理化学研究所(理研)、東京大学(東大)、科学技術振興機構(JST)の3者は2月26日、光量子コンピュータにおいて「誤りに強い計算」が可能であることを理論的に示したと共同で発表した。

同成果は、理研 量子コンピュータ研究センター 量子計算理論研究チームの松浦孝弥特別研究員(JSTさきがけ研究者)、東大大学院 情報理工学系研究科 コンピュータ科学専攻の山崎隼汰准教授(JSTさきがけ研究者)らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、英科学誌「Nature」系のオンライン科学誌「Nature Communications」に掲載された。

一般的なノイズ下でも誤り耐性量子計算が可能と証明!

複数の都市を回る最短ルートを求める「巡回セールスマン問題」に代表される「組み合わせ最適化問題」は、社会の至る所に存在している。たとえば、限られた容量のバッグに、価値が最大になるように荷物を積める「ナップサック問題」や、複雑な条件を満たしつつスタッフの勤務表を作成する「シフト最適化」、効率的なトラックの配送ルートを決定する「物流・配車計画」などがその典型だ。

既存の古典コンピュータでは、こうした問題は、変数(都市の数など)が増えるほど計算時間が爆発的に増加し、最終的には実用的な時間内に階を得られなくなる。明日の予定を立てたいのに、計算結果が出るのが数年後といった計算するだけ無駄という事態になりかねない。

それに対し、0と1の重ね合わせ状態を利用する量子ビットを計算の基礎とする量子コンピュータは、組み合わせ最適化問題の解決に適しており、古典コンピュータでは扱うのが不可能な多変数の計算でも高速に回答を導き出せると期待されている。この問題に特化した「量子アニーリングマシン」は、すでに実用化の段階にある。

しかし、量子ビットは外部環境の影響を受けやすく、わずかなノイズでも計算結果が不正確になる課題を抱えている。このため、実用化には誤りが生じても正確な計算を継続できる「誤り耐性」の仕組みが不可欠であり、世界中で研究が進められている状況だ。

  • 光量子系の量子誤り訂正の概念図

    光量子系の量子誤り訂正の概念図。光学操作によって光の振幅に量子ビットの情報を符号化し、それを用いて量子誤り訂正符号を構成する。光の振幅に生じたノイズは、量子ビット上の誤りとして再解釈されることで、量子誤り訂正符号による修復が可能となる。(出所:共同プレスリリースPDF)

量子ビットの実現方式は、超伝導方式が選考しているものの、イオントラップ方式や中性原子方式、シリコンスピン方式などの研究も進んでおり、それぞれ一長一短がある。その中でも、通信技術との親和性が高く、将来的な大規模化に向くと期待されているのが「光方式」である。

光には、連続値を取る振幅の自由度と、離散値を取る光子数の自由度があり、光量子コンピュータはどちらを用いるかによって、「連続量方式」と「離散量方式」に大別される。このうち、光連続量方式は、量子計算に不可欠な「量子もつれ」を比較的容易な光学操作で実現できる点に優位性がある。

その一方で、光連続量方式はノイズの影響を理論的に扱うのが難しく、誤り耐性の確立が大きな壁となっていた。従来の理論研究では、光振幅が確率的に変位するという、非常に限定的かつ理想化されたノイズ条件下でしか誤り耐性が示されていなかった経緯がある。そこで研究チームは今回、光連続量方式の実行中に生じ得る一般的なノイズに対し、光振幅に保持された量子ビットへどのような影響を及ぼすかを数学的に解析したという。

今回の研究で判明した成果は、主に4点に集約される。まず1つ目は、光の量子状態の周期構造を簡潔に表せる表現空間を用いて解析を実施した結果、ノイズが時空間的に強い相関を持たないという制約を満たせば、そのノイズを量子ビットの「誤り」として翻訳可能であることを突き止めた点だ。

2つ目は、こうして翻訳された誤りが、従来の量子計算分野で蓄積されてきた「量子誤り訂正符号」によって訂正できることを示した点である。量子誤り訂正符号とは、多数の量子系を用いて1つの量子ビットを保持することで、一部の誤りを検出し修復する技術を指す。

これらを踏まえた3つ目の成果は、光振幅の量子ビットに既存の量子誤り訂正符号を組み合わせれば、ノイズが一定以下である限り原理的に打ち消し可能であることを証明したことだ。そして4つ目は、ノイズを抑制するためには光のエネルギー(振幅)が無制限に大きくならないよう設計すべきという、具体的な開発指針を提示した点である。

現実の光学操作で生じる典型的なノイズは時空間的に相関が弱いため、今回の成果は過度に理想化された従来条件を克服し、より現実的な環境下で誤り耐性光量子計算が可能であることを理論的に裏付けるものとした。

今回の研究は、どの程度のノイズを抑えれば動作が安定するかが不明瞭だった光連続量方式において、クリアすべき技術要件や実験指針を理論的に解明した点に大きな意義があるという。研究チームはこの成果により、光量子技術の延長線上に誤りに強い光量子コンピュータの実現があることが保証されたとした。実用化に必要な技術が明確化されたことで、開発はさらに一歩前進したと述べられている。

今後は、量子誤り訂正の基礎研究に加え、量子コンピュータの特性を活かしたアルゴリズム研究を両輪として進めることが重要となるという。これらの研究の進展によって実用的な量子コンピュータが実現すれば、新材料開発や機械学習などの分野で技術革新が起きることが期待されるとしている。