東芝は1月22日、ハードディスクドライブ(HDD)の大容量化を実現する可能性がある次世代技術の共鳴型マイクロ波アシスト磁気記録(MAS-MAMR)向けに、磁気ヘッド内の「スピントルク発振素子(STO)」の発振状態を詳細に解明できる世界初の評価手法を開発したと明らかにした。
新手法開発の背景
社会のデジタル化の進展に加え、生成AIの急激な進化により、情報ストレージのニーズがますます増大し、HDDは2024年に出荷容量が1ZB(ゼタバイト)を超え、依然として情報ストレージデバイスの中心的役割を担っている。
HDD市場は2030年に320億ドルに達すると予測され、特にデータセンター向け大容量ニアラインHDD市場の伸長が見込まれており、こうした背景からHDDには今後もさらなる大容量化が求められている。
大容量化を実現する鍵となるのが、新しい記録方式であるエネルギーアシスト磁気記録技術であり、同社は次世代記録技術としてMAS-MAMRと熱アシスト磁気記録(HAMR)の両技術を開発している。
MAS-MAMRにおけるマイクロ波源は、磁気ヘッドの先端に形成されるSTOが担っており、同社は独自の双発振型STOを提案・設計し、MAS-MAMR効果による記録能力の向上を実証した。
双発振型STOでは、内部の2つの磁性層が協調して発振することで、MAS-MAMRに最適なマイクロ波を生成。MAS-MAMRで記録密度を高めるためには、マイクロ波の安定性・周波数・強度・振動方向といった要素が重要であり、その源となるSTOの発振状態を解析・理解することが、STOの設計改良とHDDのさらなる大容量化に不可欠となっていた。
しかし、磁気ヘッドは複雑な構造を持ち、そこに設置されるナノスケールのSTOを直接観察し、発振状態を解析することは極めて困難となっていた。従来は、シミュレーション結果や記録特性など複数の間接情報を組み合わせて発振状態を推定していたが、直接解析による理解が高度な技術開発の鍵となっていたという。
新しい評価手法の概要
そのため、今回、物質・材料研究機構(NIMS)との共同研究により、STOの発振状態を詳細に解明できる世界初の評価手法を開発。同手法は評価用のアンテナを新たに導入し、STOに外部からマイクロ波を照射することで、従来困難だった発振状態の直接評価を可能とした。
同手法は、STOの発振と評価用のアンテナから照射するマイクロ波の同期現象に着目。同期現象の有無はSTOの発振状態によって異なり、特に双発振型STOの狙いである双発振状態では同期現象が現れず従来の測定では発振信号に差が見られない場合でも、同手法では双発振状態と非双発振状態を明確に区別し、発振状態を解明できるという。
STOの発振状態によって発振信号が複数ある場合があるが、周波数レベルで測定が可能なため、MAS-MAMRに最適な発振状態の真の周波数を特定できるとのことだ。磁気ヘッドは複雑な構造を持つが、評価用アンテナからのマイクロ波に鋭敏に応答するのはSTOのみであるため、STOに特化した測定を可能としている。
また、従来は正確な評価のために複雑な配線を準備する必要があったものの、同手法ではアンテナを導入するだけで評価が完了する。数10GHzという高周波で発振するSTOの状態を、磁気ヘッド内部で直接特定できる世界初の手法だという。
さらに、STOは人間の脳の働きを模倣するコンピューティング手法であるニューロモルフィックコンピューティングや、時系列データ処理に適したリザバーコンピューティングなど、次世代計算システムへの応用が期待されており、同手法はMAS-MAMRにとどまらず、STO全般に広く適用を可能としている。
今後、同社は新しい手法による双発振型STOをはじめとしたSTO動作の理解を深め、MAS-MAMR技術の進化に貢献するとのこと。そして、MAS-MAMRとHAMRの両技術の開発を進め、次世代ニアラインHDDの開発を推進していく方針だ。

