≪広告業から脱皮し、新たな産業モデル創出に挑戦!≫ 博報堂DYホールディングス社長・西山泰央「産官学民連携で新たな産業を創出し、社会課題の解決を図っていきたい」

社長就任の抱負

 ─ 西山さんは今年6月社長に就任しましたが、今後の経営の舵取りについて、抱負を聞かせてくれませんか。

 西山 当社は広告代理業として100年以上の歴史があり、広告のコミッションを中心に発展してきました。その中で、クライアントの課題に対し1つ1つ誠実に向き合って解決をしてきたことが私たちの礎です。

 しかしいま、社会構造も産業構造も大きく変化しています。従来の延長線上ではなく、発想そのものを上位概念へとシフトさせることが求められています。

 広告という手段にとどまらず、生活者・企業・社会の関係性をどう再設計するか。その新しい次元での価値創造こそ、これからの時代における私たちの責任だと考えています。

 私はこの変化をフルモデルチェンジのチャンスと捉えています。これまでの成功体験に捉われることなく、新しい価値を生み出すために1つ1つの挑戦に緊張感を持って社長業に臨んでいます。

 ─ 西山さんが入社したのは1989年(平成元年)ですが、このときも大きな時代の転換期でしたね。

 西山 そうですね。まさにバブルの末期で、日本がジャパンアズナンバーワンと言われた時代でした。世界中で日本企業が誇りを持ち、積極的に投資し、拡大していたタイミングでもありました。

 私は、当時、日本企業のプライドと、それを支えるマーケティングの力に非常に関心がありました。ですから広告業界に入ったというより、企業の成長を支える仕事に携わりたいという意識が非常に強かったです。これまで本当に多様なマーケティングサポートの経験をさせていただき、クライアントとともに考え行動しながら自分も成長してきたと考えています。

 ─ 業界自体が再編の時代に突入する中で、今後どういったことを核にしていきますか。

 西山 これまで築いてきた広告業という基盤を生かしながらも、その発想を社会全体の課題解決に広げることを意識しています。

 1981年にできた「博報堂生活総合研究所」は消費者を単なる購買者と見るのではなくて、24時間365日、主体的に行動する生活者として見つめてきました。

 この生活者発想こそ、まさにAI時代に人間の価値を問い直す上での普遍的な視点だと考えています。

 生活者を理解することは、社会を理解することでもあります。急速な変化の中で、普遍的なものと、大きく変化していくものを見極め活用していく視点をもつことが重要だと考えています。

 私たちはその知見を活かし、産官学のあらゆるパートナーの方々の知識とノウハウを結集し、社会課題に向き合いながら、新たな仕組みや事業、産業モデルをどんどん創出していきたいと考えています。それによって生活者が、50年後、100年後も安心できるような世界をつくることができればとも思います。

 ─ そうすると、今後はいわゆる社会課題解決型に向かうということになりますか。

 西山 1つの柱としてはおっしゃる通りです。一昨年、当社のグループのパーパスを策定する際に、5000名以上の生活者の意識調査を行いました。そして現在の社会環境の変化の中で、閉塞感を感じている方々が世代を問わず多くいらっしゃるということがわかりました。

 時代の激動期で良い産業もあれば厳しい産業もあると思いますが、社会を支えている生活者の方々に、なかなか希望の未来像が描きづらい状況というのは社会全体の課題です。

 だからこそ私たちは、「希望の物語(ナラティブ)」をもう一度社内に取り戻すことを使命だと思っています。

広告を超えて、価値を共につくる

 ─ 広告業界は事業モデルの転換期ですが、今後の方向性を話してくれませんか。

 西山 博報堂DYループが進めている中期経営計画では、従来の広告会社という枠を超え、「クリエイティビティ・プラットフォーム」へと進化することを明確に掲げています。

 これまでは「何を伝えるか」が中心でしたが、これからは「どのように価値をつくるか」、そしてその価値を「社会・生活者とともにどう実装するか」という上位概念へと視点が移っています。

 具体的には、6つの事業領域を設定しています。従来のマーケティング領域業務自体は、もちろんAIも駆使しながら進化をさせていくというのは当然ですが、成長領域としてコンサルティング領域などを設定し、事業構造を再構築していきます。

 コンサルティング領域でいうと、私たちはこれまで、多くのブランディングや、マーケティングに携わらせていただいてきましたが、生活者発想で世の中を捉えてきた私たちならではのバックボーンがあるからこそ、コンサルティング会社やシンクタンクとは異なる「文化と生活を理解した変革」のアプローチができると思っているんです。

 また、これまで培ってきた知見や経験を手放すのではなく、その上に新しい価値レイヤーを重ね、スタートアップや大企業のリソースも駆使しながら、新たな事業を起こしていくことにも力を入れていきます。

 ─ ベンチャーキャピタル的な機能もあると。

 西山 はい。資本を「投資」としてではなく、「共創のエネルギー」として活かすことが重要だと考えています。

 スタートアップや大企業、行政、大学などが持つ強みを束ねて、社会課題の解決という共通の目的に向かって、必要な資本・知見・ネットワークを媒介し、協働の場を整えるのは私たちが得意な分野です。資本の理論とテクノロジーの力を社会的な文脈で組み合わせると、単なる出資や事業開発を超えて、共通の価値観を中心に据えた「共創の生態系」が生まれます。私たちにとっての資本とは、誰かの可能性に寄り添い、共に成長を描くための結びの力になるのです。

産業を生み出し、地方創生を!

 ─ 日本の課題の1つに人口減、少子高齢化という問題があります。この中で、御社の果たすべき使命、役割をどうとらえていますか。

 西山 1つ1つ生活者に手応えのある、地域に根差した「小さな成功体験」を積み重ねていくことからまずは始めなければいけないと思っています。大きな理想を掲げるよりも、現場で確かな成果を生み出す。その積み重ねが、やがて社会全体を変える力になると考えています。

 例えば、交通手段が限られた過疎の地方において、自治体と住民が協力し、近隣の方々が乗り合いで移動できるようマッチングのプラットフォームを整えました。

 これは単に移動の問題を解決しただけではなくて、地域の人々のつながりを取り戻すための試みでもあります。高齢者が外出できるようになると、買い物や診療所の利用が増え、地方経済活性化にもつながります。「移動の再設計」は、人の尊厳や幸福といった課題に直結すると感じています。

 ─ 自治体からの相談は結構来ますか。

 西山 非常に多いですね。地域によって課題の内容は様々ですが、共通しているのは「人が減る」「産業が続かない」「移動ができない」という現実への危機感です。

 現場の行政の方々は、本当に地域を良くしたいという強い思いを持っています。私たちはその思いを出発点に、どのような仕組みや連携があれば持続的な改善ができるかを一緒に考えています。

 地方創生の本質は「他者支援」ではなく「自走支援」にあると考えています。地域の人々が自ら考え、選び、行動できるようになることが最も重要です。そこに私たちの知見や仕組みが重なり、地域の文化・産業・暮らしが一体で再生していく、その構造をつくることが、私たちの使命です。

 こうした取り組みでは、自治体職員、地元企業、住民、そして私たちの社員が1つのチームとなって動きます。そこでは「誰がリーダーか」よりも、「何を大切にするか」が重視されます。ここに博報堂DYグループの持つ生活者発想が大きな武器になります。生活者の行動や心理を丁寧に見つめることで、経済や行政の仕組みだけでは拾いきれない課題を発見できる。課題の真ん中に「人」を据えることで信頼を生み、その信頼が紡がれていく。こうした連鎖を広げていくことが、当社グループとしての使命だと感じています。

 例えば休耕地を活用して畑を作り、ブドウの苗を植えてブドウ酒造りを始めるなど、地域の文化や自然資源を軸にしたビジネスモデルにチャレンジしています。地方に大きな資本が入っていって大きく変えるということではなく、地方の雇用とリソースを生かし「自分たちの未来は自分たちでつくる」という持続可能な産業を創出することです。

 こうした成功例を多数つくっていくことで、地方創生は単なる経済施策ではなく、文化と誇りの再生へと変わっていきます。うまくいったモデルは構造化し、他の地域にも展開できる形にしていく。そうすることで、全国的な課題解決力の底上げにも貢献できると感じています。

産・学の知恵を持ち寄って…

 ─ 具体的に新しい産業はどういったものが生まれているんですか。

 西山 今年4月にppi(プラネタリー・プラットフォーマーズ・イニシアチブ)という一般社団法人を立ち上げました。まさに社会課題に向き合っている経営者、大学の先生方の知恵を集結し、多様な人々が対等な立場で集まり、課題を共有しながら実装に向かって進めている共創プラットフォームです。

 1つの大きなストーリーを組んで融合させると、まさに社会インフラ、OSを改革できるようなモデルにできるという手応えを感じています。

 ─ 組み合わせることで連鎖的に社会課題を解決していくことが可能だと。

 西山 そうなんです。こうした連携は単なる技術融合ではなく、「地球のOSをアップデートする」という共通の意思がつなぐ共創です。それぞれの知や技術が重なり合うことで、社会の仕組みそのものを変えていく力になると感じます。

 PPIの活動を通して改めて感じるのは、異なる領域の知が出会うとき、社会は進化するということです。分野も規模も異なる人々が思いを重ね、動き始めることで、既存の産業の枠を越えた協働が生まれる。そこにあるのは、競争ではなく、共感から生まれる創造の連鎖です。私たちはその可能性を形にし続けたいと考えています。

 ─ 顧客の持つ資源を重ねて融合させると。

 西山 はい。世界はますます複雑化し、予測困難な時代にあります。だからこそ異なる分野や文化、技術を結びつける力が求められています。

 立場の違いを超えて協働し、社会の中に新しい調和点を見い出す。そのプロセスこそが、当社グループにおけるクリエイティビティの原点だと思います。

 ─ まさにオーケストレーションとしての役割ですね。

 西山 はい。大学の先生方や企業の経営者の方々と集まって話をしていると、すごく盛り上がるんです。盛り上がるだけでなく、なにか一緒にできることがあるよねと、その場でどんどん解決策が紡がれていきます。それをわれわれがうまく可視化して実体化していく。

 皆のアイディアや価値の可視化はすごく大事な技術で、それは当社が非常に得意な領域。熱量を形に変え、実装へと導いていくこと。そこに、希望の連鎖が生まれます。

 日本には、まだ世界に知られていない叡智や技術が数多くあります。それらを見出し、結び、伝えていく。その営みの積み重ねが、社会全体の希望を再び灯す「ナラティブ」になると信じています。この「ナラティブ」とは、単なる物語ではなく、社会全体で未来を紡ぐための共感の力だと思います。テクノロジーがいかに進化しても、最後に人の心を動かせるのは人です。

 私たちはこれからも、広告の枠を超え、社会の希望を紡ぐ物語を、多様な仲間とともに描き続けていきたいと考えています。