東京大学(東大)と名古屋大学(名大)の両者は1月14日、太陽から噴出するプラズマである「惑星間空間コロナ質量放出物」(ICME)と、太陽系外から入射してくる「銀河宇宙線」の変動の関係を解明したと共同で発表した。

  • ICMEの多点観測の概念図

    今回の研究で実施されたICMEの多点観測の概念図。(出所:共同プレスリリースPDF)

同成果は、東大大学院 理学系研究科 地球惑星科学専攻の木下岳大学院生、名大 宇宙地球環境研究所の三好由純教授、同・原田裕己准教授、ポルトガル・計測・実験素粒子物理学研究所のマルコ・ピント研究員、東大大学院 新領域創成科学研究科 複雑理工学専攻の吉岡和夫准教授らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、米国地球物理学連合が刊行する宇宙物理を扱う学術誌「Journal of Geophysical Research: Space Physics」に掲載された。

高精度宇宙天気予報の確立へ既存装置を転用

太陽は地球の多くの生命にとって必要不可欠な一方、激しい活動を見せる側面もある。太陽表面の大規模な「太陽フレア」が発生すると、イオンや電子などのプラズマが放出される「コロナ質量放出」が起こり、放出されたプラズマは惑星間空間を伝搬するICMEとなる。これが地球を直撃した場合、磁場の向きなどの条件次第では地球磁気圏に甚大な影響を及ぼし、人工衛星の故障や地上発電網の停電といった社会インフラへの被害を招くリスクがある。

衛星測位や通信、放送、気象観測など、現代社会は人工衛星に強く依存しており、故障による社会的な影響は計り知れない。そのため、地上インフラ保護の観点からも、宇宙天気予報の重要性は増している。高精度な予報には、内部太陽圏におけるICMEの伝搬過程を解明することが不可欠であり、探査機の観測データを活用した伝搬モデルの改良が急務となっている。

銀河宇宙線は、天の川銀河の超新星爆発に由来する、太陽系外からの高エネルギー放射線だ。磁場を伴うICMEが通過すると銀河宇宙線の太陽系内への侵入が妨げられ、一時的に粒子観測器のカウントが低下する現象である「フォーブッシュ減少(フォーブッシュ効果)」が発生する。つまり、銀河宇宙線の入射量変化は、ICMEの変化を追跡する有力な手段となるのである。フォーブッシュ減少は比較的簡易な粒子観測装置でも検出可能で、ICMEの構造変化を鋭敏に反映する特徴を持つとされる。

このような背景の下、研究チームが以前着目したのが、日欧共同の水星探査機「ベピ・コロンボ」に搭載された、機体維持用のシステム系観測装置だ。この観測装置は科学解析用ではないため、データも簡素で理学的な活用は想定されていなかったが、研究チームは蓄積された膨大なデータを「もったいない」と考えたとする。そこで放射線シミュレーションを用いた較正を実施し、同装置をフォーブッシュ減少観測機器として“転生”させることに成功。そして今回の研究では、その実証として、2022年3月にベピ・コロンボを含む3機の探査機が、ICMEとフォーブッシュ減少を多点観測した事例を解析したという。

この観測イベントでは各探査機が、太陽系の動径・方位角方向のICME構造の比較に適した配置にあり、磁場や太陽風などのデータも揃っていたため、ICMEとフォーブッシュ減少の対応関係について多角的が考察が可能となった。解析の結果、ICMEの進化に伴うフォーブッシュ減少の形状や深さ、傾きの変化を捉えることに成功したとする。

  • ベピ・コロンボが観測したICMEのデータ

    ベピ・コロンボが観測したICMEのデータ。(a)青部分では、ICMEの通過によるフォーブッシュ減少を示す。(b~f)磁場や太陽風など、宇宙線以外の観点のICME観測データ。今回の研究では、これらとフォーブッシュ減少の関係から、ICMEの構造が考察された。(出所:共同プレスリリースPDF)

  • 太陽観測機「ソーラー・オービター」と、地球近傍の探査機が観測したフォーブッシュ減少と磁場の比較

    太陽観測機「ソーラー・オービター」と、地球近傍の探査機が観測したフォーブッシュ減少と磁場の比較。ソーラー・オービターは太陽から約0.5天文単位、地球近傍の探査機は1天文単位離れており、かつ両者が太陽から見て直線状に並ぶ絶好の配置で観測したため、太陽系動径方向の太陽プラズマとフォーブッシュ減少の変化の追跡が実現した。(出所:共同プレスリリースPDF)

工学目的の簡易装置でも、ICMEの進化に迫れることが示された今回の研究は、意義が大きいという。これにより、ICME観測への参入障壁が大きく下がるとした。他の探査機や過去のデータにも今回の手法を適用すれば、ICMEの観測データセットが飛躍的に拡充され、宇宙天気予報のさらなる精度向上が期待できるとしている。