東北大学は1月21日、光ファイバ製造に用いられる「熱延伸技術」を応用することで、電圧印加により曲がる・収縮することが可能で、うねるなどの三次元動作も行えるポリマー製の超細径「ソフトファイバアクチュエータ」の開発に成功したと発表した。

  • 電圧の動作で動くソフトファイバアクチュエータ

    延伸技術により開発された、電圧の動作で動くソフトファイバアクチュエータ(出所:東北大プレスリリースPDF)

同成果は、東北大 学際科学フロンティア研究所の郭媛元准教授(東北大大学院 医工学研究科兼務)、東北大 工学部 機械知能・航空工学科の秋元有斗学部生(学際科学フロンティア研究所ジュニアリサーチャー)らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、米国化学会が刊行する化学と科学のインタフェースを扱う学術誌「ACS Omega」に掲載された。

アクチュエータは、ロボットや機械を動作させる駆動装置の中核を担う。一般的な産業用ロボットや、従来のヒューマノイドロボットなどの関節ではモーターや、形状記憶合金などの金属材料を用いたアクチュエータが主に利用されてきた。しかし、ヒトと接する場面での利用においては、材料の硬さによる安全性の制約があるほか、そもそも動作の自由度に制限がありモーションが硬くなってしまうこと、そして加熱や磁場を作用させたりすることによる複雑な駆動方式が課題となっていた。

そうした中、近年はヒトと直接接触する可能性のある場面で利用されるソフトロボットや、人体に装着するウェアラブル機器、医療・ヘルスケアなどの分野においては、高い柔軟性や機械的適合性が不可欠なことから、より柔らかく安全に動作するソフトアクチュエータが求められている。これは、ゴムや柔らかい高分子材料などを用いて作られた、しなやかに動くアクチュエータで、電気や空気、熱などの刺激によって、曲がる、伸縮するといった動作を行うことから、金属製のモーターやアクチュエータに比べて柔軟性が高く、安全にヒトや生体と接することができるとして期待されている。

一方、光ファイバの製造を起源とする熱延伸技術は、電圧印加用の電極や、液体・空気の通り道(流路)、センサなどを1本の細いファイバ内に集積できる製造手法としてこれまで発展してきた。近年、この技術を用いた「動くファイバ」の研究も進められてきたが、形状記憶合金や磁性材料などの硬い材料に依存する例が多く、柔軟性や動作の自由度という点で依然として課題が残っていた。そこで研究チームは今回、「誘電エラストマー」に基づくポリマー製ソフトアクチュエータを、熱延伸技術によってファイバ形状で実現することを目指したという。

誘電エラストマーは、電圧を印加するとゴムのように柔軟に伸縮する材料のことで、電圧印加で材料自身が動くため、モーターを使わずに動作を生み出すことが可能だ。この性質から、しなやかに静かに動く「人工筋肉」を実現できるとして注目されている。

今回の研究では、誘電エラストマーとしての電気応答性を維持しつつ、高い柔軟性を有する「熱可塑性ポリウレタン」が着目された。そして、詳細な調査の結果、熱延伸に適した加工条件が見出された。その結果、毛髪ほどの細さでありながら、電圧をかけるだけで曲がる、伸縮することで、うねるような三次元的な多自由度動作が可能なソフトファイバアクチュエータが開発された。

  • ソフトファイバアクチュエータ(SFA)の動作原理と変位応答例

    ソフトファイバアクチュエータ(SFA)の動作原理と変位応答例。(A)誘電エラストマーは、電圧印加による電極間の引力で厚み方向に圧縮され、長さ方向に伸張することで変形する。(B)SFAの測定構成の模式図。(C)電圧印加時のSFA先端の変位応答。電圧に同期した安定的な周期的変位が示されている(出所:東北大プレスリリースPDF)

このソフトファイバアクチュエータは、一般的なプラスチックよりもはるかに柔軟性があり、ゴムに近いしなやかさを備えている。そのため、電圧の印加だけで無理なく曲がったり伸縮したりする動作を安定して生成することが可能だ。また、ファイバ形状であることから、巻く、編む、織り込むといった簡単な加工により、布状やらせん状などの二次元・三次元構造へと自在に組み込むこともでき、従来の平面型アクチュエータでは困難だった立体的かつ柔軟な動作も実現された。

ソフトファイバアクチュエータが、ミリメートルオーダーで微動する様子が収められた研究チーム公式動画「Spiral-Shaped DEA Fiber with Electrically Driven Swirling Motion」(出所:YouTube「Biofibertronics」)

今回開発されたソフトファイバアクチュエータは、柔軟性・安全性・多自由度動作を兼ね備えた新しいアクチュエータ基盤技術として、ソフトロボットやウェアラブル機器をはじめとする次世代デバイスへの応用が期待されるという。研究チームは今後、電極材料や構造設計の最適化によるさらなる動作性能の向上や、センサや流路といった他機能との統合を進めることで、「感じて動く」多機能ファイバデバイスへの発展を目指すとした。今回の技術は、身体に寄り添い、ヒトと共存する優しいロボット工学の実現に向けた重要なステップとなるものとしている。