国際宇宙ステーション(ISS)に長期滞在していた油井亀美也(ゆい・きみや)さん(55)と米露3人の飛行士が日本時間(以下同)15日、予定を繰り上げ地球に帰還した。4人のうち1人の医療対応のためで、宇宙航空研究開発機構(JAXA)によると油井さんではないという。健康理由による早期帰還はISS史上初めて。一方、JAXAは新人飛行士の諏訪理(まこと)さん(49)が来年頃に半年間、ISSに初めて滞在すると発表した。会見した諏訪さんは「25年続くISSのたすきをしっかり受け取り、次の飛行士に受け渡したい」と意気込みを語った。

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    地上に帰還し、クルードラゴンから退出した油井さん(中央)=15日午後、米サンディエゴ沖(NASAテレビから)

同乗飛行士、地上で精密検査の必要

米航空宇宙局(NASA)が9日に会見し、飛行士1人が地上での精密検査を必要とするため、4人を早期に帰還させることを明らかにした。この飛行士の名前や具体的な症状は、プライバシーを理由に非公表。ISSの運用とは無関係に起きた症状という。ジャレッド・アイザックマン長官は「明らかに深刻な症状だった」とする一方、「容体は安定しており緊急事態ではない」と説明した。

油井さんら4人は昨年8月2日、米スペースX社の宇宙船「クルードラゴン」で地球を出発し、同時にISS滞在を開始した。帰還時も同じ機体に搭乗する都合で、4人とも帰還を前倒しすることとなった。帰還したのは油井さんと米国のマイケル・フィンクさん(58)、ジーナ・カードマンさん(38)、ロシアのオレグ・プラトノフさん(39)。来月半ばに到着する後継の4人を待たずに、5カ月半ほどでISSを離れた形だ。

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    帰還前、ISSの日本実験棟「きぼう」でクルードラゴンの宇宙服に身を包む油井さん(前列右)ら。彼らの早期帰還によりISS滞在中の飛行士は3人となった(NASA提供)

4人の乗ったクルードラゴンは15日午前7時20分、高度約400キロにあるISSから離脱した。徐々に降下して大気圏に突入。パラシュートを開いて午後5時41分に米カリフォルニア州サンディエゴ沖に無事に着水した。アイザックマン長官は同日夜の会見で「全員が帰還後に健康診断を受けている。懸念されていた飛行士は元気だ。NASAは予期せぬ事態に備え、断固として安全に対応できるよう準備している」とした。

油井さんは同日夜、X(旧ツイッター)に「無事に地球へ戻ってきました! クルードラゴンの窓から見た満天の星空や大気圏突入時のプラズマの美しさを撮影できなかったのが残念です。地球の重力も懐かしい感じでいいですね。今後のリハビリ、頑張ります!」と、自身が室内で歩く動画と共に投稿した。

航空自衛隊テストパイロット出身の油井さんは2009年、JAXAの飛行士候補に選抜された。15年、ISSに約5カ月滞在したのに続き、今回が2回目の飛行。滞在中は科学実験や機器の維持管理、日本の物資補給機「HTV-X」初号機のロボットアームによる捕捉や関連作業などをこなした。

「ISSの成果に最後の磨きをかける」

JAXAからISS滞在の指名を受けた諏訪さんは9日、都内で会見。ISSの運用が2030年に終了する計画であることに触れ、「(自身が滞在する)27年頃は、具体的に後ろが見える時期。成果に最後の磨きをかけることや、地球低軌道利用の民間の需要を作ること、月・火星探査に向け基礎を築くことなどを、意識しながらやっていく」と初飛行を展望した。「地上と宇宙、国と国、月・火星や地球低軌道の未来へといった、『つなぐ』ことを意識して臨みたい」とした。

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    会見する諏訪さん=9日、東京都千代田区

国際宇宙探査をめぐり持論を語った。「国同士の立場の違いはあっても、できるところから協力するのが人類の知恵。ISSは好例で、その後の(月探査の)アルテミス計画も国際協力で進む。私の好きなアフリカのことわざに『早く行きたいなら一人で行け、遠くに行きたいなら皆で行け』がある。まさに宇宙開発は遠くに行くことで、皆で行くしかない」

アルテミス計画は米国主導で、日欧やカナダが参加。アポロ計画以来となる有人月面着陸を2028年までに実現し、月上空の基地「ゲートウェー」を建設して実験や観測をする。日米政府は、日本人2人の月面着陸に合意済み。着陸の前段階として来月にも、半世紀ぶりとなる有人月周回飛行を米国人4人が実施する予定だ。

諏訪さんはこれまでの訓練を振り返った。「何ごとも最初は苦労し、徐々に難度が上がった。(自身では)できないと思う段階もあったが、一回一回しっかりデブリーフ(振り返り)をして先輩飛行士がコメントをくれた。それらを自分で内省し、次の訓練につなげた。飛行士は(宇宙で)どんな仕事もこなす必要があり、『これが苦手』と思われたらまずい。難しいことも苦手意識を持たずクリアできてきたのは、よく設計された訓練や、インストラクターの経験と技量によるところが大きい」

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    会見後に撮影に応じる諏訪さん

先輩飛行士のアドバイスが生きた。「ずっと伴走してくれた」という金井宣茂(のりしげ)さん(49)から「キャラ(キャラクター)をつけた方がいい」と言われたのが心に残っているという。「『自分らしくあれ』ということだろう。飛行士に定型はなく、バックグラウンド(経歴)を生かすやり方が良いと、言ってくれたと思う」。金井さんから「日記を書け」とも言われ、2年ほど続けている。

諏訪さんは1977年、東京都生まれ。茨城県つくば市育ち。米プリンストン大学大学院地球科学研究科修了。青年海外協力隊のルワンダ派遣、世界気象機関(WMO)を経て、2014年に世界銀行に入行した。アフリカの気候変動や防災に関する取り組みに従事した。23年2月、JAXAの飛行士候補に米田あゆさん(30)と共に選出され、基礎訓練を経て24年10月に飛行士に正式認定された。少年期の1985年に開かれた筑波科学博や、アポロ17号の船長に会ったことなどを通じ、飛行士への思いを強めたという。

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    油井さんが滞在中の先月初旬、ISSに8つあるドッキングポート全てが宇宙船で埋まった。ISS史上初めてという。日本のHTV-X初号機も係留中だ(想像図、NASA提供)