名古屋大学(名大)と科学技術振興機構(JST)の両者は12月16日、金属3Dプリンタ技術の1つである「レーザー粉末床溶融結合(L-PBF)法」が生み出す非平衡なミクロ・ナノ組織の制御に向けた元素選択の考え方を提案し、それを基に、アルミニウム(Al)と鉄(Fe)を基本組成とする新合金を開発したと共同で発表した。

同成果は、名大大学院 工学研究科 材料デザイン工学専攻の高田尚記教授、同 キム・ダソム助教、同 工学研究科 物質プロセス工学専攻の小橋眞教授、同 鈴木飛鳥准教授、同 加藤正樹博士招へい教員(本務:あいち産業科学技術総合センター)らの共同研究チームによるもの。詳細は、英科学誌「Nature」系のオンライン科学誌「Nature Communications」に掲載された。

3Dプリンタ用素材の技術革新が加速!

L-PBF法は、従来の製造法では不可能な、三次元の複雑な形状の部材も製造可能である。その金属造形体は、レーザー照射後の冷却が1秒間に10万度以上もの速さで進み、急速に液体金属が固体化する「超急冷凝固」現象を通じて造られる点が特徴だ。

  • L-PBF法を用いて3Dプリントされた金属造形体

    L-PBF法と、同手法を用いて3Dプリントされた金属造形体(出所:共同プレスリリースPDF)

一般に、アルミニウムへの鉄の添加は素材を脆くし、大気中での劣化を促進するため避けられてきた。しかし、鉄を含んだアルミニウムの3Dプリンタ造形体は、平衡状態よりもはるかに高濃度の鉄を含む非平衡状態において微細な準安定相を持つ。この特性により、常温で比較的高い強度を有することが明らかにされている。

このような知識を活用し、未踏の物質探索空間であるアルミニウムと鉄などの遷移金属元素の組み合わせを利用し、3Dプリンタに適用する新たな材料設計原理の構築を目指しているのが研究チームだ。今回の研究では、L-PBFプロセスの素過程である急冷凝固に伴う固体と液体間の元素の移動の傾向に基づき、これまで開発してきたAl-Fe合金に添加する元素を選定したという。

添加元素の傾向は、凝固反応経路によって、包晶反応と共晶反応の2種類に大別できる。包晶反応型の元素は、固体/液体間にてα-Al母相(固相)に移動し、多量の合金元素を含む過飽和固溶体を形成してα-Al母相を強化する働きを持つ。一方、共晶反応型の元素は、固体/液体間にて液相に分配され、Al6M化合物相の構造を有する元素の場合、Al6Fe準安定相の相安定性・体積率を向上させ、材料を強化する。

  • 添加元素の役割の予測

    添加元素の役割の予測。Al-X2元系における凝固反応(共晶および包晶)と、α-Al母相に含むことができる最大の元素濃度(固溶限)が、周期表に基づいてまとめられている(出所:共同プレスリリースPDF)

この考えに基づき、α-Al母相を強化させる役割のチタン(Ti)と、Al6Fe準安定相による強化を促進する役割のマンガン(Mn)および銅(Cu)が、添加元素として選択された。そして、これらの元素を組み合わせたAl-Feを基本とする多元素を含む合金成分が、金属3Dプリンタにおける超急冷凝固を模擬した熱力学計算を用いて設計された。

実際に、Al-Fe-Cu、Al-Fe-Mn、Al-Fe-Tiの3成分系の合金粉末を用いて造形を行い、ミクロ・ナノ組織の観察が行われた。その結果、提案された考え方の有効性が実証されたのである。また、高強度アルミニウムは金属3Dプリンタでの製造は困難だが、設計合金は比較的幅広い製造条件で3Dプリントでき、優れた製造性が実験的に示されたとした。

さらに、高強度や高耐熱性を目指し、多元素の複合効果を意図したAl-Fe-Cu-Mn(共晶反応型元素の相乗効果)と、Al-Fe-Mn-Ti(共晶反応型と包晶反応型の元素の複合効果)の4成分の合金が設計された。特に、Al-Fe-Mn-Ti合金造形体において、共晶反応型のマンガン元素は準安定相の内部に存在し、包晶反応型のチタン元素はα-Al母相内部に存在することが確認された。これは、今回の研究の考え方に基づいて想定された、異なる役割の元素の複合効果を実証するものとした。

Al-Fe-Mn-Ti合金の3Dプリンタ造形体は、従来のアルミニウムと比べ、300℃の高温にて高強度を示すだけでなく、世界で開発されているほかのアルミニウムの3Dプリンタ造形体よりもはるかに優れた室温延性を有する。この優れた高温強度と室温延性は、高温で使用される構造材料としての高い信頼性を示すものだという。

  • Al-Fe-Mn-Ti合金のミクロ・ナノ組織の電子顕微鏡像とそれに対応する元素分布図、および高温強度と室温における引張延性

    (a)Al-Fe-Mn-Ti合金のミクロ・ナノ組織の電子顕微鏡像とそれに対応する元素分布図。(b)Al-Fe-Mn-Ti合金の300℃における高温強度と、室温における引張延性を、既存のL-PBF用アルミニウム合金と比較した図。横軸の値が大きいほど延性に優れることを示している(出所:共同プレスリリースPDF)

今回の成果は、金属3Dプリンタ技術が複雑な形の金属部材を造るだけでなく、素材にもたらす高機能・多機能性の制御指針を示すものだ。開発された高強度Al-Fe-Cu-Mn合金や高耐熱性Al-Fe-Mn-Ti合金は、輸送機器におけるさまざまな軽量・耐熱部材への適用が期待される。また、金属3Dプリンタ技術が生み出す非平衡なミクロ・ナノ組織を利用した材料の開発は、アルミニウムだけでなく、種々の金属にも応用可能だ。そのため、提案された考え方は他の金属にも適用でき、金属3Dプリンタに適用可能な新たな材料の開発を大きく加速させることが期待されるとしている。