoftにより、企業全体のあらゆる領域で信頼できるコンテキストを整備し、成果を出していくことが不可欠だ。真のエージェンティック・エンタープライズになるうえで、企業が直面する複雑なプロセスやデータを信頼できるコンテキストで解決していく」と述べ、プレゼンテーションを結んだ。