沖縄科学技術大学院大学(OIST)は2月3日、自然界の粒子が光子のように力を媒介する「ボソン(ボース粒子)」か、クォークのように物質を構成する「フェルミオン(フェルミ粒子)」のどちらかに分類されるという従来の常識に対し、2020年に二次元半導体界面で実験的に観測された第3の粒子「エニオン」が一次元系においても存在し得る条件とその物理的特性を解明したと発表した。
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(左)三次元空間では、粒子の入れ替え時に軌跡が絡み合わず、交換因子は+1(ボソン)か-1(フェルミオン)に限定される。(右)一方、一次元では粒子が互いを避けられず、軌跡が必ず交差して編み込まれる。このため交換因子は、軌跡のねじれや曲がり方に依存する(ここではαとして表されている)。今回の研究により、このαを直接制御することで、粒子の性質をボソン的、あるいはフェルミオン的へと自在に制御できるようになった。(c)ジャック・フェザストーン(出所:OIST Webサイト)
同成果は、OIST 量子システム研究ユニットのイダルゴ・サコト大学院生、同・トーマス・ブッシュ教授らの研究チームによるもの。詳細は、米国物理学会が刊行する原子・分子・光学・量子などを扱う学術誌「Physical Review A」に掲載された。
現在、物理学において人類は17種類の素粒子を把握しており、それらはボソンとフェルミオンの2種類に大別される。ボソンは、光子やグルーオンなどの力を媒介する素粒子で、スピン(自転)数が整数倍であり、「パウリの排他律」が働かない。そのため、複数の同一粒子が同一地点に重なって存在できるのが特徴だ。この性質は、位相の揃った光を放つレーザーや、極低温下で多数のボソンが単一の量子状態に落ち込む「ボース=アインシュタイン凝縮」などの現象を引き起こすことが知られている。
もう1つのフェルミオンは、クォークやレプトン(電子、ニュートリノといった軽粒子)など、我々の身体を含む宇宙に存在する物質そのものを構成する素粒子だ。こちらはスピンが半整数倍(1/2、3/2など)で、パウリの排他律が働くため、同じ量子状態を共有できず、1か所に1つの粒子しか存在できない。この性質により、陽子と中性子の数で元素の性質が決まり、また電子数の増減で陰陽のイオンが生まれ、物質に多様な化学的性質がもたらされている。
また、ボソンとフェルミオンは、同一の2粒子が互いに入れ替わった際の系の振る舞いでも区別される。入れ替わっても状態が変化しないのがボソンであり、系の状態(波の位相)が反転するのがフェルミオンだ。我々の住む空間的に三次元であるこの宇宙においては、このどちらか以外の可能性は存在しないとされる。この二項分類は、量子力学の「不可識別性」という原理に根ざしたものだ。
2つの同一粒子を交換しても観測可能な物理状態は同一である必要があり、この交換操作は「何もしないこと」と等価と見なされる。そのため、交換による状態の変化を示す「交換因子」は、2回繰り返すと元に戻る(2乗して1になる)という規則に従わなければならない。この条件を満たすのは、位相が変わらない「+1」のボソンか、位相が反転する「-1」のフェルミオンに限定されるというわけである。
上述した2種類しか存在し得ない理由は、我々の宇宙が空間的に三次元だからだ。しかし、系が低次元化すると、この明確な分類は曖昧になる。1970年代、ボソンとフェルミオンの中間的な性質を持つ第3の分類として「エニオン」の存在が理論的に予測された。それから約半世紀を経て2020年、超低温・強磁場下の二次元半導体界面において、ついにエニオンは実験的に観測された。
エニオンとは、“どのような”という意味合いの「any」と、粒子名に付く接尾辞である「on」を組み合わせた造語。なお、エニオンとはボソンでもフェルミオンでもない粒子の総称であり、特定の単一の粒子種を指すわけではない。いわば、粒子の「統計性」における第3のカテゴリーと呼ぶべき存在だ。
近年、極低温原子系において、単一粒子を精密に制御する実験技術が大きく進展している。このような背景から研究チームは今回、現実的な実験環境において制御可能なエニオンの基礎物理を探究するための土台を構築し、一次元という極限環境でエニオンが生じ得る条件を詳しく調べることにしたという。
三次元空間では2種類しか存在し得ないのに、低次元ではより多様な粒子が現れるのは、粒子の移動における自由度が制限されるためだ。低次元では粒子同士が入れ替わる際、相手を避けて回り込む経路を取れず、必ず経路が交差する。この時、時空間における粒子の奇跡は「編み込まれた」状態となる。この編み込み(組紐)構造は、数学的に解きほぐすことができないため、入れ替え後の状態は入れ替え前と明確に区別されることとなる。
これは、三次元空間では「交換=何もしないこと」だったものが、低次元ではトポロジー(連続的な変形)的に別物にあることを意味する。不可識別性の原理を満たしながらも、経路のねじれ方に応じて、交換因子は+1や-1に限らず連続的な値を取ることが可能になる。その結果、ボソンでもフェルミオンでもない中間の性質を帯びたエニオンが現れるのである。
今回の研究では、一次元空間においてもボソンとフェルミオンの二項分類が成立しないこと、さらに交換因子を直接制御できるという画期的な知見が示された。一次元では、粒子の軌跡が互いを避ける余地がなく、粒子同士は相手を“すり抜ける”必要がある。このため、交換因子は高次元とは本質的に異なる性質を持つ。粒子間の短距離相互作用の強さと結び付いていることが確認されたとした。
今回の成果に対しブッシュ教授は、「量子世界の根本的性質に対する理解を深める新たな道が開かれました。理論物理学と実験物理学の両面で、今後どのような展開が生まれるのか、非常に楽しみです」とコメントしている。