大阪公立大学(大阪公大)は1月13日、独自に提案している小型スペースデブリ除去技術「電子ビームアブレーション推進法」で用いる電子ビームが、高度およそ60~1000kmにある電離圏中のプラズマから受ける影響をコンピュータシミュレーションで解析した結果、真空中のように拡散することなく細いビームを維持したまま約1km伝送できることが示されたこと、またそれ以上の距離になると「二流体不安定」による分裂現象が確認されたことを発表した。

  • 電子ビームアブレーション推進法によるスペースデブリ除去の概念図

    電子ビームアブレーション推進法によるスペースデブリ除去の概念図(出所:大阪公大Webサイト)

同成果は、大阪公大大学院 工学研究科の西尾圭太大学院生(研究当時)、同・森浩一教授の研究チームによるもの。詳細は、熱物理学と熱エネルギーの伝達・貯蔵を扱う学術誌「Journal of Thermophysics and Heat Transfer」に掲載された。

ビーム伝送距離をシミュレーションで検証

近年、ロケットの打ち上げ回数の増加や、衛星同士の衝突、軍事目的の衛星破壊テストなどにより、スペースデブリが急速に増加している。このままのペースで増え続けると、地球はデブリに囲まれ、ロケットの打ち上げが不可能となる「ケスラー・シンドローム」の発生が懸念される状況となっている。

こうした全地球的な課題に対し、多様な方法でデブリを除去するための技術開発が進められている。例えば、運用が終了した衛星などの大型デブリに対しては、専用の人工衛星が接近してロボットアームで捕獲する方式などが検討されている。一方、膨大な数が存在する10cm以下の小型デブリについては回収が困難なため、レーザーを用いる手法が世界中で研究されている。

森教授らは、地球の中間圏から外気圏にまで広がる電離圏に存在するプラズマの性質を利用し、電子ビームを用いて小型デブリを除去する「電子ビームアブレーション推進法」を研究している。衛星が長距離から電子ビームを照射し、小型デブリを減速させて大気圏へ落下・焼却させるというものだ。この方法は、高効率かつコンパクトなシステムで実現できる可能性があり、低コストでデブリ除去を持続できる点を最大の特徴とする。

しかし、課題もある。電子は負の電荷を持つため互いに反発し、電子ビームは真空中の伝搬では距離に応じて横に広がってしまう点だ。また、電子ビームが電離圏のプラズマからどのような影響を受けるのかについても、これまで十分に検討できていなかったとする。そこで研究チームは今回、電子ビームがプラズマからどのような影響を受けるのかを明らかにするため、コンピュータシミュレーションを実施したという。

電離圏は、太陽からの紫外線やX線などによって大気中の分子や原子が電離し、電子やイオンが多く存在する領域だ。電波を反射・吸収する性質を持ち、長距離無線通信や宇宙天気にも大きな影響を与えることが知られている。今回のシミュレーションの結果、電離圏中では周囲を満たすプラズマの効果により、電子ビームは真空中のようには拡散せず、逆に細い形状を維持したまま遠方まで伝搬することが判明した。

しかし、電子ビームが光速に近い速度で約1km以上進むと、異なる性質を持つ2つの流体が接触する界面で生じる「二流体不安定」現象によって、ビームがバラバラに分裂してしまうことも突き止められたとする。

今回の研究により、電子ビームを伝送できる距離が明らかにされた。数値とし伝送距離を把握できたことは、電子ビームアブレーション推進法の設計における重要な指針を与える成果とする。また同時に、今回の成果は電離圏のプラズマの性質を活用する宇宙工学の発展に大きな一歩を記したとしている。

今後は、電子ビームを受けたデブリにどのようにして減速力を生じさせるのかという未解決の課題や、デブリ除去用人工衛星の具体的な設計が重要なテーマになるという。電離圏を活用した独自技術を創出は、宇宙の自由化に大きく貢献することが期待されるとしている。