デル・テクノロジーズは12月11日、オンラインで2026年のテクノロジー業界予測に関するメディアブリーフィングを開催した。説明はDell Technologies グローバルCTO(最高技術責任者)&CAIO(最高AI責任者)のジョン・ローズ氏が行った。

  • Dell Technologies グローバルCTO(最高技術責任者)&CAIO(最高AI責任者)のジョン・ローズ氏

    Dell Technologies グローバルCTO(最高技術責任者)&CAIO(最高AI責任者)のジョン・ローズ氏

ローズ氏は2026年テクノロジー業界の予測を5つに加え、量子コンピュータについても言及。以下から予測を見ていこう。

2026年のAI戦略でガバナンスが最重要テーマに

最初の予測はガバナンスが最重要テーマになること。同氏は「昨年、私はエージェント型(Agentic)という言葉が2025年のキーワードになると予測したが、的中した。今年はガバナンスがより大きな役割を果たすと考えている」と話す。

同氏によると、理由は明確だという。AIはテクノロジーやユースケースだけでは成功は見込めず、企業、地域、国家レベルでAI戦略を運用する際に、規律とガバナンスがなければROI(投資利益率)や実質的な成果は得られない。

  • ガバナンスが最重要テーマになるという

    ガバナンスが最重要テーマになるという

ローズ氏は「数百人のCIO(最高情報責任者)やCAIOと話して分かったのは、迅速に前進するための最大の課題は、ガバナンス構造を確立すること。つまり、明確なルール、優先順位付け、無駄な取り組みを避ける仕組みが必要だ」と力を込める。2026年に顕著になるガバナンスの側面は「外部ガバナンス(政府規制)」と「内部ガバナンス(企業内統制)」の2つがあるとのこと。

同氏は外部ガバナンスについて「現在、当社のような企業は世界中で1000以上の政府機関から独自のAIポリシーを提示されている。これは持続不可能。規制は重要ではあるものの、断片的で統一されていないルールは有害だ。アジアは欧州などに比べて慎重だが、効率的で合理的なガバナンス枠組みを政府と企業が協力して構築する必要がある」と話す。

一方、内部ガバナンスに関しては「強固なガバナンスを持つ企業は、AI戦略の優先順位付けと実行が適切に行われ、ROIを達成している。当社や主要顧客の事例からも、テクノロジーやユースケース以上に重要なのは、混乱を排し、迅速にプロジェクトを本番稼働させるための枠組み」との認識をローズ氏は示している。

結果として、2026年にAIを加速させるために最も重要なのは、企業・政府双方で明確な運用ルールを確立することだという。

AI運用に不可欠なナレッジレイヤーの台頭

続いての予測はナレッジレイヤーの台頭。2025年はGPUの構築・展開、AI PCの開発などAIコンピュートに焦点が当たっていたが、AIを本番運用する際に必要なのはコンピュートのみならず、3つの要素が必要とのことだ。

1つ目はデータ(System of Record=SoR)で、ERP(企業資源計画)やCRM(顧客関係管理)などの基幹システムにあるデータはAIが直接利用するわけではない。AIはそれらを「ナレッジレイヤー」に変換する。

2つ目のナレッジレイヤーは単なるデータベースではなく、ベクトルDBやナレッジグラフなどを用いて、AIが利用可能な形式に変換するレイヤとなる。常に高負荷で稼働し、高度なストレージ性能が求められる。

そして、最後はプロセスとツールとしてナレッジレイヤーを正確かつアクセス可能にするため、データのクレンジングや変換、MCP(Model Context Protocol)などのプロトコル実装が必要となる。

  • AIによるイノベーションを加速するためにはデータマネジメントが必要だ

    AIによるイノベーションを加速するためにはデータマネジメントが必要だ

ローズ氏は「2026年には、AIコンピュートと基幹システムだけでは不十分で、明示的なナレッジレイヤーの構築が必須となる」と提言している。

自律型AIエージェントが変革する企業の働き方

次の予測は、2025年に予測したエージェント時代が本格化するが、現在のエージェントと呼ばれているものの多くは高度なチャットボットに過ぎないという。本質的な自律型エージェントは「LLM(大規模言語モデル)」「ナレッジグラフ」「MCP」「A2A(エージェント間通信)」の4要素を持つソフトウェアシステムとのこと。

  • 本質的な自律型エージェントに備わる4つの要素

    本質的な自律型エージェントに備わる4つの要素

LLMでコミュニケーションや推論を担い、ナレッジレイヤーにより企業固有の知識を取り込み、短期・長期記憶を保持する。また、外部との相互作用でMCPなどのプロトコルを介して外部データやツールにアクセスし、エージェント間通信ではチームとして協働し、企業や組織を超えて連携する。

同氏は「予測としては、エージェントが単なるツールではなく、組織の働き方そのものを変えるということ。人と機械の協調、スキルの増幅、未着手だった業務の自動化など、想定外の変化が起こる」との見立てだ。

AIファクトリーに求められるレジリエンス再設計

4つ目の予測はAIファクトリーのレジリエンス再設計だ。現在、世界で3000以上の企業がAIを本番導入しているが、AIファクトリーのレジリエンス設計は未成熟だと指摘。

従来のデータセンターのように単純な複製を作るのは非効率で高コストとなっていることから、2026年にはCSP(クラウドサービスプロバイダー)、ソブリンインフラ、エッジ、仮想化、自動化、さらにはAIを活用した新しいレジリエンスアーキテクチャが必要になるという。

  • AIファクトリーのレジリエンスを再設計する必要がある

    AIファクトリーのレジリエンスを再設計する必要がある

また、AI化が進むと、レジリエンスを確保すべき対象は縮小するとのこと。例えば、同社では営業チームが「Dell Sales Chat」という単一インタフェースを使い、営業業務が集約されている。そのため、システム障害やトラブルが起きても、インタフェースさえ正常に動作していれば、営業活動は継続できるという。

ソブリンAIの重要性と役割拡大

最後の予測はソブリンAI(国家主権を重視したAI運用)の役割が拡大することについて。各国でソブリンAIの議論は進んでいるが、政府サービスや大規模モデル学習だけでないという。

ロボティクス(防衛・医療など国家戦略領域)、エージェントの認証・リーシング、レジリエンス確保、モデルのファインチューニング、国際的なエージェント協働ゾーンの分野で重要性が増すことを見込んでいる。

  • ソブリンAIの役割が拡大するという

    ソブリンAIの役割が拡大するという

ローズ氏は「国境を越えたデータ移転やクラウド依存は、プライバシーや安全保障のリスクを伴う。ソブリンAIは、国内でデータを保持・処理することで、法規制や倫理基準を遵守しながらAIを活用できる。基盤が国外にあることはリスク。ソブリンAIは、こうした重要領域のAI運用を国内インフラで保証する」と述べている。

一方、量子コンピュータに関しては、Quantinuumが98量子ビットの完全エラー訂正システムの発表、IBMが120量子ビット超を達成するなど、確実に前進しているという。

同氏は「アルゴリズムの最適化により、必要なゲート数が劇的に減少している。2026年に量子による大規模なAI破壊は起きないが、注視すべき領域。特にシンガポールやオーストラリアなど、アジアでの進展は顕著だ」との見解を示していた。