
新しい社会インフラには新しい哲学が必要
─ 澤田さんは京都哲学研究所の共同代表理事を務めていますが、設立の経緯を教えてください。
澤田 2019年にNTTでは「IOWN」という新しい情報通信の基盤構想を打ち出しました。これは非常に大容量で低遅延の通信を可能にすることに加えて電力使用量を大幅に減らすという特質があります。
今後AIが本格的に普及していくにつれ電力使用量が激増していくことが見込まれる中、IOWNの果たす役割は非常に大きくなっていくだろうと思っております。
─ 一方で技術の発展は負の側面をもたらすことは否定できません。
澤田 はい。現在のSNSもそうですが、AIの発展は、たとえば分断の問題などを助長しかねません。
そこで、IOWNでAIのインフラを支えていくNTTはこうした問題にどう向き合っていけば良いのか、19年に京都大学の当時の山極壽一総長に相談しました。その時に、西田哲学の継承者として出口康夫教授を紹介されたのです。
その際、出口先生からは「新しい社会インフラには新しい哲学が必要です」と言われました。それでは一緒に研究しませんかと提案して、共同研究がスタートしました。
─ それまで人文科学系の研究室と共同研究した例はあったのですか。
澤田 以前、国際大学グローバル・コミュニケーション・センター等と行ったことはありましたが、本格的な哲学領域と共同研究するのは初めてでした。
─ どういった成果が得られましたか。
澤田 出口先生は「Self-as-We」という概念を提唱されていました。これは平たく言うと「自分だけでは何もできない」という人間観に立った考えで、西洋哲学的な「Self-as-I」と対置される概念と言えます。
当時私はNTTの社長でしたので、こうした考えをサステナビリティ憲章に入れました。
こうした経緯があった上で、当時勃興期にあったAIの勉強会に私が関わっていたこともあり、23年、NTTと京都大学で研究所設立に至ったのです。
─ 出口先生は澤田さんと一緒に研究所の共同代表理事に就かれましたね。
澤田 はい。経団連でご一緒していた日立製作所の東原敏昭会長や、生活総合研究所を持っている博報堂の戸田裕一相談役、読売新聞グループ本社の山口寿一社長などの方々が理事に就いています。
─ 海外の大学や哲学者も名を連ねていまね。
澤田 24年2月、出口先生と2人でドイツ・ボンに行って、マルクス・ガブリエルさんに会ってきました。その際に彼が参加したいと言ってくれ、シニアグローバルアドバイザーに就任しました。