近畿大学(近大)は2月25日、人気マンガ「鬼滅の刃」に登場するヒロイン・竈門禰豆子の口枷に使われている竹について、実際の竹と比較する科学的な検証を行った結果、作中で描かれた口枷の節の間隔は、実際の竹の形態学的な特徴とは大きく異なることを明らかにしたと発表した。
同成果は、近大 農学部 環境管理学科の井上昭夫教授によるもの。詳細は、竹のあらゆる側面を網羅する学際的な学術誌「Advances in Bamboo Science」に掲載された。
「鬼滅の刃」を自然科学的視点で研究した近大
世界的な人気を誇るマンガ・アニメ作品「鬼滅の刃」において、主人公・竈門炭治郎の妹である禰豆子は、鬼に変貌してしまった後に人を噛むことを防ぐため、「鬼殺隊」の水柱・冨岡義勇によって竹の口枷をはめられる。
この口枷には、4つの節(3つの節間)が描かれているが、その間隔を詳細に観察すると、植物科学的な視点からは実際の竹とは異なる点があるという。。節間の間隔(節間長)は、実際の竹では一般に「稈(かん)」と呼ばれる竹の幹にあたる部位の中央付近で節の間隔が最も長く、両端に向かって徐々に短くなる性質がある。口枷の描写においても(中央)の節間が最も長く描かれており、これが最大節間長に相当すると考えられるが、隣接する節間との比率に違和感があるとする。
「鬼滅の刃」は、歴史学や民俗学、哲学といった人文・社会科学的な観点から多くの研究対象となってきたが、植物科学のような自然科学の分での検討はあまりなく、特に口枷の描写に関しては前例がなかった。そこで井上教授は今回、原作マンガの描写を客観的に評価し、竹の形態学的な再現性を検証したという。
今回の研究では、マンガにおける口枷の形状を定量的に評価するため、禰豆子が正面を向いている場面を中心に約150例のカットが抽出された。作画の縮尺による影響を排除するため、絶対的な数値ではなく、中央の節間長に対する両隣の節間長の比率(節間比)に着目して分析が行われた。
比較対象には、物語の舞台である大正時代に国内で広く分布していたマダケ属の「モウソウチク」と「ハチク」の計112本の実測データが採用された。竹の節間長は稈の中央部で最大となり、そこから根元や先端へ向かうにつれて短くなる。この植物学的な特性に基づき、実測データから算出された最大節間長付近の節間比と、マンガの口枷における数値が比較された。
解析の結果、マンガに描かれた口枷の節間比は平均0.45だったのに対し、実際の竹では平均0.94となり、約2倍の開きがあることが判明。統計学的な有意差も認められ、数理モデルを用いた解析からも、マンガの描写は実在する竹の形態では再現が極めて難しいことが示されたとした。
さらに、竹のサイズ感についても興味深い結果が出たとのこと。モウソウチクの最大節間長は平均35cm、ハチクは平均25cmである。これに対し、日本人を含む女性の平均的な顔の長さ(生え際から顎先まで)は約18.28cmであり、本来であれば1つの節間長だけで顔の横幅を超えてしまう。しかし、作中での「口枷に対する顔の長さ」の比率は0.66と算出されており、現実よりも口枷がかなり小ぶりに描かれていることが示唆されたとする。
“作品批判ではなく、植物学への入り口になれば”
今回の研究で用いられた「定規と巻尺による観察」という手法は、特別な装置を必要としないため、竹の構造を学ぶための理科教材や野外学習への応用が期待されるという。また、節間長の分布を数理モデルで示すプロセスは、微分や極値といった数学的概念を理解する教材としても活用できる可能性があるとした。
なお井上教授は今回の知見について、決して作品の表現を批判するものではないと強調しており、身近な文化的題材を通じて植物学への関心を高め、専門家と一般社会との認識のギャップを埋めるアウトリーチ活動の1つとして位置づけられるとしている。

