三菱電機は12月10日、生産設備の機器の劣化を少量の学習データで高精度に推定できるという物理モデル組み込みAI(人工知能)を開発発表。産業機器やロボットなどの実機での実証評価に取り組み、2027年度以降の製品適用に向けた検討を進めていく。

  • 従来の劣化推定(左)と、物理モデル組み込みAI(右)の比較

    従来の劣化推定(左)と、物理モデル組み込みAI(右)の比較

この組み込みAIは、三菱電機のAI技術ブランド「Maisart」(マイサート)のうち、物理空間での信頼性・安全性を重視した「Neuro-Physical AI」の開発成果。この技術により、部品交換の低減や、機器重大故障の抑制などを実現し、製造現場における設備保守コストの削減、生産性・品質の維持に寄与するとしている。

三菱電機と米国現地法人・Mitsubishi Electric Research Laboratoriesは、機器の物理モデルの理論式を用いて、あらかじめ対象機器の挙動や特性を学習したAIを構築。このAIに、設計仕様に反映されない個体差や環境条件を実測データから追加学習させるだけで、個体ごとの変動を推定する技術を開発した。

追加学習は物理モデルの補正のみを目的とするため、少量の実測データで対応可能としている。三菱電機の産業用ロボットを用いた実証では、従来手法と比べて学習データを約90%も削減しながら推定誤差を維持できたとする。

学習データに含まれない変動が生じた場合も、物理モデルを用いて変動時の機器の特性を推定できるため、劣化推定の高精度化につながる。同社が行った実証では、ほぼ全件を正しく分類でき、従来手法より高精度に劣化推定が出来ることを確認したという。

AI に物理モデルを組み込む場合、従来は物理モデルと実測データのパラメータの重みづけが固定的で、対象機器や使用環境に応じた最適化が難しいという課題があった。今回の技術では、AIによるパラメータの動的調整を可能とし、 推定の高精度化と利便性向上の両立を追求した点を特徴としている。

日本の製造業では生産設備の高度化が進む一方、少子高齢化などを背景に、設備保全を担う熟練技術者の数が減少している。劣化した機器を使い続けると、設備自体の故障や製品の不具合を引き起こす恐れがあるため、 事前に劣化を推定し、適切な対応につなげる予防保全のニーズが高まっている。

従来の予防保全は、 機器の挙動を数式やシミュレーションで再現し、その結果を基に劣化を推定する方法が一般的だった。しかし、物理知識を持つ専門家が劣化判定の仕組みをいちから設計する必要があるため、多大な時間と労力を要する点が大きな課題だ。

この課題を解決する手段として、事前に運転データなどを用いて学習したAIを劣化推定に活用する動きが進んでいるものの、従来の技術で運転パターンや個体差、設置環境などの条件の組み合わせを考慮した網羅的な学習を行うためには、膨大なデータが必要となる。さらに条件が変わるたびに再学習を要するため、実用化には依然として課題が残っていた。