東北大学と富士通は12月23日、「3GeV高輝度放射光施設NanoTerasu」(以下、ナノテラス)の測定データに因果関係を自動抽出するAI技術を適用し、物性発現メカニズムの全容解明が期待されるカゴメ格子超伝導材料において、超伝導発現メカニズムの解明につながる新しい知見の導出に成功したことを発表した。
両者は富士通のAIプラットフォーム「Fujitsu Kozuchi」のコア技術である因果発見技術をベースに、信頼性が高い因果関係を網羅的かつ簡潔に推定できる発見知能技術を新たに開発した。
さらに、東北大学材料科学高等研究所(WPI-AIMR)との協働のもとで、この技術をカゴメ格子超伝導材料を試料として物性研究で用いられる実験手法である角度分解光電子分光法(ARPES)により計測したデータに適用したところ、カゴメ格子超伝導物質の超伝導発現メカニズムの解明につながる新たな知見を発見できたという。
研究の背景
東北大学と富士通は新技術の開発と人材の育成を通して社会課題の解決に資することを目的とし、富士通スモールリサーチラボの一環として、互いの持つ技術や実績、知見を融合する「富士通×東北大学 発見知能共創研究所」を2022年10月に設置した。
「富士通×東北大学 発見知能共創研究所」においては、材料科学をはじめとするさまざまな分野の課題解決策をデータからAIによって発見する「発見知能」の開発、および社会実装を推進する共同研究に取り組んでいる。
材料科学分野では、2024年4月に運用を開始した「ナノテラス」を活用することで、ナノメートルレベルの高い空間分解能で分子や原子、電子の状態を計測可能になり、これまでにない新機能材料の開発による、地球環境問題などの社会課題を解決するイノベーションが期待される。
一方で、計測性能の向上に伴って取得されるデータ量は増加の一途を辿っており、膨大なデータから人の経験や勘に頼らずいかに有益な情報のみを漏れなく効率的に抽出するか、すなわち、科学研究プロセスの自動化の推進が課題となっている。
開発した技術の特徴
今回の研究では、「ナノテラス」において計測したARPESのデータに対して、「Fujitsu Kozuchi」のコア技術である因果発見技術をベースに、因果関係をグラフ構造で表した因果グラフを自動構築し、その中から信頼性が高い因果関係を網羅的かつ簡潔に抽出、提示する発見知能技術を開発した。
ARPESの計測データは光電子の強さやエネルギーなどの情報を含む膨大なデータであり、因果発見技術を適用し因果グラフを構築するとノード数が膨大な因果グラフとなり、その中から有益な情報を見つけ出すことは容易ではない。今回開発した技術は計測データに対してモデル式に基づくフィッティングを行い、抽出したパラメータのみのデータに対して因果グラフを構築することで、因果グラフの規模を圧縮している。
また、因果グラフの理解をさらに容易にするため、情報として重複したノードをできるだけ削除する技術を開発。高相関なデータ項目のペアに対し、それぞれの項目を削除した場合の因果グラフを構築するとともにその類似度を計算し、類似度が高い場合には重複と見なして因果グラフのノード数の削減を行う。
因果発見で網羅的に推定した因果関係においては、信頼性、因果関係の強さ、相関係数のいずれも一定以上のものに絞り込んで提示することで、測定ノイズの影響を削減する。これにより、物理的に意味がある可能性が高い因果関係の抽出が可能になるという。
これらの技術により、因果グラフの大きさが20分の1以下にまで削減され、効率的な新しい知見の発見が可能となっている。
開発技術の成果と展望
東北大学と富士通は今回開発した技術を、新材料として注目されているカゴメ格子超伝導物質であるセシウムバナジウムアンチモニド(CsV3Sb5)のARPES測定データに適用した。セシウムバナジウムアンチモニドは高温超伝導物質として期待されている材料なのだが、超伝導機構が解明されておらず、バナジウム電子のみが関与しているという説やバナジウム電子とアンチモン電子が協力して超伝導を実現しているという説が主流となっていた。
今回、セシウムバナジウムアンチモニドの測定データから物性発現メカニズムの新知見となる因果関係を自動抽出することに成功し、セシウムバナジウムアンチモニドにおいては、超伝導を担っているV3Sb5層の電子状態にセシウム(Cs)原子の化学結合状態が強い影響力を持っていることが明らかになった。超伝導の発現メカニズムはバナジウム電子とアンチモン電子およびセシウム電子の協働によるものであると考えられるとのことだ。
