近畿大学(近大)は1月12日、早川ゴムとの共同研究により、医療現場の超音波診断に用いる液体超音波ゼリーの代替となる、拭き取りを必要としない新たな固形超音波診断用ゲルパッドを開発したことを発表した。

  • 固形ゲルパッドと超音波診断の際に使用するプローブ

    開発された固形ゲルパッドと超音波診断の際に使用する探触子(プローブ)(出所:近畿大学)

同成果は、近大 医学部 放射線医学教室(放射線腫瘍学部門)の門前一教授、同・植原拓也講師らの研究チームによるもの。詳細は、英科学誌「Nature」系のオンライン総合学術誌「Scientific Reports」に掲載された。

超音波検査の患者満足度向上に期待

超音波診断は、低侵襲かつ高信頼性の画像診断法として広く普及している。超音波を発信し、体内から返ってくる反射(エコー)を探触子(プローブ)で受信する同診断手法では、探触子と皮膚との間の空気を除去して超音波を効率的に伝達するため、従来はゲルまたは液体媒体が必要不可欠とされており、現在の医療現場では液体超音波ゼリーが広く用いられている。

しかしこの液体状ゼリーでは、衣服や髪の毛などに付着する可能性があるという“患者の不快感”に加え、検査後の拭き取り作業が必要な点、約15分で乾燥するため長時間検査では追加塗布が必要となる点など、多くの課題が残されていた。

こうした課題を解決するため、近年ではゼラチンを用いた固形ゲルパッドなどが開発されてきたとのこと。しかし保湿性能の維持や管理・補完の煩雑さに改善の余地を残していたといい、別の素材を用いたゲルの開発が求められていた。

そこで今回研究チームは、食品・化粧品分野で使用実績のある「タマリンドシードガム」を主成分とした新たな固形超音波診断用ゲルパッドの開発に着手した。マメ科の常緑樹であるタマリンドの種子を分離精製して得られる天然多糖類のタマリンドシードガムは、優れた保水性と生体適合性を有することで知られる。今般の研究では、タマリンドシードガム(0.1~5.0重量%)・多価アルコール(25.0~70.0重量%)から構成されるゲルパッドを開発。熱安定性・離漿液(りしょうえき)の制御による超音波伝達効率の最適化・自己回復性・最適な機械的柔軟性という4つの特徴を有するものが完成したといい、健康な協力者4名を対象として液体超音波ゼリーとの比較評価が行われた。

具体的には、リニアプローブ(総頚動脈・甲状腺)、コンベックスプローブ(肝臓)、セクタプローブ(心臓の傍胸骨四腔断面)の3種類のプローブで超音波画像を取得し、画像品質および患者満足度の評価、そして経時的な画像品質の評価が実施された。その結果、すべての検査部位において新開発のゲルパッドと従来の液体ゼリーでは画像品質の差は認められず、ゲルパッドが診断精度を損なわずに使用できることが実証されたとのこと。またゼリーで生じていたべたつきが無いため、患者満足度は明らかに高い結果になったとする。

また、新開発ゲルパッドは60分間にわたって乾燥せず、安定した画像品質を維持することも確認されたといい、従来は約15分で乾燥しはじめ追加塗布が必要とされていたのに対し、開発品では自己保湿機能によって長時間の検査にも対応可能だという。そしてこれらは、いずれのタイプのプローブであっても、さまざまな組織の震度において使用可能であることが確認されたとした。

この結果を受け研究チームは、開発したゲルパッドの臨床応用を目指して、さらなる改良と検証を進めているとのこと。短期的には、より大規模な臨床試験による有効性の検証や、小児・高齢者・肥満患者などのさまざまな患者層での使用評価、長時間使用時の耐久性評価を行うことを目標に据え、医療機器メーカーとの連携による製品化を検討しているという。

また今回の成果は超音波診断に限らず、超音波ガイド下で行う穿刺・生検などの処置、理学療法や美容医療などの超音波治癒、訪問医療における在宅医療をはじめ、保管や管理が容易かつ長期間使用できる特性を活かして、発展途上国での医療支援にも応用することが期待されるとしている。