沖縄科学技術大学院大学(OIST)は、AIに“声に出さない心の声”を持たせ、それとワーキングメモリと組み合わせることで、「汎化」の能力を向上させられる可能性が示されたと発表した。
沖縄科学技術大学院大学(OIST)は1月28日、AIにヒトのような「インナースピーチ」(声に出さない心の声)を持たせ、それと「ワーキングメモリ(作業記憶)」と組み合わせることで、未知の課題に対しても適切な精度で予測・判断を行う「汎化」の能力を向上させられる可能性が示されたと発表した。
同成果は、OIST 認知脳ロボティクス研究ユニットのジェフリー・クワイセア博士、同・谷淳教授の研究チームによるもの。詳細は、MITが刊行する脳の情報処理からニューラルネットワーク(AI)の理論までを扱う学術誌「Neural Computation」に掲載された。
“独り言”は特に幼児に見られるが、大人であっても自分の思考の整理や意思決定、自らの感情を理解する際などに、自然と発せられることがある。この独り言に近い動作として、言語を声には出さずに脳内で処理する「インナースピーチ」が存在する。厳密には両者の脳内処理プロセスには明確な差異があるものの、いずれも自己対話の一種とされる。
研究チームはこれまで、具体的な状況・内容に強く依存しない情報処理、つまり汎用的な手法や操作を学習することで、過去の経験を超えてタスクを遂行できる能力に着目してきたとする。ヒトは、タスクの切り替えや未知の課題解決を日常的にこなすが、従来のAIにとってはこれらは容易ではない。そこで研究チームは今回、発達神経科学や心理学、機械学習、ロボティクスなどの分野を横断する学際的アプローチを取り入れ、次世代AIの示唆となる学習の新たな枠組みを探ったという。
今回の研究では、まずAIモデルの記憶構造が、タスクの汎化におけるワーキングメモリの重要性を検証することからスタートした。具体的には、情報を一時的に保持して活用するワーキングメモリの重要性が評価された。作業机に例えられるこの機能について、難易度の異なる課題でシミュレーションし、さまざまな記憶構造の有効性を比較した結果、情報を一時的に保持する小さな容器である「ワーキングメモリスロット」を複数備えたシステムは、順序の逆転やパターンの再構築といった複雑な課題でも高い汎化能力を発揮することが示されたとした。
また、学習プロセスにおいては自己対話が極めて重要であり、システムがこれを実行できるよう、トレーニングデータを工夫して構成することで、モデルの構造だけでなく相互作用のダイナミクスによっても学習が形づくられることが判明したという。
具体的には、自己主導的な「つぶやき」と独自設計のワーキングメモリアーキテクチャを組み合わせた結果、AIモデルの学習能力や新しい状況への適応力、そしてマルチタスク処理能力が向上。中でも、システムに一定回数の自己対話を促す「自己対話目標」を追加したところ、マルチタスクやステップ数の多い課題で性能が向上することが確認されたとした。
加えて今回のシステムは、通常の汎化学習で求められる膨大なデータセットを必要とせず、少量のデータで動作する点も大きな特徴だといい、システム自体が軽量なことから、既存手法を補完する新たな選択肢となることが期待されるとしている。
今後の展望として、研究チームはより複雑な環境での再現に取り組む予定だ。ヒトは、絶えず変化するノイズの多い環境下で意思決定や問題解決を行っており、こうした発達的学習を再現するためには、今回の研究成果のような外的要因を学習プロセスに取り入れる必要があるという。
クワイセア博士は、「インナースピーチのような現象を探求し、そのメカニズムを解明することで、人間の生物学や行動に関する、より根本的な新たな知見が得られます。こうして得られた知識は、家庭用ロボットや農業用ロボットのような応用分野で活かすことができ、複雑で変化に富む現実世界での機能向上につながるのです」とコメントしている。
