国が2022年12月にデジタル田園都市国家構想総合戦略を閣議決定してからまもなく3年。この間、地方自治体のDX(デジタルトランスフォーメーション)はどのように進み、またどういった課題に直面しているのだろうか。

そんな中でKDDIは、行政のDX推進に向けた包括連携協定を自治体と締結し、社員を派遣して、デジタル技術を活用した市民サービス向上・情報格差是正・地域活性化などに取り組んでいる。本記事では、2024年10月に協定を締結した鹿児島県志布志市と北海道南富良野町の両市町に出向する2人の社員に、1年を経過した取り組みの現在地と成果、課題を振り返っていただいた。

志布志市・南富良野町が直面するデジタル化の悩み

志布志市に出向する稲留和紀氏はもともと社内情報システムの開発や監査を担当、南富良野町の及川永寿氏はauサービスの設計・開発やインフラ構築に携わってきた経歴を持ち、デジタル技術に関して深い知見と経験を有する専門人材だ。ちなみにKDDIによる専門人材派遣は総務省の地域活性化起業人制度(企業派遣型)を活用したもので、両氏の派遣期間も同制度に基づき3年間となっている。

まずは稲留氏に、志布志市が抱える課題を聞いた。

「デジタル化自体は進んでいましたが、紙の申請書などが多く残り、職員の業務量が増えていたのは大きな課題でした。志布志市も少子高齢化・労働力減少が深刻ですので、デジタルによる業務効率化推進は喫緊のテーマになっていました」(稲留氏)

  • 稲留和紀氏

    志布志市に出向している稲留和紀氏

デジタルに慣れていない市民が多いことも課題だったという。商品券事業でデジタル商品券を導入したものの、7割の市民は従来の紙商品券を希望し、デジタル商品券は3割にとどまった。

「職員も市民も、デジタルが得意な人はデジタル化に積極対応しようとし、研修や市民向け教室にも参加してくれるのですが、不得意な人はそうはいかず、いわゆるデジタル格差の大きさには悩まされています」(稲留氏)

一方の及川氏はこう語る。

「南富良野町はそもそもデジタル化がほとんど進んでいませんでした。人口2000人強でありながら面積はかなり広く、集落が点在しているため、生活の場と行政サービスが離れているのが現状です。加えて高齢化も進展する状況下、可能な限りデジタル化し、市民の利便性を高めながら職員の業務効率化も推進しなければならない……という点に課題を感じていました」(及川氏)

  • 及川永寿氏

    南富良野町に出向している及川永寿氏

1年で生まれた成果と職員・住民からの声

志布志市は「第4次志布志市情報化計画」を、南富良野町は「南富良野町第6次総合計画」をいずれも2023年に策定し、さまざまな地域課題の解決に取り組んでいる。その中で両氏はこの1年、多様な取り組みを進めている。

稲留氏は市総合政策課のDX広報グループに所属し、職員と共に庁内及び市民サービスのデジタル化推進や業務改善を手掛ける。着任後は庁内のDX推進に向け全課職員にヒアリングを実施し、課題をまとめて施策を提案。加えて、職員向けのDX研修や地元商工会向けDXセミナーの講師を務めている。

及川氏は町の総務課で、DX計画策定や役場内のDX推進、通信環境調査・改善、デジタル人材育成を柱に取り組む。同じく職員へのヒアリングを行い、書類電子化といった各種デジタル化プロジェクトをリーダー役で管理・推進している。志布志市の場合はもともと骨組みとなる情報化計画が存在し、それを基にデジタル化を進めるイメージであるのに対し、南富良野町では及川氏が計画の策定自体から関わったことになる。

ここまで1年の成果について両氏は次のように語る。

「各課へのヒアリングでデジタル化できていない部分、効率化すべき業務の洗い出しはでき、今は市の情報化計画に基づき庁内デジタル化の施策を進めています。ただ、計画が作られたのが2022年で業務やITの現状と異なる部分が見えてきており、最新状況も反映する形で取り組んでいます。庁内では生成AI利活用などの研修も実施し、全体的な底上げは進んできました。職員から様々な相談を受け、それに対してデジタル化を提案する日々ですが、職員と一緒になってDXを推進している実感が強くありますね」(稲留氏)

  • 志布志市

    稲留氏の出向先である志布志市は、鹿児島県東部の大隅半島に位置する。「志布志市志布志町志布志」という特徴的な地名があることでも知られる

「まずは2025年度から3年間のDX推進計画を作成しました。その計画に基づき、副町長を委員長とするDX推進委員会や各課の担当者が連携して、役場内業務のDXと住民向けサービスのDXに取り組んでいます。今進んでいるのは住民向けDXで、各課に住民の困りごとをヒアリングし、それを基にデジタル化に着手しました。例えばインフルエンザワクチン接種のオンライン予約システムを作り、開始から2週間で町民2000余名のうち約150人が利用しています。町民からは“デジタル化をもっと進めてほしい”という声も聞いているので、手応えを感じています。私も志布志市と同様、職員と協力しながら各種業務のデジタル化にチャレンジしています」(及川氏)

南富良野町ではそのほか保育所の電話対応をWeb化するDXも進め、「業務時間にゆとりができた」と評価する声が聞こえているという。また志布志市でも、職員から「外部の視点が加わることで新しい問題点が見え、DX推進の方向性が見いだせた」といった声が出ているとのことだ。

デジタル格差解消とDX継続に向け取り組みは続く

すでに成果が出ている一方で、新たに見えてきた課題もある。及川氏は、施策の実行に伴う悩みを話す。

「町が抱える諸問題の解決に向けて優先順位をどう付けるか。また、優先順位が高いものでもコストがあまりに高いと進めることが難しいので、コストと効果のバランスを取り、合意を得ながら進めていくところが大きな課題です」(及川氏)

稲留氏はやはりデジタル格差の問題を挙げる。

「デジタルに関心がある職員は積極的に手を挙げ、システムも継続利用してくれるのですが、そうではない職員にも使ってもらうにはどうするか。また市民サービスでも、スマートフォンを持っていない人にデジタルサービスをどう提供していくか。こうした点で今後工夫していく必要があります。職員に寄り添いつつ、施策推進の意義もしっかり伝えながら進めているところです。加えて、私の任期終了後もデジタル化が継続していく仕組みづくりを考えていきたいと思います」(稲留氏)

デジタル格差や任期後の継承課題は及川氏も実感している。

「今デジタル化は課単位で進めているのですが、今後は成功体験を横展開し、“自分もやってみよう”という空気感を醸成していきたい。庁内チャットツールを導入し、各課職員が挙げた改善策を称賛する文化づくりに着手したほか、思いを伝えるため対面でのアプローチを大切にしています。また、私の後にも業務改善が自律的に進むように、あくまで“サポート”する立場で関わることを心がけています」(及川氏)

  • 南富良野町の町役場

    及川氏の出向先である南富良野町の町役場。同町の面積は東京23区より広い665平方キロメートルで、そこに約2,000人の住民が暮らしている

そうした中で、KDDIが提供できる最新ITのスキルやノウハウ、ソリューションは両市町のDXにすでに効果をもたらし、今後はさらに大きな成果を生むと予想される。志布志市では稲留氏の知見と経験が施策提案や事例共有、研修等で大いに活きている。また南富良野町では、PC等の端末と通信を一体化した「Connect IN」という法人向けサービスを導入し、外勤先からのリモート業務を可能にしたほか、面積が広い町で活躍するドローンの活用、及びKDDIグループ会社提供のドローン研修も実施している。

今後に向けて稲留氏は「市役所内のDX推進の好事例を発表し、さらなる底上げを図るとともに、“書かない窓口・行かない窓口”の展開に向けてシステム導入を広げていきたい」と話す。また及川氏は「職員と住民に実施するアンケートをもとに施策を考え、電子申請可能な業務をさらに増やしていきたい。併せて、衛星とスマートフォンを直接接続するサービスを活用し、森林地帯が9割を占める町で通信環境改善と業務効率化を進めたい」と語った。KDDIの行政DX推進にまつわる専門人材派遣は現在9自治体に広がっている。その取り組みの今後に注視したい。