“ひな祭り”で知られる3月3日。実は「世界耳の日」(World Hearing Day)でもあり、WHO(世界保健機関)によって耳や聴覚に関するさまざまな普及啓発活動が行われる日でもある。

2026年のテーマは「From communities to classrooms : hearing care for all children」(仮訳:地域から教室へ—すべての子どものための聴覚ケア)。

世界聴覚報告書によると、学齢期で難聴がある子どもが診断や必要なサービスを受けられない状況がしばしば起きているとのこと。また、世界疾病負荷調査によれば、世界各地で5〜19歳の約9,000万人の子どもと青少年に影響を与えているという。今年のキャンペーンでは、そうした背景をふまえ、「回避可能な小児難聴の予防」、「耳や聴覚に問題のある子どもの早期発見とケアの確保」に重点を置いているそうだ。

ちなみに前年(2025年)は「Changing mindsets : empower yourself to make ear and hearing care a reality for all !」(仮訳:考え方を変える—耳と聴覚のケアをすべての人にとって現実のものとするために力を付けましょう)をテーマに掲げ、ITU(国際電気通信連合)と共に、ビデオゲームやスポーツにおける安全なリスニングに関するグローバルスタンダードや、スマートリスニングに関する教育プログラムへの組み込み用学校向けモジュールの開始を記念する日であることをアピールしていた。

耳や聴覚に関する話題に関心が集まる3月3日、今回は日本国内での最近の研究成果として、東海大学が1月13日に発表したニュースリリースを取り上げてみたい。

国内の認知症の約4割は予防可能、「難聴」が最大の危険因子

「日本国内の認知症の38.9%は、生活習慣や健康状態の改善によって理論的に予防可能」であることを、東海大学医学部の和佐野浩一郎教授と、デンマーク・コペンハーゲン大学認知症センターのカスパー・ヨーゲンセン(Kasper Jørgensen)上席研究員による国際共同研究グループが、日本の公的統計や疫学データを用いた解析によって明らかにした。

特に影響が大きい危険因子として挙げられているのが「難聴」(6.7%)。次いで「運動不足」(6.0%)、「高LDLコレステロール」(4.5%)と続く。いずれも対策によって改善が期待できるとしており、これらを含む14の要因を一律に10%低減させるだけで、将来的に約20万人以上の認知症の発症を予防できる可能性が示されたとしている。

この研究成果は、駐日デンマーク大使館とヘルスケアデンマークの連携支援のもとで実施された、日本とデンマークの学術連携による認知症研究の成果であり、1月12日付で国際的医学誌「The Lancet Regional Health - Western Pacific」に論文が掲載されている。

同大学では研究の意義について、「日本の実情に即したデータを用いて、どの危険因子に優先的に介入すべきかを定量的に示した点」としており、「特に、難聴や運動不足など、適切な対策によって改善可能な要因が、認知症予防に大きく寄与することが明らかになった」と説明。今後の認知症予防政策や健康施策の立案に活用できる科学的根拠として期待される、とコメントしている。

  • 日本国内データを用いて算出した認知症発症に関連する14個の危険因子に関する寄与割合。図における各因子の青年期、壮年期、老年期という分類は、その時期に限定されるリスクとしてではなく、「その時期以降」のリスクであることを示す。たとえば、最も大きな寄与度を示す難聴は「55歳以上」と規定されていることから、壮年期に限らず老年期においても対策を行うことが重要だとしている(出所:東海大学ニュースリリース)

    日本国内データを用いて算出した認知症発症に関連する14個の危険因子に関する寄与割合。図における各因子の青年期、壮年期、老年期という分類は、その時期に限定されるリスクとしてではなく、「その時期以降」のリスクであることを示す。たとえば、最も大きな寄与度を示す難聴は「55歳以上」と規定されていることから、壮年期に限らず老年期においても対策を行うことが重要だとしている(出所:東海大学ニュースリリース)

今回の研究では、2024年のランセット認知症委員会の報告において、科学的根拠に基づき特定された以下の14の修正可能な認知症危険因子を対象に解析を行った。

  • 教育歴の低さ
  • 難聴
  • 高LDLコレステロール血症
  • うつ
  • 外傷性脳損傷
  • 運動不足
  • 喫煙
  • 糖尿病
  • 高血圧
  • 肥満
  • 過剰な飲酒
  • 社会的孤立
  • 大気汚染への曝露
  • 視力低下

これらの因子について、日本の国民健康・栄養調査、政府統計、疫学研究、環境データといった信頼性の高い国内データを用いて、それぞれの有病率(該当者の割合)を推定。さらに、集団寄与危険割合(PAF)と、潜在的影響割合(PIF)を算出し、日本における認知症予防の潜在的規模を定量的に評価した。

その結果、各危険因子のPAFについて、14因子それぞれのPAFを算出し、さらに因子同士の重なりを考慮した上で、全体としてどの程度の認知症が予防可能かを評価したところ、認知症の38.9%が予防可能であることが示されたという。特に影響が大きい危険因子は前出の通り、「難聴」、「運動不足」、「高LDLコレステロール」の順に並んだ。

また、各危険因子のPIFについて、14の危険因子をそれぞれ10%または20%低減した場合に、将来的にどれだけの認知症患者数を減らせる可能性があるかを推定したところ、危険因子を一律に10%低減した場合は将来的に約20.8万人の認知症を予防でき、一律に20%低減した場合は約40.8万人の発症を防げる可能性があるとしている。

なお、上記のPAF(Population Attributable Fraction)とは、「もし特定の危険因子が存在しなかったと仮定した場合、全体の認知症のうち、どの程度が防げた可能性があるか」を示す指標のことだ。たとえば、PAFが10%であれば、「理論的には、その因子がなければ認知症の10%は起こらなかった可能性がある」ことを意味する。

また、PIF(Potential Impact Fraction)とは、「危険因子を完全になくすのではなく、たとえば10%や20%といった現実的な範囲で減らした場合に、どの程度の認知症が減少する可能性があるか」を示す指標のこと。前出のPAFが「理論上の最大限の予防可能性」を示すのに対し、PIFは実際の政策や介入によって達成し得る効果を見積もるための指標となる。