琉球大学は11月27日、石垣島沖のわずかな光のみが届く「トワイライトゾーン」と呼ばれる深度の海域から「ヤツシハゼ」(Vanderhorstia)の仲間であるハゼ科魚類の新種を発見したことを発表した。

  • 新種記載されたエレキハゼ

    今回の研究で新種記載されたエレキハゼ。「ドラゴンボール」のスーパーサイヤ人を彷彿とさせる外見から、学名は「Vanderhorstia supersaiyan」と命名された(出所:琉球大プレスリリースPDF)

この新種は、ヒレに鮮やかな黄色の帯が体を取り囲むように存在しており、その極めて特徴的な体色が人気漫画・アニメ「ドラゴンボール」に登場するスーパーサイヤ人を彷彿とさせることから、学名を「Vanderhorstia supersaiyan(ヴァンダーホルスティア・スーパーサイヤン)」と命名し、さらにヒレの模様はバリバリとほとばしる電気も彷彿とさせることから、標準和名として「エレキハゼ」を提唱したことも併せて発表した。

同成果は、琉球大 理学部 海洋自然科学科 生物系の小枝圭太助教、同・佐藤真央 産学連携研究員、黒潮生物研究所兼生物系フリーライターの平坂寛氏らの研究チームによるもの。詳細は、日本魚類学会の機関学術誌「Ichthyological Research」に掲載された。

和名は「エレキハゼ」を提唱 - その特徴とは?

沖縄島および八重山諸島近海の水深100~300m帯には、わずかに陽光が届くトワイライトゾーンが広がる。沖縄県ではトロール漁業が行われていないことから、この海域の「魚類相」(そこに生息する魚類の種類と構成)については不明な点が多い。そうした中で、近年はこの海域から新種や希少種の発見が相次いでいる。

沖縄のトワイライトゾーンの魚類の多様性を明らかにするため、琉球大の小枝助教と平坂氏はこれまで共同調査を進めてきた。その結果、2022年に平坂氏が石垣島沖のトワイライトゾーンで釣り調査を実施した際、鮮やかな色のハゼの仲間を釣り上げることに成功したとのこと。直ちに画像が小枝助教に送信され、調査の結果、ヤツシハゼ属の新種の可能性が高いことが判明した。釣り上げられた魚はその日のうちに琉球大に持ち込まれて研究用標本とされたといい、今般研究チームは本格的な研究を始めたという。

石垣島沖から得られた標本と、これまで知られているヤツシハゼ属33種すべてとの比較が慎重に行われた。その結果、この個体は既存の33種と明瞭に異なる新種であることが突き止められた。この個体の最大の特徴は、ヒレに体を取り囲むようにして鮮やかな黄色の帯があることだ。これは、ヤツシハゼ属のどの種とも明瞭に異なる特徴である。加えて、頭部や体の背面に黄色い斑紋がある点、第1背ビレに鮮やかな黄色い斑紋があり外縁も黄色い点、体側に4つのダイヤモンド型の黄褐色の斑紋があることなども他の種にはない特徴だ。さらに各部位のウロコの枚数や長さといった形態的な特徴も、他の種と異なっていた。

新種を記載する際には、世界共通の呼称である“学名”を新たに提唱する必要がある。石垣島から得られた標本は、ヤツシハゼの仲間でありつつ、その特徴的なヒレの模様が「ドラゴンボール」に登場するスーパーサイヤ人を彷彿とさせることから、「Vanderhorstia supersaiyan」と命名された。また、この魚には標準和名もなかったため、スーパーサイヤ人とは別に、特徴的なヒレの模様が体からバリバリと放電している様子を彷彿とさせることから「エレキハゼ」と提唱された。

  • 採集された直後の様子

    採集された直後。ヒレの模様が、スーパーサイヤ人を彷彿とさせると同時に、電気がバリバリと放電しているようなイメージもあることから、標準和名は「エレキハゼ」が提唱された(出所:琉球大プレスリリースPDF)

今回発見されたエレキハゼのような特徴的な色彩を持った魚でさえ、これまで未発見だったことを考えると、沖縄のトワイライトゾーンには、いまだ未記載種や希少種が数多く生息している可能性が高いという。ちなみに未記載種とは、学術的に未発表な種のことであり、漁師やダイバーなどの目撃例があって地元や仲間内での通称などがあったとしても、研究者によって論文の形で発表されて初めて学術的には新種となる。そして今回の発見は、この環境での調査がいかに未発展かを浮き彫りにした成果だったともいえるとしている。