山梨県警察本部は2月20日、元プロレスラーである武藤敬司氏を模したAI・デジタルヒューマンに、一日サイバー犯罪対策課長を委嘱(いしょく)するサイバーセキュリティ啓発イベントを開催した。イベントには富士吉田市出身で県の観光大使を務める武藤敬司氏本人も登場し、県内企業からの参加者にサイバーセキュリティ活動、通称「サバ活」の重要性を訴えた。

同イベントにはデル・テクノロジーズ(以下、デル)、デジタルヒューマン、ダイワボウ情報システム、シンクワン、YSK e-comなどが協力・協賛した。

  • 山梨県警察本部が開催したサイバーセキュリティ啓発イベント

    山梨県警察本部が開催したサイバーセキュリティ啓発イベント

「サバ活」「サバボス」って何?

政府は毎年2月1日から3月18日を「サイバーセキュリティ月間」として定めている。この期間、NCO(National Cybersecurity Office:国家サイバー統括室)をはじめ産官学民が連携してサイバーセキュリティに関する取り組みが進められる。

山梨県警察本部においても、年々増え続けるサイバー犯罪による被害を軽減するために、サイバーセキュリティイベントを開催。日常の企業活動の中でサイバーセキュリティに気を付ける「サバ活」と、サバ活を推進する「サバボス」、つまりセキュリティリーダーの役割を啓発する。

イベントの開催にあたり、山梨県警察本部のサイバー犯罪対策課長を務める乙黒大三氏は、「山梨県警では令和5年度にサイバー犯罪対策課が設立されたが、課長の委嘱式は初の試み。委嘱する相手が人間ではなくAI・デジタルヒューマンというのが、なんともサイバーらしい。サイバー空間は地域や年齢にかかわらず重要な社会インフラになっているが、その一方でサイバー攻撃も毎年のように高度化している。AIやサイバー犯罪について、武藤さん、そして参加者の皆さんと一緒に学べたらうれしい」とコメントしていた。

なお、AI・デジタルヒューマンに一日サイバー犯罪対策課長を委嘱するのは、全国の警察組織でも初の試みとのことだ。

  • 山梨県警察本部 サイバー犯罪対策課長 乙黒大三氏

    山梨県警察本部 サイバー犯罪対策課長 乙黒大三氏

続いて、入場曲『HOLD OUT』と「ム・ト・ウ!」コールに包まれながら、武藤敬司氏が入場。

山梨県警察本部 サイバーセキュリティ啓発イベント 武藤敬司氏入場

  • MUTO OFFICE代表 元プロレスラー・タレント 武藤敬司氏

    MUTO OFFICE代表 元プロレスラー・タレント 武藤敬司氏

武藤氏は「今日(2月20日)は師匠であるアントニオ猪木さんの誕生日で、3年前の明日(2023年2月21日)は東京ドームで引退した日でもある。これまで裸一貫で生きてきたので、サイバーやインターネットは遠い世界。それでも、山梨県出身の俺が山梨に貢献できることをうれしく思う。今日は一生懸命がんばりたい」と話していた。

中学生のときに柔道を始めたという武藤氏は、よく試合で訪れていた甲府城址、舞鶴城公園内の道場「武徳殿」が現在も使われていることを知り、懐かしんでいた様子だった。

中小企業が多い山梨県、サイバー犯罪も他人の話ではない

近年のサイバー攻撃は企業の規模を問わず、大手企業から中堅・中小企業まで、広く被害が発生している。山梨県は99.9%が中小企業であり、特に少人数で運営する小規模企業が8割以上を占める。

サイバー犯罪対策課が実施したアンケート調査によると、「自社のセキュリティ対策は万全だ」と感じている企業は58.3%、「サイバー攻撃被害などのニュースを見ても、自社は大丈夫と感じる」と回答した企業は33%、「社内にインシデント発生時のマニュアルがない」と回答した企業は69.7%だった。

さらに、「従業員に対するサイバーセキュリティ教育を実施していない」と回答した企業は、68.9%にも上る。

こうした状況の中で山梨県警が提案するのが「サバ活」、そしてサバ活を先導する「サバボス」だ。イベントでは、参加企業のIT担当者が、職場のサバ活を率いるリーダーである「サバボス」になることを武藤氏と一緒に宣言し、セキュリティ意識を高めるというセレモニーが開催された。

  • 「サバボス宣言」に署名する武藤氏

    「サバボス宣言」に署名する武藤氏

  • 武藤氏と共に「サバボス宣言」を読み上げる県内企業の参加者

    武藤氏と共に「サバボス宣言」を読み上げる県内企業の参加者

  • 署名した「サバボス宣言」を披露する武藤氏

    署名した「サバボス宣言」を披露する武藤氏

武藤氏はサイバー犯罪に関して「俺自身は被害を受けていないが、先日家内がAmazonを名乗るメールにパスワードを入力しそうになった。すぐに削除したので大きな影響はなかったのでよかった」と家族のエピソードを披露した。

ウイルスの"毒霧"も華麗にブロック、警察におけるAI活用に期待

一日サイバー犯罪対策課長を委嘱されたAI・デジタルヒューマンと対面した武藤氏は「(モノマネ芸人の)神無月よりも似ている。ヒゲがちょっと俺よりも濃いけれど」と発言し、会場に笑いを誘った。

  • AI・デジタルヒューマンを眺める武藤氏

    AI・デジタルヒューマンを眺める武藤氏

AI・デジタルヒューマンの構築においては、デルが技術的な支援を行った。同社のデジタルアシスタントサービス「Dell Digital Assistant Solution」とRAG(Retrieval-Augmented Generation:検索拡張生成)を利用し、約2カ月でAI・デジタルヒューマンを構築したという。

パートナー事業統括本部の赤沼道浩氏は「顔はネット上にある武藤さんの写真を使用し、声は武藤さんが出演しているテレビやYouTubeを使用した。本人の顔や声をスキャンすることなく再現できた」と説明。

対する武藤氏は「つまり犯罪者も、こういうもの(AI・デジタルヒューマン)を作れてしまうということだよね」とコメントしていた。

  • デル パートナー事業統括本部 赤沼道浩氏

    デル パートナー事業統括本部 赤沼道浩氏

その後、AI・デジタルヒューマンの武藤氏に対し、武藤氏本人が質問するコーナーが設けられた。以下、一部の質問をピックアップして紹介したい。なお、以降は簡略化のためにAI・デジタルヒューマンの武藤氏は「AI武藤氏」と記述する。

--武藤氏:俺が本物の武藤敬司なんだけど、君はどんな気持ちなの。

AI武藤氏「本物の武藤敬司さんに話しかけていただき、光栄です。武藤さんの顔を使わせてもらっているからか、いつもより強くなった気分です」

--武藤氏:君はどんなことができるの。

AI武藤氏「私はムーンサルトプレスはできませんが、シャイニングウィザードのような美しい流れの会話を目指しています」

--武藤氏:今日は俺じゃなくて、君が一日サイバー犯罪対策課長に任命されるの。

AI武藤氏「私はプロレスでは武藤さんには敵いませんが、サイバーセキュリティに関しては私の圧勝です。コンピュータウイルスという名の毒霧も、華麗にブロックしてみせます」

武藤氏の代名詞的な得意技「シャイニングウィザード」や「毒霧」などを交えたAI武藤氏の応答が印象的だ。赤沼氏によると、事前の学習データにこうした単語を含めているのだという。

  • イベントに合わせて武藤氏が登場する啓発ポスターも作成された

    イベントに合わせて武藤氏が登場する啓発ポスターも作成された

また、赤沼氏はAI・デジタルヒューマンの活用例について「山梨は登山が盛んなので、山登りをする人の服装の確認や、天候に応じた服装のアドバイスなどもできる」と紹介していた。

他にも、指名手配犯の顔の再現や、歳を重ねた現在の姿の予測など、警察ならではのAIの有用性についても語っていた。

  • AI・デジタルヒューマンの武藤氏が窓口業務を担当するデモも披露された

    AI・デジタルヒューマンの武藤氏が窓口業務を担当するデモも披露された

  • MUTO OFFICE代表 元プロレスラー・タレント 武藤敬司氏