博報堂DYホールディングスは11月25日、2025年のAIトレンドの振り返りや今後の展望、生活者にとってのAIの変化を解説するプレス向けセミナーを開催。その中で、同社および博報堂が同日に開発を発表した、企業ブランドに“人格”を与えAIエージェント化することでブランドコミュニケーションを支援する「Branded AI Agent」についても説明した。

  • 「Branded AI Agent」の活用例である「tsubuchigAI」

    セミナー内で発表された「Branded AI Agent」の活用例である「tsubuchigAI」(提供:博報堂)

AIセミナーにはCAIOの森氏らが登壇

AIは、ビジネスシーンや日常生活などの場面を問わず活用され、もはや社会に不可欠な存在である。日々の暮らしの中でも一般的に活用されている一方で、現在では政府レベルでの検討も進んでおり、AIに関する基本計画作成に向けた機関として9月には「内閣府AI戦略専門調査会」が発足した。

今回のセミナーでは、博報堂DYホールディングスの執行役員 CAIO(最高AI責任者)を務め、このAI戦略専門調査会にも委員として参加する森正弥氏などが登壇。同氏が代表を務める、多数のAIモデル・ツールを手掛ける博報堂DYグループの先端研究開発組織「Human-Centered AI Institute」が行った「AIと暮らす未来の生活調査2025」での調査結果を基に、AIが生活者や企業、社会全体に与えている意識変化や、それによってもたらされた新たな行動様式などについて、グループとしての考察や2025年の振り返り、そして2026年以降への見通しが語られた。

  • 博報堂DYホールディングスの森正弥CAIO

    博報堂DYホールディングス 執行役員の森正弥CAIO

生成AIの認知度は8割以上も利用割合は3割強に

2024年に引き続いて行われた、AIと暮らす未来の生活調査は、広く大衆が利用できるプロダクトとして急速に普及が広がっているAIの現状について、生活者の視点からその普及度や活用の実態を把握するもの。全国の性別・年代構成比に合わせ、日本の“代表性”を担保した形で行う予備調査と、AI利用者に焦点を当てその利用シーンや利用状況を深掘りする本調査の2段階にわたって行われ、今回の予備調査では約3万人が対象とされた。

予備調査において、生成AIを利用していたのは33.6%という結果に。一方で、利用はしていないながら生成AIを認知している層は51.7%で、生成AI自体を認知している割合は85%を超えるまでになった。また生成AI利用者に対し、その利用目的を調査したところ、ビジネス利用とプライベート利用とでは後者が2倍の割合を占めることが明らかになったといい、登壇したHuman-Centered AI Institute 室長補佐の西村啓太主席研究員は、調査前の予想と異なる意外な結果が得られたとした。

  • 生成AIの認知度調査

    生成AIの認知度調査結果(提供:博報堂)

  • プライベート・ビジネス・学業での利用割合

    プライベート・ビジネス・学業での利用割合の分布(提供:博報堂)

またこのほかにも、生成AIを利用する頻度やシーン、得られた情報に対する信頼性などに関する調査結果も公開。ビジネスシーンにおいては、徐々にAIツールの利用が広がっている一方で、その領域は単一タスクに留まっているケースが多く、またリテラシー面での課題を残すことなどが推測されたとする。対して日常生活の中では、購買行動に至る直前までの情報収集や比較などにおいてAIの存在が増していることについても解説。一方で生活者の間では、“感情のよりどころ”となる相談相手としての生成AIの活用も多くの割合を占めるといい、その要因について探るとともに、AIを利用する生活者にとって“AIが主体”と“人間が主体”ではどちらが好ましいのか、なども考察された。これらを経て導き出された洞察については、また別の機会に詳述する。

  • Human-Centered AI Institute 室長補佐の西村啓太主席研究員

    調査結果や考察について語ったHuman-Centered AI Institute 室長補佐の西村啓太主席研究員

「AIエージェント元年」から「フィジカルAI時代」へ

社会に対する調査結果の紹介に続いては、森氏による2025年のAI技術ロードマップと、2026年以降に見込まれるAIの進化の道筋に関する解説が行われた。

森氏によれば、2025年は「AIエージェント元年」。既存の知識を基に新たな判断を創出する「推論モデル」と、文字や音声、画像などを跨いで生成する「マルチモーダル」技術が発達したことにより、AIエージェントの可能性は一気に拡大したといい、そうした技術が各企業の現場志向と合致し、AIモデルの組み込みや実用など社会実装の動きが本格化した。またデジタルヒューマン(AIアバター)やAI駆動開発など、想定されていなかった領域でも生成AIの活用が広がっているとする。

そして2026年は、AIエージェントの性能向上とデジタルヒューマンの本格登場に加え、ロボティクスと融合した“フィジカルAI”や、相互作用によって世界がどのようなものかを理解する“世界モデル”の開発が進むと森氏は推測。しかし世界モデルの開発にはまだほど遠いのが現状だといい、加えて各現場でのAI実装における効率面での課題も一定数表出することで、AIの導入・活用・実装アプローチの再設計が求められる可能性が高いとした。

  • 森氏が推測するAI開発ロードマップ

    2025年(左側)から2026年以降(右側)にかけてのAI開発ロードマップ(提供:博報堂)

また森氏が懸念のひとつにあげたのが、AI活用による個人能力の低下だ。4月に発表された論文では、AIによるアウトプットをただ活用していた知識労働者に、認知能力と自信が減少していく傾向が見られたことが発表されたとのこと。またAIによるアウトプットが増加し続けることで、“均質化社会”が到来するという脅威も考えられるとする。

そんな未来を避けるために森氏が重要としたのが、AIによる創造性の拡張(Augmentation)。効率化・自動化を行うだけでなく、社員などメンバーが本来有している創造性をAIで引き出すことが最大の成果につながるとすると同時に、なぜAIを使って創造に繋げているのか、という“大志”(Aspiration)を自動化・創造性の拡張と組み合わせることが、今後のAI利用では重要になるとした。

  • 理想的なAI開発の未来の3軸

    理想的なAI開発の未来の3軸(提供:博報堂)

新発表のAIエージェント「tsubuchigAI」って?

そしてセミナー後半では、博報堂DYグループを横断して結集されたAI関連の人材や知見などのリソースにより、企業のマーケティングや事業成長を総合的に支援する専門チームとして11月18日に創設が発表された「Human-Centered AI Professionals」の活動の中で生まれた、数々のAIツールについて紹介された。その中で11月25日に発表されたのが、ブランドコミュニケーション支援を行うAIエージェント「Branded AI Agent」だ。

社会が均質化しかねないAI時代、さらに生成AIやさまざまなSNSなどの普及によって情報との接点が莫大なものとなった現代においては、ブランドデザインの同質化・没個性化が課題視されている。そんな中で必要とされる戦略について、博報堂は、「対話」でつながる動的なブランディングだと推察。そして、企業ブランドに“人格”を与えることで、その想いを宿したクリエイティブな対話を可能にしたAIエージェントの開発を行ったとする。

  • ブランディング手法の変遷と未来

    ブランディング手法の変遷と未来(提供:博報堂)

このBranded AI Agentを活用した事例として、博報堂 生活者エクスペリエンスクリエイティブ局 エクスぺリエンスプラナーの中島優人氏は、“粒ぞろいより、粒違い”という同社のカルチャーに根差した対話AIプロトタイプ「tsubuchigAI」を紹介した。

このtsubuchigAIは、“一緒に対話したくなる存在”を目指した開発により、博報堂が培ってきたブランディングの知見や生活者発想を掛け合わせたプロンプトエンジニアリング技術や対話ロジックを用いて実現された。その中には、さまざまな興味やバックボーン、興味を抱える個性豊かなAIの卵たちが存在していて、そのAIどうしがクリエイティブな対話を行うことで、新たな可能性や欲求への気付きを促すという。

  • tsubuchigAIに存在するAIの卵

    tsubuchigAIに存在する個性豊かな“AIの卵”(提供:博報堂)

中島氏は、こうした対話したくなるコミュニケーションAIからの視点と、ブランドの想いを起点にとするブランディングAIを掛け合わせることで、「そのブランディングとの対話体験を提供するAI」を作っていきたいと話す。これにより、もはや完全な形での保存・継承が難しくなっていたブランディングポリシーなどをAIに集約し、そして自律的なコミュニケーションによって新たなエッセンスを得ていくことで、「新たなブランディクリエイティブの形ができるのではないか」と語った。

なおセミナーではこのほかにも、社会を構成するさまざまなペルソナを再現し、その対話を通じて共創に繋げていくことができる「バーチャル生活者」など、社内外で活用が進むAIエージェントの現在地が紹介された。