皆さん、こんにちは!
科学コミュニケーターの倉田祥徳です。

本ブログでは、イベント「科学コミュニケーターと行く、地球の記憶にふれる旅 @高知コアセンター」の中で実施したトークセッションの様子をご紹介します。
登壇者は、高知コアセンターの管理と運営に長年関わってきた久光敏夫さん、地震研究を専門とする奥田花也さん、そして古気候研究に取り組んでいる池原実さんの3人です。約20人の参加者を前に、センター内の講義室で「コアサンプルから何がわかるのか?」をテーマにお話しいただきました。

トークセッションの様子(左から久光敏夫さん、奥田花也さん、池原実さん)

アーカイブ動画はこちらからご覧ください。

高知コアセンターってどんな場所?

まずは久光さんから、高知コアセンターという施設が世界でどんな役割を果たしているのかについてご説明いただきました。

 

高知コアセンターの紹介をする久光さん(右は筆者)

高知コアセンターは高知大学と海洋研究開発機構(JAMSTEC)の共同で運営されている組織で、国際深海科学掘削計画(IODP)によって採取された海底コアサンプルを保管するだけでなく、地震・環境変動・微生物など、地球科学の幅広いテーマを扱える最先端の研究設備が整っている研究所だそうです。センター内にはさまざまな施設があり、今回の参加者のみなさんにはご紹介する時間がありませんでしたが、イベント前の打ち合わせで訪れたときは、地球の磁気を調べる実験室や微生物を研究するスーパークリーンルームなども見せていただきました。

高知コアセンター内のスーパークリーンルーム。他の微生物が入り込まないように、常に壁の奥から層流(一定方向に流れるきれいな空気)が流れているそうです!

コアを調べると、何がわかるのか

続いて奥田さんから、コアサンプルとは何か、コアサンプルを調べて何がわかるのかについてご説明いただきました。

奥田さんは、コアサンプルを採取するイメージを参加者にもたせるため、「ケーキにストローを刺して引き抜く」という喩えを使って説明されました。ケーキにストローを刺すと、ストローの中には柱状に生クリームやスポンジなどが入ってきますよね。コアサンプルも同様に、海底から切り抜いてくる、さまざまな砂や泥などの地質が含まれるのです。
喩え話がなんとわかりやすいこと! これは科学コミュニケーターとして見習わないといけません。

ケーキに喩えてコアサンプルを説明されている奥田さん。

また、コアサンプルを読み解くための重要な前提は地層の「下が古く、上が新しい」という堆積学の基本原理だと、奥田さんは話してくれました。コアサンプルを構成している堆積物は下から溜まっていくため、下のほうが古く、上が新しいものになります。この大原則があるからこそ、コアの“縦方向”がそのまま “時間の流れ” になるので、解析すると、過去の気温や隕石の衝突、地震や火山の噴火など、“昔の出来事” がわかります。

いわばコアサンプルは地球の “タイムカプセル” なのです。

堆積学の基本原理 「地層累重の法則」 を説明しているスライド(提供:高知コアセンター)

ただし、地層は常に規則正しく積もるわけではなく、順番が入れ替わることもあるそうです。火山活動によってマグマが浸入すれば地層の途中に突如新しい岩石が入り込んだり、断層が生じて昔の地層が上へ跳ね上がったりすることもあるそうです。このような場合、うまくタイムカプセルとして機能しません。そんなとき研究者はどうするのでしょうか?

例えば、あるコアサンプルの中で順序が突然入れ替わっていることに気づいたとき、それは地震があった証拠かもしれないし、大規模な海底地すべりの痕跡かもしれません。奥田さんによると、それを検証するために、1つコアサンプルだけではなく、いくつかコアサンプルを採取し、それらをよく調べることで過去の出来事を推測していくそうです。

研究者はコアサンプルの情報を組みあわせて、過去に何が起こったのか推測していく(提供:高知コアセンター)

では、そんなコアサンプルを調べると、どんなことがわかるのでしょうか。
次はトークセッションでうかがった最新の研究成果について紹介していきます。

コアサンプルを用いた最新の研究成果

池原さんは、過去の気候の変化について研究をされています。地球は100万年以上のスケールで寒冷期 (氷期) と温暖期 (間氷期) を繰り返していることが知られており、そのなかでも、現在から約12万5千年前や約40万年前の「スーパー間氷期」とよばれる、現在よりも温暖だったときの間氷期について詳しく調べているとのことでした。2025年も暑い日が続きましたが、今よりも暑い日があったなんて……。

スーパー間氷期を説明している池原さん(左)

池原さんは、いろいろな場所で昔の環境がどうだったのか調べるため、掘削船に乗って、北はベーリング海から南の南極海に至るまで多くの場所からコアサンプルを採取してきたそうです。

そのため航海してきた日数はなんと、800日以上!

今回ご紹介いただいたのは 「黒潮」 の研究です。黒潮は日本の気候に大きな影響を与える暖流ですが、スーパー間氷期にはどうだったのでしょうか。四国沖の黒潮が流れている場所からコアサンプルを採取し、そこから得られた情報から当時の環境を読み解いていきました。鍵となるのは、まず “年代” を正確に決めることだと池原さんは話します。コアの中に含まれる微化石に注目し、その殻に含まれる酸素同位体比から、採取されたコアサンプルがどの時代に形成されたものかを判断します。

採取されたコアサンプルに含まれていた有孔虫(G. ruberとG. inflata)から得られた酸素同位体のグラフ(下)と、地球全体の酸素同位体のグラフ(上)と比較して、コアサンプルの年代を決める(提供:高知コアセンター)

そのうえで、有機物の組成を解析し、当時の海水温を推定していくとのこと。これは 「アルケノン古水温計」 と呼ばれる手法で、植物プランクトンがつくる有機物の特徴から、水温を読み取れるものだそうです。こうした複数の証拠を組み合わせた結果、12.5万年前のスーパー間氷期の黒潮の海流は、現在よりもおよそ2℃ほど海水温が高かったことがわかりました!

グラフの青色の線がアルケノン古水温法で得た当時の海水温を示している。赤色の線は酸素同位体比、横軸はコアサンプルが採取された深さを表している。(提供:高知コアセンター)

池原さんは 「過去の温暖期を調べると、将来の気温や海の温度がどうなるのか調べることができる」 と語られていました。今後の地球の環境はどうなっていくのか、過去の環境を調べる池原さんの研究から目が離せません!

なぜ酸素同位体比で年代がわかるのか?

酸素には軽いもの (¹⁶O) と重いもの (¹⁸O) といった異なる種類 (同位体) があり、海の微化石はその割合を殻に記録しています。気候が寒いと海水中の¹⁸Oが増え、暖かいと減るため、この比率は氷期・間氷期の変化を反映されます。コアサンプルから得た酸素同位体比の変化を、すでに知られている地球全体のものと照らし合わせることで、各層がいつの時代に形成されたのかを判断できます。

 

アルケノン古水温計とは

アルケノン古水温計は、海にすむ植物プランクトンであるハプト藻がつくる アルケノン(長鎖不飽和ケトン)という有機分子を利用して、過去の海水温を推定する手法。これらのプランクトンは、水温によって“アルケノンの種類の比率”が変化することがわかっています。水温が高いときには、二重結合が少ない不飽和度の低いアルケノンが、反対に水温が低いときには二重結合が多い不飽和度の高いアルケノンが多くつくられます。これ性質を利用して当時の海水温を推定します。

アルケノン.png

代表的なアルケノン分子と水温の関係(https://nakamura.geoterpenoids.com/c061df4ff6ac46638b24bed2b4bab50fを参考に図を作成)

最後のパートでは、奥田さんが再び登壇し、地震研究の最前線についてお話くださいました。地震は、地下にある 「断層」 が急に“すべる”ことで発生します。この断層とは二つの岩石が接触している場所のことで、その場所がどのように“すべる”のかについては、断層部分の岩石どうしの“摩擦”の大きさによって決められるといいます。奥田さんは、この仕組みをとても身近な喩えを使って説明してくださいました。机の上に消しゴムを置き、カバーがついたまま横に動かそうとすると、スルスルと軽く滑ります。これでは地震が発生しません。ところがカバーを外すと、摩擦がはたらき、動かすにはぐっと力が必要になります。このときは地震が起こります。

消しゴムを使って地震と摩擦の関係性を説明されました。

「岩石でも同じように、表面の状態によって“すべりやすさ”が大きく変わるんです」と奥田さん。研究室では、実際の岩石を使って地震が発生する状況を “再現” し、摩擦がどのように地震の発生に関わっているかを調べているのだそうです。研究室で使われているのが、下の装置です。

岩石の摩擦を調べる実験装置と奥田さん

この装置は、高温の熱水の中で岩石の摩擦を調べられる点が大きな特徴だと奥田さんは話します。巨大地震が発生する深さでは、温度が150〜300℃ほどになると考えられており、同じような環境で実験できることが研究の鍵になります。しかし、そのような極端な条件で 「石がどう壊れるのか」「どんな摩擦が起こるのか」は、まだ十分に理解されていないとのこと。「だからこそ、実験でひとつひとつ確かめていく必要がある」と奥田さんは語ります。
しかも、この実験装置は市販されているものではなく、自分たちで設計し、改良を重ねながら7〜8年かけて装置を完成させたといいます。実験装置も自分たちで設計しているとは本当に驚きです。巨大地震を発生させるような断層はどのようにすべり始めるのか。そのとき摩擦はどんな役割を果たしているのか。この装置を使って、これからどんどん明らかになっていくと思います。これからの研究成果がとても楽しみです!

今回のテーマは「コアサンプルを調べると何がわかるのか」でしたが、ここまでのお話を聞くと、コアサンプルが決して単なる土や泥ではないことがよくわかります。そこには、昔の環境や過去の地震の痕跡など地球の長い歴史が幾層にも重なって残されています。研究者の皆さんは、その一つひとつを丁寧に読み解きながら、地球がどのように変化してきたのか、そしてこれからどうなっていくのかを探っています。
“地球のタイムカプセル” が、今後どんな “記憶” をわたしたちに見せてくれるのか、今後の研究成果が楽しみで仕方ありません。

久々の出張イベントでしたが、ふだんは資料や写真でしか見ることのできない研究現場を訪れ、コアサンプルを扱う研究者の方々がどのような視点で地球の歴史を読み解いているのかを直接うかがうことができ、多くの学びを得られる貴重な機会となりました。ご協力いただいた高知コアセンターの皆様に、この場を借りて厚くお礼を申し上げます。

ブログ前編はこちらからご覧ください。

https://blog.miraikan.jst.go.jp/articles/20260119post-588.html



Author
執筆: 倉田 祥徳(日本科学未来館 科学コミュニケーター)
【担当業務】
アクティビティの企画全般に携わり、来館者への情報発信や対話活動を行う。これまで、地球科学の最前線を紹介する企画展(Mirai can NOW第7弾「地震のほしをさぐる」)やノーベル賞関連のイベント等を担当。東北沖の大規模な海底掘削ミッション「JTRACK」のアウトリーチオフィサーとしても活動中。

【プロフィル】
大学・大学院と化学を専攻し、「植物の毒」について研究してきました。その後、シンガポールの日本人学校の教員として働く中で「教科書にとらわれず、多くの人と科学の“楽しさ”を共有したい」そんな想いから、未来館へ。

【分野・キーワード】
有機化学・植物病理学・理科教育