名古屋大学(名大)と名古屋市科学館の両者は2月4日、オーストラリア国立望遠鏡機構が運用するモプラ電波望遠鏡などにより得られた一酸化炭素(CO)分子輝線のデータ解析から、南天の「じょうぎ座」の方向で天の川銀河の円盤部(銀河面)から垂直方向に尻尾のように伸びた「ヘッドテイル構造」を持ち、通常と比較して温度が高いという特徴を備える分子雲を2つ発見したと共同で発表した。
さらに、欧州宇宙機関(ESA)位置天文衛星「ガイア」のデータを解析することで、地球からこの分子雲までの距離を8000±590光年と推定することに成功したことも併せて発表された。
-

(a)今回発見された2つの分子雲の全貌。円盤部(銀河面)から垂直に伸びる特徴的な構造を持つ。(b)異なるエネルギーを持つCO分子から放射された輝線強度比の分布図。数値が高い領域は、衝撃圧縮により温度と密度が上昇していることを示している。(出所:名大プレスリリースPDF)
同成果は、名古屋市科学館の河野樹人学芸員(名大大学院 理学研究科 客員研究員兼任)、名大の福井康雄名誉教授、同・早川貴敬研究員、同・立原研悟准教授、東京大学の土井靖生助教らの共同研究チームによるもの。詳細は、日本天文学会が刊行する英文学術誌「Publications of the Astronomical Society of Japan」に掲載された。
天の川の進化を解明する大きな手がかりに
我々の天の川銀河は1000億から2000億もの星が集まる直径約10万光年の大型銀河系だが、そこには星の材料となる星間ガスや星間塵も多量に漂っている。星は、こうしたガスなどが濃集した領域で誕生し、これまでの研究から円盤部における星形成活動は、およそ100億年にわたって継続してきたことが明らかにされている。
しかし、現状のペースで星形成が続くと仮定した場合、現存する星間ガスは10億年以内に枯渇してしまうとの指摘がある。約100億年という長期間の活動を説明するには現在のガスの量だけでは不十分であり、円盤部の外側から継続的にガスが供給されている可能性が示唆されていたものの、その観測的な裏付けは十分ではなかったとのこと。そこで研究チームは今回、円盤部へのガス供給の証拠を掴むべく、天の川銀河の分子雲の観測データを詳細に解析したという。
そして解析の結果、円盤部から垂直方向に尻尾のように伸びたヘッドテイル構造を持つ特徴的な分子雲が、じょうぎ座の方向に2つ発見された。この分子雲の物理状態を解明するため、モプラ電波望遠鏡に加え、南米チリのアタカマ高地にあるアペックス12mサブミリ波望遠鏡が捉えた、エネルギー準位の高いCO分子輝線の観測データも解析に投入された。
その後、エネルギー準位の異なる輝線強度比を用いたモデル計算の結果、この分子雲は絶対温度30~50K(約-243~-223℃)に達していることが判明。円盤部の典型的な分子雲が10K(約-263℃)であることを考えると、有意に高温であり、周囲に加熱源となる天体も見当たらないことから、これは分子雲が円盤部に落下し、衝突時の衝撃圧縮を受けていることによる温度上昇であると結論づけられた。
さらに、ESAのガイア衛星によるデータを解析したところ、この分子雲の背後にある恒星の光が遮られる「減光」現象が確認された。恒星の距離分布から、今回発見された分子雲までの地球からの距離は8000±590光年である可能性が最も高いと推定された。この距離情報に基づき、落下する2つの分子雲の質量はそれぞれ太陽の4800倍および3500倍に及ぶことが算出された。
-

(a)ガイア衛星のデータに基づく、恒星の距離と減光量の関係図。灰色で示された3つの領域が分子雲の推定距離範囲。(b)距離7400光年から1万3000光年の範囲内にある、ガイア衛星による単位面積あたりに検出された恒星の数。黒の等高線で、2つの分子雲の空間分布が重ねられている。これらの解析から、距離が8000±590光年の可能性が最も高いことが導き出された。(出所:名大プレスリリースPDF)
従来の天の川銀河内の分子雲広域観測は主に円盤部に集中して行われており、特に垂直方向に伸びた分子雲の探査は手つかずの状態に近かった。今回の研究は、ヘッドテイル構造を明確に捉え、衝撃圧縮による温度上昇を捉えた点で非常に画期的といえるとする。また、米国を中心とする研究チームによる最新のシミュレーションにおいても、円盤部に落下するガスが同様の構造を持つことが再現されており、今回のシナリオを支持しているとした。
-

天の川銀河を真横から見た模式図。2つの分子雲は、円盤部を取り囲む銀河ハロー領域(黒色部分)から落下してきたものと推測された。なお、図中のガスの形状やサイズはあくまでも概念的なイメージである。(出所:名大プレスリリースPDF)
なお今回の研究に先立ち、名大の早川研究員と福井名誉教授は2024年、全天の水素原子ガス解析から、円盤部に落下する水素原子雲の「中速度雲」の広域探査を実施。星間ダスト放射との比較により、これらの中速度雲の大部分は、太陽系近傍と比較して重元素が少なく、天の川銀河外から流入した「始原的なガス」であることがすでに立証された。
今回発見された分子雲の視線速度(秒速-35km)は、この中速度雲の性質と合致するという。つまり、銀河を包む「銀河ハロー」から落下した中速度雲が、円盤部との衝突で強く圧縮され、分子雲へと姿を変えたシナリオが浮かび上がった。こうした落下分子雲こそが、円盤部に対する「外側からの継続的なガス供給源」の実態である可能性があり、研究チームは今後、円盤部から垂直方向の分子雲探査と解析を進めることで、系統的な研究が進むことが期待されるとしている。