NTTが研究開発を進めている、電子を可能な限り光に置き換える「光電融合」を用いた次世代の通信・情報処理基盤「IOWN(アイオン、Innovative Optical and Wireless Network)」。2025年はすでに商用化されている「IOWN 1.0」だけでなく、「IOWN 2.0」の商用化に向けた大きな進展も見られるなど、IOWNを通信からコンピュータへと広げる姿勢を明確にしています。
ただ一方で、IOWN 1.0のユースケース開拓にはまだ課題が見られるほか、IOWN 2.0で目指すコンピュータへの光電融合の導入を巡っては、他の企業から先に商用化の動きが出てきており、技術優位性を保つことができるか不透明な部分も出てきています。2025年のIOWNの動向を振り返ってみましょう。
万博で披露の「IOWN 2.0」が商用化へ
2025年のIOWNを振り返るうえで欠かせないのは、やはり日本国際博覧会(大阪・関西万博)ではないでしょうか。
2025年4月~10月まで開催された大阪・関西万博ではさまざまな先端技術に関する展示が実施されていましたが、NTTグループのパビリオンではIOWNを前面に打ち出した展示を実施していました。
その中でも注目されたのは、光電融合デバイス(PEC)をネットワークの接続部分に導入して大幅な低遅延を実現するIOWN 1.0の「オールフォトニクスネットワーク」(APN)を用いた、Perfumeによる遠隔パフォーマンスです。
しかしながら、IOWNの今後を見据えるうえで非常に重要な展示となったのは、IOWNの次のステップとなる「IOWN 2.0」の活用事例を、公に初めて披露したことです。
それはパビリオンの中の人達の表情をリアルタイム分析し、それをもとにパビリオン外側の幕を揺らすというもの。
分析処理にPECでコンピュータのボード間を接続する「光電融合スイッチ」と、IOWNのネットワーク性能を生かし分散配置されたコンピュータリソースを需要に応じて割り当てる「IOWN光コンピューティング」を用いることで、従来のコンピュータで同じ処理をするのと比べ、8分の1という大幅な消費電力を実現していました。
NTTは大阪・関西万博での実績などを受け、2025年10月にIOWN 2.0の商用化に向けた施策を打ち出しています。具体的にはIOWN 2.0の光電融合デバイス(PEC-2)を用いた光通信スイッチを、2026年末に商用化することを目指すと明らかにしたのです。
その製品化に向けたパートナーとの協業も明らかにしており、NTT子会社のNTTイノベーティブデバイスが開発したPEC-2を米Broadcom(ブロードコム)のスイッチに導入し、台湾のAccton Technology(アクトン・テクノロジー)がそれを製品化していくようです。
このようにIOWN 2.0の商用化に向けた道筋ができたことにより、NTTはIOWNをさらに次のステップ「IOWN 3.0」に向けた取り組みも加速しようとしています。IOWN 3.0では光電融合の技術を半導体のチップ同士の接続に取り入れるもので、それを導入してGPUをパッケージ化することにより、IOWN 2.0よりさらに10分の1の消費電力低減を目指すとしています。
2028年の商用化が予定されていますが、2025年11月に実施された「NTT R&D FORUM」などではIOWN 3.0に向けた「PEC-3」の具体的な姿も披露されており、実現に向けた準備が着実に進んでいる様子を見て取ることができました。
IOWNと「光量子」でコンピュータ事業にまい進
そしてNTT R&D FORUMに合わせる形で、NTTはIOWNとは異なるもう1つの大きな動きを見せています。それは量子コンピュータに関するもので、NTTは東京大学発のスタートアップ企業であるOptQCとの連携協定を締結し、高性能な「光量子コンピュータ」の実現を目指すとしています。
量子コンピュータは量子力学の原理を取り入れ、従来のコンピュータでは多くの時間がかかる計算を短時間でこなすもの。
近年、その技術開発が進んだことにより、都市交通の最適化や創薬など、従来解決が難しかった問題を解決できる存在になり得るとして期待されているものですが、これまでの量子コンピュータは超伝導などを用いるため設備が非常に大がかりだったのが課題でした。
しかし、光量子コンピュータは、光の技術を用いるため常温・常圧で動作させることができ、小型化かつ省電力を抑えて動作させられることから、その実現を目指しているOptQCにNTTの光技術を提供し、両社で高性能な量子コンピュータを開発するというのが連携の狙いとなっています。
一見するとこの動きはIOWNと関係ないように見えますが、実は高性能で低消費電力のコンピュータを実現するという点で共通しています。それだけに一連のNTTの動きは、同社がコンピュータの事業化に向けたものと見ることができるでしょう。
固定・無線を含め通信事業はすでに市場が飽和しているにもかかわらず、トラフィックの増加で継続的な設備投資が求められており、しかもそれぞれの国に閉じた事業でもあることから、新技術を導入したからといって売り上げが伸びるとは限らないのが実情です。
ただ、コンピュータはAI需要の高まりなどで今後も大きな需要が見込まれますし、光技術による低消費電力化などは確実なニーズもあることから、新技術の投入が事業拡大につながる可能性が高いのです。
そうしたことから、IOWNや光量子コンピュータなどの研究開発に注力するNTTの動きは、あまり成長が見込めなくなった通信から、コンピュータへと将来的に事業シフトを進めるものといえ、2025年はその下地を整える年になったともいえるのではないでしょうか。
IOWN 1.0はユースケース、2.0は競合に課題
通信からコンピュータへと領域を変え、さらなる進化に向けて順調な様子を見せるIOWNですが、課題も見えてきています。その1つは、すでに商用化されているIOWN 1.0のユースケースです。
大阪・関西万博ではNTTパビリオン以外でもIOWN 1.0の活用がなされており、8月に実施された「超歌舞伎 Powered by IOWN『今昔饗宴千本桜 Expo2025 ver.』」では、APNを用いて大阪と台湾を接続し、低遅延の特徴を生かして国を超えたリアルタイムでの演者の共演を実現。その後もNTTは「超歌舞伎」でIOWNを活用したさまざまな取り組みを実施しています。
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「超歌舞伎」にIOWN APNを活用する取り組みも進められ、2025年12月3日より東京・歌舞伎座で実施された超歌舞伎では、IOWN APNの活用で「初音ミク」と遠隔でのリアルタイムなコミュニケーションができるコーナーも用意された
そうしたコンシューマ向けイベントでの活用に加え、2025年にはビジネス向けのユースケース開拓も、傘下のNTTドコモビジネスを中心として積極的に進められている様子も見て取ることができました。
例えば2025年12月4日には、NTTドコモビジネスとダッソー・システムズが、APNを活用した3D CADによるリアルタイム遠隔共同編集の実証を実施しています。
しかし、コンシューマ、法人いずれの場合においても課題となってくるのが、APNに対応したネットワークの整備とコストです。IONWのAPNは有線のネットワークで、整備するには大きなコストがかかりますし、機材も最新のものが必要になるだけあって、月額料金は198万円からと非常に高額です。
それゆえ現在のAPNの需要は、それだけの料金を支払っても十分な効果が得られるデータセンター向けが主体と見られており、それ以外に採算が取れるユースケースがなかなか見当たらないというのが、サービス開始当初からの課題とされています。
2025年もさまざまな場面でIOWNの実力が示されていた一方、ビジネスになるユースケース開拓という部分では、やはりまだ課題があるように感じます。
そしてもう1つ、IOWNの基礎となる光電融合をコンピュータに取り込む動きを進めているのはNTTだけではないということです。実際、NTTがIOWN 2.0で提供を予定している光電融合スイッチに類する製品は、2025年にBroadcomやNVIDIAが相次いで発表しており、先行している状態にあります。
実は電子に由来する消費電力の影響を問題視しているのはNTTだけでなく、NVIDIAのような半導体メーカーも、その解決に向けて光電融合技術の研究開発を積極的に進めています。
それだけに2026年以降、NTTがIOWNでそれら巨大企業と戦い、コンピュータの領域へ入り込むには、研究や製品開発などで一層のスピード感が求められることは間違いないでしょう。




