
「日本全国にIT企業は数多くありますが、まだデザインの重要性を強く認識されている企業は、そこまで多くありません」と語る飯田氏。エンジニアフォ―スはシステム開発会社のDXを支援する企業。その強みは「デザイン力」。事業企画からデザイン、開発まで一気通貫で手掛けることができる。また、開発や提案に積極的にAIを活用するなど、新たな取り組みを進めている。
デザインに強いIT企業として
─ Engineerforce(エンジニアフォース)はシステム会社のDX支援などを手掛けているそうですが、現在自社をどのような企業だと定義していますか。
飯田 現在は「デザインが強いIT企業」と謳っています。IT企業は多くの場合、システムをつくるのは得意だけれどもデザインは苦手というケースが見られます。そこに当社がデザインに強く、かつシステム開発までできるということは、大きな特長だと考えています。
当社はミッションとして、SIer(システム開発会社)のDX支援を掲げています。創業時から、この課題感を持ってスタートしているのですが、最近は特にDXの中にデザインも含まれてきており、この改善に関するご要望を多くいただくようになっています。
─ UI(操作性)/UX(顧客体験)の改善の部分を手掛けていると。
飯田 そうです。例えば、当社のお客様にはAI(人工知能)関連事業で著名なパークシャテクノロジーさんや、pluszeroさんがおられます。いずれも製品をつくるのは得意ですが、デザインの部分を我々に任せていただくといった形になっています。
また、USENさんもお客様ですが、このケースでは新規事業の事業企画からデザイン、開発まで一気通貫で手掛けさせてもらっているんです。
─ 今後、さらに事業を拡大するにあたって、課題として捉えていることは?
飯田 日本全国にIT企業は数多くありますが、まだデザインの重要性を強く認識されている企業は、そこまで多くありません。逆に言えば、DXする余地が多くあるということですから、そこを我々が支援できるように実績を積み、アピールしていきたいと思っています。
─ ウェブサイトやアプリケーションを使いやすくする上で、デザインの重要度は高いということですね。
飯田 ええ。実は「人間中心設計」という考え方がUXデザインの中にあります。
例えば、人が画面を見る時に「戻る」ボタンがどこに配置されていると見やすい、押しやすいといったデザインがあるんです。1つひとつは非常に細かい部分ですが、お客様が迷わないような導線設計なども重要なポイントです。
そして、多くの人にとって新しいデザインは使いづらいと感じると思います。それは今まで使っていたものに慣れ親しんでいるからです。
しかし、それは単に慣れているから使いやすいという感覚に陥っているんです。新しいデザインでも、何となくここを押したら進むな、戻るなといったことがデザインでご理解いただくことができれば、使いやすいものになっていきます。そういった考えを持つことが、システム開発会社にとって非常に重要です。
─ 飯田さんたちは、デザインの重要性を含めて、顧客に提案しているということですね。実際に顧客の反応はどうですか。
飯田 これまでの経験から、トップティアと呼ばれる企業さんであればあるほど、デザインの重要性を意識しておられることを実感しています。
起業してからデザインに力を入れてきた背景には、その経験があります。トップティアがデザインに力を入れると2番手、3番手も追随してきますから、今後にも期待をしているところです。
AIはあくまでツール 「人」がどう使いこなすか
─ 全産業的にAIの存在は事業と切っても切り離せない状態になっていますが、どのように活用していますか。
飯田 大きく言えばデザイン、システム開発、どちらにもAIを活用しています。UIの部分なども、AIである程度のものをつくることができるので、提案の際に活用しています。
お客様とお打ち合わせする際、競合他社は見積もりや提案書を出すくらいなのですが、我々はデザインのイメージもつくった上で提案しています。「失注したら無駄じゃないですか?」と言われることもありますが、我々は敢えてやるんです。
─ この理由は何ですか。
飯田 AIが使いやすくなってきたことが大きいのですが、お客様、発注する側に、どのくらいのクオリティのものができるかがわかっていただくことができるのが大きいですね。
また、AIツールの発達によって、今までは要件定義まで自分で全て考えなければならなかったものが、今は60点、70点でもいち早く叩き台を出せるようになっています。それをベースに、我々の足りない観点やナレッジを付け足していくようにしていますから、開発工程の効率性が高くなっています。
─ AIはどこまで進展すると考えていますか。
飯田 私は、AIはツールでしかないと考えています。今、AIだけで完結できる世界になるのではないかとも言われますが、私はそうではないと思っています。
例えば電卓を使えば東京大学の入学試験が解けるかというと解けませんし、チャットGPTで出た解答が正解かは、前提知識がなければわかりません。
翻訳にしても英語であればツールを使うとある程度わかりますが、ドイツ語やタガログ語となった瞬間に、翻訳されたものが正しいのか、これで本当に契約できるのか、不安になります(笑)。
今、AIでエンジニアやデザイナーがいらなくなるといったことも言われますが、私は違うと思っています。むしろ基礎知識がなければ理解できない世界観になってくるのかなと思っています。
─ あくまでも「人」がどう使いこなせるかが大事だと。この先、どんな会社として成長していきたいと考えていますか。
飯田 「デザイン開発IT会社」という姿を世の中に発信していきたいと考えています。
大きく言えば、「第2のNTTデータグループ」になりたいと思っており、多くの人を採用して、会社を大きくしていきたいのです。なぜなら、人を抱えることで、できる仕事の幅が違ってくるからです。
IT業界はまだまだ課題が多いジャンルです。そこに我々が効率的にAIを活用したり、優れたデザインを提示することで、「エンジニアフォースみたいになりたい」と憧れられるような存在になっていければと思っています。
─ 経営者として、どんなスタイルで経営をしていますか。
飯田 私は現場が好きなので、現場と一緒に汗をかくスタイルかなと思っています。そして、私自身がいろいろなことを自分でできるようになりたいと思っているんです。
会社のメンバーに「この人すごいな」と思われるような人間、経営者であるために努力したいと思います。
一緒に起業できる仲間を探してシステム会社へ
─ 今回、「財界 BEST AI 100」に参画したわけですが、このコミュニティに期待することは何ですか。
飯田 我々はAIの時代において、UI/UXデザインは非常に重要だと思っています。今、AIを使いこなすことで、開発工数が早くなったり、既存のものと似たシステムを簡単につくることができるようになってきています。
しかし、その中で勝つプロダクト、負けるプロダクトが明確に分かれてくると見ています。そこで重要になるのがデザイン性、UXを突き詰められているかだと思います。
AIによる開発に長けているシステム開発会社が多い中、我々はデザイン性で力を発揮し、コミュニティの皆さんとともに業界を盛り上げていけたらと考えています。
─ これまでの歩みをお聞きしますが、大学卒業時に大手システム会社の富士ソフトを志望した動機は何でしたか。
飯田 私は高校生の時から、IT起業家になると決めていました。私の家は父、祖父、曽祖父、従兄弟と全員が歯科医なんです。ですから私も幼稚園の頃から「歯科医になります」と言い続けていました。
ところが、高校時代に理系科目ができないという現実に直面し、文系に進むか、理系に進むかという岐路に立たされたんです。その時に自分は本当に歯科医になりたいのだろうかということを含め、改めて人生を考えました。
そんな時に、ソフトバンク(現ソフトバンクグループ)の孫正義さんがプロ野球の球団を買収したり、堀江貴文さんが球団やテレビ局の買収に乗り出すといった動きがありました。特に孫さんの姿を見て憧れて、IT起業家になろうと決めました。
ですから就職活動でもIT企業に進みたいと考えました。中でも社員数が多い会社に入れば、一緒に起業してくれる仲間が見つかるのではないかと考えて、富士ソフトを志望しました。
「無駄な努力は一つもない」
─ 富士ソフトで学んだことはどんなことでしたか。
飯田 私は営業だったのですが、富士ソフトの営業は大きく、ルート営業的に固定のお客様を持つスタイルと、ソリューション営業といって新規で仕事を作り出すスタイルの2種類に分かれていました。ルート営業が9割、ソリューション営業が1割くらいの比率で、私はソリューション営業に配属されました。
新規開拓ですからダイレクトメールを送ったり、テレホンアポイントをしたり、自分で企画を持っていって案件を受注するといった活動をしていました。本当に難しい仕事でしたが、これがいい経験でした。
同期で飲み会をすると、先輩からアカウントを引き継いで毎月1億円売り上げている、数千万円受注したといった話をする人間がほとんどでしたが、私は30万円の売り上げすら立てられておらず、ゼロ円の月もあるくらいでした。
しかし、お金をいただくありがたみを実感できたということは非常に大きかったと思っているんです。
─ その後、フィンランドのIT企業、外資系に転じるわけですが、その理由は?
飯田 富士ソフトで5年ほど働いたのですが、ありがたいことに事業計画づくりに携わるなど、他の人にはない経験ができました。しかし、いつかは起業するつもりでしたから、別のIT企業でも仲間を探したいと考えて、外資系に移りました。
この企業では、日本企業とはまた違う営業担当者同士の競争の厳しさや、組織づくりの考え方を学ぶことができました。
─ 飯田さんが仕事をする上で信条にしていることを聞かせて下さい。
飯田 「無駄な努力は一つもない」という言葉が好きですね。アップル創業者のスティーブ・ジョブズがスタンフォード大学の卒業式のスピーチで言った「Connecting the dots」(点と点をつなげる)とも同じ考え方ですが、過去に頑張ってきたことは、全て今に生きると思っています。
先程お話した富士ソフトでの事業計画づくりも、本当はもっと役職が上の方がつくるようなものでしたから、最初は「何で自分が……」と思ったりもしましたし、ソリューション営業がうまくいっていない時には「同期が1億円と言っているのに自分は10円も稼げていない」という思いを抱いたりもしました。
しかし今となれば、それらの経験は会社を経営する上で事業計画づくりに役立っていますし、営業をする部分でも生きていますから、過去の努力は何一つ無駄じゃないということを実感しています。
AIを使ってデザインまで提案する今のやり方にしても、それで失注したとしても、次に生かすことができるポートフォリオになりますし、他社への提案でも実績として示すことができます。そうした全ての経験をこれからの経営に生かして、会社を成長させていきたいと思っています。