“サステナビリティ”という旗印のもと、環境への意識が高まる現代において、資源を繰り返し使用することで消費を減らす“再生素材”の活用は、さまざまな企業が取り組む命題となっている。
そんな中、パナソニック くらしアプライアンス社(以下「パナソニック」)は、再生樹脂を95%使用した掃除機を開発し注目を集めた。再生素材を掃除機に実装するには、強度やコストなど多くの壁が立ちはだかる。そんな中、くらしに寄り添う製品への採用を実現させた開発チームの面々に、試行錯誤の裏側や苦労を聞いた。環境への配慮と実用性の両立に挑んだその道のりとは。そしてどんな未来を描いているのだろうか。
パナソニックが注目した植物由来の“セルロース”
日々の生活に欠かせない、家電製品。パナソニックが、そうした家電を幅広く開発・販売する国内有数のメーカーであることは、もはや説明不要だろう。家電製造の上流から下流にわたるまで幅広くノウハウを有する同社は、昨今の環境意識の高まりを受けて、環境配慮素材の家電製品への適用を進めているという。
そんなパナソニックが新たな家電の素材候補として着目しているのが、セルロースである。植物由来繊維である同素材は、家電製造におけるCO2排出量の削減効果が見込まれる上、リサイクル性能が高い点も大きな強み。豊富な森林資源を有効活用できるという面でも日本国内での注目度は非常に高まっており、さまざまな企業がその活用に向けて開発競争を繰り広げている。
こうした動きに先駆け、2018年にはパナソニックグループとして環境配慮樹脂の量産を開始するなど、早くから開発に着手。くらしアプライアンス社の中では、R&D部門であるくらしプロダクトイノベーション本部の材料応用開発部にて、開発が行われた。同部署に所属し、今回取り上げる再生樹脂使用掃除機の開発を担当した盆出真里さんによれば、「長い間セルロースを扱い続けているので、徐々にその扱い方も上手になってきていると思います」と話し、素材としての活用に向けてさまざまなノウハウが蓄積されている点に自信をのぞかせる。
そしてセルロース再生樹脂の性能向上と並行して、再生樹脂を使用した家電製品の開発も本格化。第一の目標として、製品自体の開発サイクルが早く、新素材の早期搭載が見込める小型家電の中から、掃除機が選択されたという。
“掃除機”の難しさ、そして試行錯誤の日々
実際に市場に出るまでの期間が短いという理由から、再生素材の実装対象として選ばれた掃除機。確かに冷蔵庫や洗濯機などの大型家電に比べれば小さく、セルロース再生樹脂の活用先には適しているようにも思われるが、盆出さんによれば「掃除機ならではの素材への要求も多い」のだという。
「掃除機の素材特有の難しさのひとつに、“割れにくさ”があります。人が手にもって使用する掃除機は、もちろん曲がりや変形に対する耐久性も求められますが、実使用の中で落としたりぶつけたり、あるいは各家庭では子どもが飛び乗ってしまったりというケースも少なくないため、衝撃に対する強さも必要とされます。
ただし、セルロースなどの繊維系材料を配合すると、素材としては硬くなる。裏を返せば“しなやかさ”を失うため、衝撃が加わると割れやすくなってしまいます。硬さが重要であると同時に、柔らかさも必要。その物性のバランスを見極めなければならないのは、掃除機でのセルロース再生樹脂活用特有の課題だと思います。」
また、日本の市場において掃除機に求められる重要な要素が“軽さ”。同じ性能を持つ製品であれば軽い方が売れやすいといい、現在のトレンドとしては、片手でも取り回しがしやすいスティックタイプの製品へのニーズが高まっている。しかし、樹脂の物性を調整するために不可欠な補強材は、その量が増えるほど重量も増す。そうしたトレードオフの要素をそれぞれ見極めながら最適解を探る作業では、数多の試行錯誤が行われたという。
“白”への挑戦 - 環境性能に甘えない開発
また、盆出さんが挙げたもうひとつの日本市場特有のニーズが“色”だ。かねてより冷蔵庫や洗濯機、掃除機などの生活に不可欠な家電たちは“白物家電”と呼ばれ、清潔さを象徴する掃除機も、100%ではないにせよ白い製品が売れやすい傾向にあるとのことだ。
だが、セルロース繊維を含有する樹脂で白色を実現するのは、文字通り至難の業。一般的な樹脂の成型プロセスでは、一度高温で熱して溶かす必要があるが、植物由来のセルロースは通常プロセスで必要とされる温度では焦げてしまい、茶色へと変化してしまうのである。
またさまざまな材料を混錬する再生樹脂では、各材料の色が混ざることで色合いが白から遠ざかることもしばしば。そのため再生樹脂製品の多くでは、茶色などのカラーリングによってデザイン性を加えたり、“自然の風合い”と銘打つことでコンセプトを与えたりと、ひと工夫によって白以外の色味で製品化している例が多かったという。
しかし盆出さんをはじめとする開発チームでは、「泥臭くて地道な作業をコツコツと続けた」ことで、繊維を焦がさずに溶かして成形する独自技術を確立。植物由来樹脂を使用している製品でも、カラーラインナップに白色を残すことができたとする。
無論、掃除機は白でなければ売れない、というわけではない。しかし、盆出さんと同じく材料応用開発部にて課長職を務める具島豊治さんは、「やはり白が製品ラインナップに入っているか否かは、家電メーカーとして大きな違いです。白を好まれる顧客層は多数存在していることを考えると、品ぞろえに白があることの重要性は非常に大きいと捉えています」と話す。また白色にすることで当然手間はかかるものの、「調達部門をはじめとするさまざまな人の尽力もあって、コスト面での大きな影響は生じておらず、白色製品であっても販売価格を上乗せすることなどはせずに提供できている」とのことだ。
製品発売で感じた手ごたえと現実
こうした数多の試行錯誤が行われた中で、ようやくセルロース再生樹脂の実装が可能となったコードレススティック掃除機「MC-PB60J」(現在は販売終了)および「MC-PB61J」は、再生樹脂比率95%・バイオマス比率10%という高比率で新素材を採用した製品として発売された。同製品ではバイオマスマーク認定も取得しているといい、パナソニックとしての環境配慮の取り組みとして、ひとつの形になった。
しかし開発チームの面々からすると、まだまだ市場に大きなインパクトを与えたという手ごたえは得られていないという。盆出さんによれば「やはり家電製品の環境性能は“省エネ”という要素が大きな影響力を持つ」とのこと。確かに省エネ性能は、使用が長期間にわたるほど“電気代”として直接生活に影響を及ぼすことになる。それに比べると、原材料という側面での環境性能だけでは、インパクトが大きくなりにくいという。
「環境問題に詳しい人には価値が伝わる取り組みですが、掃除機のユーザーである一般消費者からすると、軽さや機能性など使い心地に関わる部分が重視されます。時間をかけて従来製品と同じレベルを実現した白の色味についても、いわば“マイナスをゼロにした”といった程度のインパクトのみ。バイオマス認証についても、それを理由に購入を決定する、といったほどの影響は感じられなかったのが正直なところです。」(盆出さん)
しかし、こうした取り組みを進めない訳には行かない。材料応用開発部の野末章浩さんは「我々としては、この掃除機のように環境に配慮していることがスタンダードだとされる時代にしていきたいし、それに備えて開発を続けていきたい」と語る。「理想を言えば、再生素材やバイオマス材を使用していることが“選ばれる理由”になるような付加価値がついてほしいです」とも話し、品質や使い心地を向上させたうえで、さらに環境性能が購入のきっかけになる将来を描いた。
メーカーとして社会変革の仕組み作りから先導
ただパナソニックとしては、市場が再生素材の価値を見出すのをただ待ち続けているわけではなく、そんな未来を引き寄せるための取り組みも進めていくという。
特に家電のリサイクルについては、大型家電と小型家電で法律が異なり、回収する事業者も異なるなど、制度としても改善の余地を残している。再生素材としての利用が可能な家電部品を確実に回収し、サーキュラーエコノミーの中に組み込める仕組みを社会システムとして構築できるよう、大手家電メーカーである同社としても社会的な潮流を生み出していきたいとしており、「“法規制に対応していればOK”ではなく、その一歩先で取り組みを進めていくことで、より良い仕組みへと業界を先導したい」と具島さんは話す。
また、再生樹脂の適用範囲拡大やさらなるバイオマス比率の向上など、材料としてのアップデートも当然続けていくとしており、大型家電など求められる材料物性が異なる領域については、セルロース以外の方策も検討しながら最適解を求めていく。
「投資家からの評価基準としても環境配慮の比重は大きくなっていますし、今の環境教育を受けたZ世代以降の人たちが消費者の多くを占める世代になることで、“環境配慮は当たり前”という時代になるだろうと考えています。今はまさにその移行期。まだ現時点では、環境性能が高い製品でもなるべく価格を抑える必要がありますが、これから時流が変わる中で、環境配慮の取り組みが一般的なものになっていくなかで、そこでの差別化に向けてやるべきことに取り組んでいきます。」(具島さん)
「もっともっといい再生素材が生まれるはず」
環境負荷低減に貢献する素材として、化石資源由来ではなくCO2排出量を低減させる“カーボンニュートラル”的選択肢のバイオマス素材と、再利用を繰り返すことで資源消費を減らす“サーキュラーエコノミー”的選択肢である高リサイクル性素材が存在する中、パナソニックが手掛けるセルロース再生樹脂は、両方の切り口から環境負荷低減に貢献できる期待の新材料だ。
ただこれまで述べてきた通り、まだまだ課題は山積み。特に、これからどんな速度で再生素材が普及するのかは未知数であり、安定した多くの需要が見込まれるまでは、セルロース再生樹脂に対するコスト要求も不安定で、開発現場としては“従来の原料と同等のコスト”を目指すほかない。
しかし今後、再生素材の付加価値が当たり前のものとして浸透すれば、開発の自由度も大きく広がる。入社後すぐに開発チームにジョインし3年目を迎えているという藤田紗江さんは、「開発の途中から参加した私から見ても、環境配慮の概念がもっと広く浸透しさえすれば、もっともっといい再生素材が生まれると思います。もちろんパナソニックだけではなく、いろんな企業の方々が取り組んでいるのは感じているし、それが社会に根付いていけばさらにいい開発ができるのではないかな、と思っています」と、将来への期待ものぞかせる。
野末さんは語る。
「我々が今、この素材の開発を一歩進めたからといって、明日すぐに気温が下がるわけではない。けれども長く続く将来を見据えて、ほんのわずかであっても力になれれば、次の世代がそれをつなぎ、そして世界的な動きになっていけばいい、と心から思います。」
今すぐに社会は変えられない。しかし、いつかは取り組まなければいけない。だからこそパナソニックは、日本を代表する家電メーカーとして、一足先に数多の難題にぶつかり、そして少しずつその答えを生み出すことで、未来の地球へと続く素材を世に届けている。






