千葉大学は12月17日、国土地理院が日本全国の約1300か所に設置している衛星測位システム(GNSS)による観測網「GEONET」を活用し、2011年の東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)の直後に発生した「電離圏擾乱」(CIDs)の三次元構造を再構築することに成功したと発表した。

同成果は、千葉大大学院 理学研究院の服部克巳教授、千葉大 国際高等研究基幹のSong Rui特任助教ら国際共同研究チームによるもの。詳細は、英科学誌「Nature」系のオンライン総合学術誌「Scientific Reports」に掲載された。

津波の早期警報の高度化にも期待

電離圏は、高度約60kmから約1000kmにわたって広がり、通信や側位に影響を与えるイオンと電子に満ちた領域だ。地震と電離圏は無関係に見えるが、急激な地殻変動や津波は、大気を介して上空の電離圏にCIDsを引き起こすことが知られている。

CIDsの観測は、従来はGNSS受信機ネットワークが捉えた「電離健全電子数」(TEC)データを用いた二次元的な解析が主流だった。しかし、水平方向の変化を捉えられても、高度方向の変化を直接推定するのは困難という課題があった。電離圏の三次元構造の解明は、地震-大気-電離圏の結合過程の理解に不可欠であり、特に津波に伴う「内部重力波」の評価において極めて重要だ。そこで研究チームは今回、高精度な三次元トモグラフィ技術に着目したという。

  • 従来の測定方法による二次元解析のイメージ

    従来の測定方法による二次元解析のイメージ(出所:千葉大プレスリリースPDF)

  • 三次元トモグラフィ技術による高度方向の推定の例

    三次元トモグラフィ技術による高度方向の推定の例(出所:千葉大プレスリリースPDF)

三次元トモグラフィとは、X線CTやMRIのように、人体や物体の内部の断面画像を再構成して立体的に可視化する技術だ。今回の研究では、GNSS衛星と受信機観測のTECデータを用いて、震央上空の超高層大気における電子密度変動の三次元構造を再構築するために用いられた。これにより、東日本大震災の直後に震央付近から発生したレイリー波、音波、重力波、そして津波に伴う内部重力波に関連した電子密度変動の三次元構造の精密な再構築が行われた。

今回の研究では、高精度な擾乱情報を得るため、三次元トモグラフィ技術に基づく可視化アルゴリズム「ICLSF」が開発された。同アルゴリズムは、電離圏背景モデルに依存しないため、高精度な三次元可視化を実現する。これにより、静穏時・擾乱時を問わず多様な電離圏不規則構造を高精度に把握することが可能だ。その結果、“レイリー波起因のCIDs”“震源由来の音響重力波”“津波由来の内部重力波”という、地震に伴う主要な3種の大気波動が、全く異なる垂直伝播特性を持つことが体系的に明らかにされた。

  • 地震に伴い発生する3種の大気波動の伝播特性

    地震に伴い発生するレイリー波、音波、内部重力波の3種の大気波動の伝播特性(出所:千葉大プレスリリースPDF)

今回の研究では、地震発生から約4分後に電離層に現れた音波パルスによる円形の擾乱を捉えることで、従来の二次元手法よりも6分早い検知に成功。三次元再構成技術が、地震による大気の応答をより早く捉えられることを実証した形だ。

さらに、音波の速度が高度により異なることや、地磁気の傾きが音波が上層大気に伝播するかどうかに影響することも発見された。また、地震発生から約40分後には、津波が引き起こした内部重力波が遠方で逆円錐状の擾乱を形成し、その位相が下向きに伝播していることも観測された。これは、大気重力波の物理的特性と一致する現象だといい、これらの微細構造がこれほど鮮明に三次元的に示された例は世界初となるとした。

現在日本では、津波の高さが3mを超える場合に「大津波警報」が発表される。今回の研究では、気象庁が報告する5地点(石巻・宮古・根室・えりも・久慈)の潮位計データを元に、3m級津波の到達時刻の分析が行われた。その結果、高度約190kmの電離圏における津波由来の内部重力波の発生が、沿岸への3m級津波の到達よりも最大29分早く検出可能であることが確認された。特に、震央から300km以上離れた場所に位置する根室、えりも、久慈では、津波到達の8~29分前に190kmの低高度の電離圏で検出されており、津波早期検知における有用性が実証された。

一方、震央距離が300km未満の石巻と宮古では、電離圏での検出が津波到達より7~9分遅れる傾向があり、近距離での迅速な検出には改善が必要なことも判明したとする。

今回の成果は、電離圏観測を用いた災害監視の新たな可能性を拓くものであり、研究チームは、大規模自然災害に対してより迅速で高度な観測・警報システムの実現に向けた基盤となるとした。

ただし、沿岸帯での迅速な検出には依然として課題が残る。この制約を克服するためには、高度100~130kmの電離層E層領域における高精度なCIDsの三次元情報の取得が不可欠となる。研究チームは今後、ICLSFアルゴリズムを改良し、イオノゾンデ観測や低軌道衛星のデータなどを統合してE層の観測精度を高める研究を重点的に進めるとしている。