最近、物価高騰や少子高齢化の影響か、はたまた手軽なスマホゲームの台頭の影響か、街中で中小規模や個人経営のゲームセンター(アミューズメント施設)を目にする機会が減った。
学生時代に稼いだアルバイト代の大部分をアーケードの音ゲー・リズムゲーやレースゲームに費やした筆者としては、いくばくかのさみしさを覚える。当時は薄暗い店舗も多く、また禁煙化される前だったので少しタバコの臭いがこもっている場所も多かった。
対して最近のアミューズメント施設は店内が明るく、禁煙・分煙も進んだためクリーンな環境で楽しめる。ショッピングモールの中に入居するゲームセンターは家族連れでも入りやすく、買い物のついでに寄っても楽しい。
そうした中で最近よく見かけるのが、青字の店名が目印の「GiGO(ギーゴ)」だ。セガ エンタテインメントが運営していたゲームセンター事業を、2022年にGENDAがM&A。社名をGENDA GiGO Entertaimentに変更した。いつも賑わっている池袋サンシャイン60通りの「GiGO総本店」や大阪道頓堀の「GiGO大阪道頓堀本店」を筆頭に、国内外で600店舗以上を運営している。
GENDA GiGO Entertainmentはアミューズメント施設「GiGO」店舗における体験価値の向上を狙い、Brazeの顧客エンゲージメントプラットフォームを導入したという。そこで今回、GENDA GiGO EntertainmentのDX推進室で室長を務める松沼雄祐氏に、Braze導入をする前の課題や導入の経緯、アミューズメント施設の運営における具体的な施策について取材した。
「レジがなく顧客データを取得できない」アミューズメント施設の課題
コインを入れればプレイできるアミューズメント施設のビジネスは、飲食店や小売店と異なり、誰が何のゲームでどのように遊んでいるのかを可視化しづらい課題がある。どのゲームにリピーターが多いのかなども、把握するのは困難だ。
そうした中でGENDA GiGO Entertainmentは、顧客とのワン・トゥ・ワンでのビジネスを具体化し、データに基づく需給予測の精度を高めるツールの導入を以前から検討していたという。
松沼氏は当時の状況について「アミューズメント施設はこれまで、顔の分からないお客様の100円玉を数えるビジネスと言われてきた。当社も例外ではなく、CRM(Customer Relationship Management:顧客関係管理)がないので数千件のメールアドレスをコピー&ペーストで整理して、メールマガジンやプッシュ通知を配信していた。そこから事業を進めるためには、ID-POSのような仕組みが必要だった」と振り返った。
そこで同社は、遊んだゲームの履歴に応じたサービス券がもらえたり、キャッシュレス決済機能が使えたりする「GiGOアプリ」を内製開発。その後に、リアルタイムなデータ収集と柔軟なデータ連携、スケーラビリティを強みとする顧客エンゲージメントプラットフォーム「Braze」の導入が検討された。
松沼氏が前職で動画配信サービス「Disney+」のマーケティングに関わっていた際に、Brazeを利用していたこともあり、GENDA GiGO Entertainmentにおいても「Braze」の利用を進めることにしたのだという。
データ利活用で最も議論したのは更新頻度
「Braze」の導入においては、アプリにどのように組み込むのかについて、データベースエンジニアやデータマネジメントのチームと綿密な議論を重ねたという。
特に意見が交わされたのは、データを取得・更新する頻度だ。例えば「今まさに店内で遊んでいるデータが欲しい」場合に、1時間に1回のバッチ処理では、データが届いたときはユーザーがもう店舗を離れてしまっているかもしれない。反対に、1日に1回更新されれば十分なデータもある。
松沼氏は「ゲームをプレイするお客様のデータから、トリガーになり得るポイントを細かく取得するように工夫した」と語った。
加えて、効果検証のPDCA(Plan:計画、Do:実行、Check:評価、Action:改善)サイクルの高速化にもこだわったという。施策の効果を確認するためのシナリオを細分化し、来店客数の増減や、1人当たりの来店時の使用金額などを可視化した。
また、「ECサイトであれば、メールマガジンの開封率や、そこからの購買行動までのコンバージョン率を追えるようになっている。しかしアミューズメント施設は、実際に店舗に来ていただいて、お金をゲームに入れてもらうまでを徹底して追わないと効果が検証できない」と、松沼氏はアミューズメント施設事業で仮説検証を繰り返す難しさについて話していた。
GiGOがBrazeによって実現した3つの施策とその効果
GiGOでは「Braze」の導入後、「雨の日施策」「開業販促施策」「相互送客施策」を具体的なサービスとして開始した。
「雨の日施策」は、天気予報が雨の場合に近隣のユーザーにクーポン券をプッシュ通知するサービス。外部サービスの天気予報からAPIでデータを取得し、雨天時でも来店する動機付けにつなげている。これにより、6%の来店率向上を実現した。
「開業販促施策」では、年間2~30軒のペースで店舗数を拡大する中で、お気に入り店舗をアプリで登録しているユーザーに対して近隣店舗の開店時にクーポンを配布する。この施策は店舗の新規立ち上げ時の顧客獲得に直結しており、新店舗への来店率が47%向上したという。
「以前は新店舗の近隣住民にポスティング施策などを実施した経験もあるが、従来のポスティングは効果を可視化しづらく費用対効果の回収率が非常に低い。一方で、アプリはお客様データと結びついているので効果の計測率が大きく異なる」(松沼氏)
3つ目の「相互送客施策」は、多様なエンタメブランドを保有するGENDAグループならではの取り組みだ。具体的には、GiGOでプレイした来店客が帰りそうなタイミングで、同グループの「カラオケBanBan」の告知やクーポンを通知する。反対にカラオケからアミューズメント施設に送客する場合もあり、グループ内で相乗的な効果を生み出している。
Brazeの担当者はGiGOにおけるデータ利活用について「API連携やデータ活用は多くの企業が取り組んでいるが、GiGOの場合はお客様の心情が変化するタイミングをしっかり捉えてメッセージを発信している点が強み」とコメントしていた。
こうした顧客起点の接客を構築するために、同社ではカスタマージャーニーのシナリオ構築とデータ取得を強化しているとのことだ。
これから目指すのは「GENDAエンタメ経済圏」
GENDA GiGO Entertainmentは今後、リアル店舗ビジネスを科学し、店舗ならではの感動体験を技術で向上させることに挑戦する。特にGiGOでは、「より気持ちよくお客様がゲームを続けてプレイできる環境を実現する」(松沼氏)という。
クレーンゲームに欲しいプライズ(景品)が入荷している場合や、店舗スタッフによる人間ならではの接客が心地良い場合には、つい何度も次のゲームに挑戦したくなるだろう。
さらには、グループ全体でのデータ活用も強化するとのことだ。特にGiGOようにエンタメに特化した店舗ビジネスにおいては、現状では顧客データや購買データは多くない。そのため、これらの希少なデータを活用したビジネスも展開する方針だ。
松沼氏は「グループ全体の店舗で使える共有IDとなるGENDA IDを整備している。このIDに今後はポイントや決済の機能も追加することで、映画、カラオケ、アミューズメント施設などで広く使えるサブスクのような"GENDAエンタメ経済圏"を実現したい」と、将来の展望を語っていた。


