自律走行技術を競い合う「自動運転ミニカーバトル」(主催:42 Tokyo)の第2回決勝が、JR有楽町駅至近のTokyo Innovation Baseで2月15日に開催された。ここでは、その模様をお届けする。

今回の総エントリー数は78チーム・246名で、その中から抽選で選ばれた50チーム・178名が予選に参加。それを突破した20チームが決勝を走行した(1チームは棄権)。総エントリー246名の属性の内訳は、高校・高専生が10名(17歳以上から参加可能)、大学生・専門学校生が105名、社会人が130名、そのほか1名。またエントリー者の居住地域は、北は北海道から南は九州までと幅広く、また海外からも1チームが参加した。

  • 決勝を闘い抜いた19チーム。競技が終われば敵味方なしの「ノーサイド」だ

    決勝を闘い抜いた19チーム。競技が終われば敵味方なしの「ノーサイド」だ

ミニカーでレベル4自動運転を実現しよう!

自動車業界では近年、CASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)と称される技術革新が加速しており、自動車は電子化の進展によってもはや「走るロボット」へと変貌を遂げた。これに伴い、業界内ではソフトウェア人材の確保が喫緊の課題となっている。

しかし国内の自動車業界において、ソフトウェアスキルをいかに現場で活用するかは、依然として模索段階にあるという。こうした状況を受け、フランス発の学費無料のソフトウェアエンジニア養成機関である42 Tokyoでは、トヨタ、マツダ、SUBARUといった自動車メーカーや、ソフトウェア関連企業などの支援を得て、「ものづくり×ソフトウェア開発」を実践的に学ぶ機会を創出することにした。

「自動運転ミニカーバトル」は、参加者が自らのキャリアを切り拓くのを一助とすることを目的に企画された。自動車専用道路など、特定の場所においてシステムが全操作を担う「自動運転レベル4」を、ミニカーで実現することをめざしている。

  • 参加車両の集合写真。なお、左端の3台は技術サポートを担ったトヨタ技術会「自動運転ミニカークラブ」のミニカーバトルに参戦している車両で、コストキャップなしのため、1車両約20万円ほどの予算がつぎ込まれている

    参加車両の集合写真。なお、左端の3台は技術サポートを担ったトヨタ技術会「自動運転ミニカークラブ」のミニカーバトルに参戦している車両で、コストキャップなしのため、1車両約20万円ほどの予算がつぎ込まれている

ミニカーのレギュレーションでは、車両本体や搭載センサなどの合計費用を5万円以内に抑える「コストキャップ」制を採用(ただし、破損による再購入費用などは含まない)。電子制御による自律走行(自動運転)で可能な改造ラジコンでの勝負となる。車両のサイズ規定は、450×220×300mm(全長×全幅×全高)以内と定められ、外部からのリアルタイム制御は一切禁じられている。

トヨタ技術会が提供する参考車両のスペックも公開されている。サイズは約275×145×135mm(同)で、CPUとして「Raspberry Pi 3B+」を、ストレージとして32GBのマイクロSDカードを、コース壁・障害物検知用として超音波センサを搭載。プログラミング言語として「Python」が採用されていた。なお、センサは超音波センサ限定というわけではなく、コストキャップに違反しなければ問題ない。そのため、カメラや安価なLiDARを搭載しているチームも見受けられた。

持ち時間6分で3周完走できるかが勝負の分かれ目

ルールは、持ち時間6分以内に何度トライしてもいいので、スタートラインからスタンディングスタートし、コース壁を倒すことなく(軽い接触は問題ない)、連続で3周走りきったことで完走となり、そのタイムが記録される。制限時間内であれば、プログラムの変更やパラメータの調整などはいくらでも可能だ。

そのため、まずは堅実なプログラムで完走してタイムを記録し、その後に高速設定へと切り替えてより速いタイムを狙うというのが定石だ。しかし、予選時にとてつもないタイムを出したチームがあったため、優勝を狙うためにはきわめて攻めたプログラムで走る必要があった。試走が足りずに競技中もチームメンバーで走行状況をチェックしては、パラメータを変更し、トライ&エラーを繰り返す熱意あふれるチームもあった。予選のタイムを維持すれば、優勝は無理でも準優勝を狙えたかも知れないが、それでも優勝をめざして安定を捨て、賭けに出たチームの敢闘精神をたたえたい。

コースレイアウトは、第2コーナーと最終コーナー手前にショートカットが設けられたレイアウトとなっており、時計回りのコースだ。第2コーナーのショートカットは、中がクランク状なので慎重さが要求されるが、侵入しやすい。そのため、いくつかのチームがトライしてショートカットを成功させていた。一方、最終コーナー手前のショートカットは、鋭角にターンしなければならず、進入がきわめて難しいため、成功すれば一気にスタート/フィニッシュライン前に出られるが、今回はそこを攻めたチームはなかった。

  • コース全景。ストレートの反対側のテクニカルセクションでは、いかに直線に近いラインで走れるかがタイム短縮の重要ポイントの1つだ

    コース全景。ストレートの反対側のテクニカルセクションでは、いかに直線に近いラインで走れるかがタイム短縮の重要ポイントの1つだ

  • 第2コーナーでショートカットに成功したチーム「Galapagos」(チーム番号31)。1番手の出走で技ありを披露した

    第2コーナーでショートカットに成功したチーム「Galapagos」(チーム番号31)。1番手の出走で技ありを披露した

ミニカーを追う少女に“痛車”も!? 会場沸かせた2チーム

まずは会場を沸かせたチームについて紹介しよう。

1チーム目は、8番目に出走したチーム「天一」(チーム番号32)。平均タイム43秒13(計測は審判2名による手動計測の平均タイム)で10位となった。何が盛り上がったかというと、メンバーのお子さん。1歳ぐらいの女の子が一緒に来ていたのだが、ミニカーが走り出すとそれを追いかけて行く。その可愛さに会場は大盛り上がり。ちなみに、この日最終コーナー手前のショートカットはどのチームも利用しなかったことは前述の通りだが、唯一利用したのがこの子。センシングや制御でどのチームも苦労しているのに、人間とはどれだけ優秀なのかを改めて感じさせられる一幕だった。

  • チーム「天一」の車両。背後から最大のライバル(?)に迫られ、必死に逃げて好タイムが出た?

    チーム「天一」の車両。背後から最大のライバル(?)に迫られ、必死に逃げて好タイムが出た?

【動画】チーム「天一」の走行の様子。自動運転ミニカーvs女の子の対決に注目

そしてもう1チームは、16番目に走行したチーム「Black Hole」(チーム番号36)。今回唯一「痛車」仕様で参戦したチームだった。このチームが大受けだったのは、そのボディカウルに描かれた美少女キャラクター……ではなく、車体後部に積まれた某エナジードリンクの缶。最終コーナーはコース幅が少々狭いため、そこを通過する際に、どうもその缶がアウト側のコース壁に接触しているらしく、会場から「缶を外した方がいい」というアドバイスが出た。そして急遽、メンバーがその声に従って缶を強制パージしたところ、見事完走。平均タイム26秒50で、3位とは1秒43という僅差の4位となった。

  • チーム「Black Hole」の車両の初期状態。後輪側に搭載されている某エナジードリンクが運命を左右することに

    チーム「Black Hole」の車両の初期状態。後輪側に搭載されている某エナジードリンクが運命を左右することに

  • 競技中にエナジードリンクの缶を強制パージした「Black Hole」。軽量化と干渉回避が功を奏したか完走し、タイムも全体4位に食い込んだ

    競技中にエナジードリンクの缶を強制パージした「Black Hole」。軽量化と干渉回避が功を奏したか完走し、タイムも全体4位に食い込んだ

【動画】チーム「Black Hole」の痛車仕様のミニカー。エナジードリンクの缶を強制パージし、絶妙なライン取りの走りを披露した

上位3チームも健闘、優勝チームと2位は7秒差

それでは上位3チーム、まずは3位から。

3位は、25秒07を記録したチーム「ft_copilot();」(チーム番号7)。なお、このチームは42 Tokyoの学生で構成されており、中には日本人工知能オリンピックの金賞受賞の高校生メンバーも加わっている。このチームの最大の功労者は、ルール違反のはずの6人目のメンバー(メンバーは最大5人まで)。といっても、6人目はAIプログラミングアシスタント「GitHub Copilot」なので、ルールには抵触せず。同AIをフル活用してプログラムを何万行も書き換えまくったそうで、3位に入れたのは5人のメンバーそれぞれが得意分野を結集したチームプレーに加え、GitHub Copilotとの共同作業のおかげとしていた。

  • チーム「ft_copilot();」の車両。3位になれた秘訣は、5人のメンバーによる役割分担に加え、6人目のメンバー「GitHub Copilot」によるプログラム修正も大きかったという

    チーム「ft_copilot();」の車両。3位になれた秘訣は、5人のメンバーによる役割分担に加え、6人目のメンバー「GitHub Copilot」によるプログラム修正も大きかったという

  • 3位の受賞の様子。高校生、大学生、社会人の混成チームだが、全員42 Tokyoの学生でもある。賞金5万円を獲得した

    3位の受賞の様子。高校生、大学生、社会人の混成チームだが、全員42 Tokyoの学生でもある。賞金5万円を獲得した

【動画】チーム「ft_copilot();」の走行の様子。独特の蛇行しながらの走りが特徴だ

続いては2位、金沢から参戦した機械工学専攻の学生チーム「チーム流体研」(チーム番号28)。3位とは0秒11の僅差となる、24秒96のタイムで2位を獲得した。旋回性能の向上をめざし、ミニカーの駆動輪である左右の後輪それぞれにモーターを搭載し、回転差によって舵を取る独自の旋回機構が採用されている。また、センサの更新頻度が12Hzという制約の中で、コーナーの奥まで突っ込み一気に車体の向きを変えるという攻めの走りを実現した。

  • 「チーム流体研」の車両。駆動輪の後輪の左右それぞれにモーターを組み込み、回転差で旋回性を高めるトルクベクタリングに近い仕組みが採用されている

    「チーム流体研」の車両。駆動輪の後輪の左右それぞれにモーターを組み込み、回転差で旋回性を高めるトルクベクタリングに近い仕組みが採用されている

  • 準優勝に輝いた金沢の大学生チーム「チーム流体研」。試走機会の少なさを創意工夫と技術力で補い、賞金10万円を獲得した

    準優勝に輝いた金沢の大学生チーム「チーム流体研」。試走機会の少なさを創意工夫と技術力で補い、賞金10万円を獲得した

【動画】「チーム流体研」の走行の様子。0秒11の接戦を制した精緻な制御が光る

そして、17秒49という驚異的なタイムで頂点に立ったのが、42 Tokyoの卒業生が代表を務める企業の看板を背負った社会人チーム「Ichis」だ。他を寄せ付けない圧倒的な速度と安定感は、別カテゴリーのマシンが混走しているかのような異次元の衝撃を会場に与えていた。メンバーは決して自動車や自動運転に詳しいわけではなかったそうだが、今回の大会への参戦を決めてから独学で学び、業務同様のマイルストーン管理を徹底。早期にミニカー本体を完成させ、残りの全時間をソフトウェア開発に充てたという。なお、今回のマシンの開発情報は、チーム名と同じIchisの公式サイトで公開する予定としている。

  • チーム「Ichis」の車両。他を圧倒する「別格」の走りを見せつけた

    チーム「Ichis」の車両。他を圧倒する「別格」の走りを見せつけた

  • 「Ichis」の優勝の表彰の様子。圧倒的な安定感と高速性能の裏側には、徹底した業務プロセス的な開発手法があったという

    「Ichis」の優勝の表彰の様子。圧倒的な安定感と高速性能の裏側には、徹底した業務プロセス的な開発手法があったという

【動画】チーム「Ichis」の走行の様子。まるでレールの上を走るかのような高速安定走行は必見だ

これらに加え、安全設計が評価された「ドラ・ドライバーズ」(チーム番号26)にトヨタ賞が、競技への熱意が評価された「Born2Ride」(チーム番号11)にはマツダ賞が、それぞれ授与された。なおトヨタ賞は、「衝突時の自動停止機能」という、実社会の安全思想に通じる実装が選定の決め手となった。

自動運転は今後、社会に不可欠なインフラ技術として定着していくことは間違いないだろう。今大会で研鑽を積んだ若きエンジニアたちが、次世代のモビリティ開発を牽引する日が来ることを予感させる内容であった。第3回の開催時期は未定だが、さらなる競技の発展と、未来の技術者たちの挑戦が続くことに期待したい。